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「いまだに、町長と呼ばれることに慣れていないんですよ」

 

今年7月9日、桑原悠さん(32)は31歳の若さで、生まれ育った新潟県中魚沼郡津南町の6代目町長に就任した。財政難や少子化、過疎高齢化など問題が山積する町で、「このままでは(町が消滅していくのに)間に合わない」と危機感を訴えたのが支持されての当選だった。

 

養豚農家の隆宏さんと結婚した悠さんは、夫の祖父母と両親、夫婦と2人の子どもの、4世代8人同居の大家族で暮らしている。実家から徒歩1分の近さだ。悠さんは、実家と嫁ぎ先それぞれの家族に支えられ、ごく自然に仕事と子育てを両立させている。

 

町長に立候補したときは、「3歳と2歳の子どもがいるのに大丈夫なのか」と、家族はもとより町の人たちからも「子どもはどうするの?」「子育て終えてからにしなさいよ」「あんた、勘違いしてるんじゃないの」――と猛反対された。

 

しかし、悠さんの考え方は違った。

 

「子どもをないがしろにする気なんて毛頭ありません。いまの時代、フルタイムで働くママはどんどん増えていって、むしろそれが当たり前にならないといけない。うちには、子どもの面倒を見ることのできる大人が6人もいます。実家もすぐ近くにある。子育ては、ママ1人が負担しなきゃいけないものではないと思うんです」

 

悠さんは、そのためにも子育てしやすい町を目指した。待機児童をゼロにするために町の保育園の効率化と保育の充実を早急に図り、ママたちが集まれるカフェも作りたいという。

 

「ママたちが悩み事を気軽に語り合う場所を作りたいんです。この津南町で子育てしてもいいな、と少しでも多くの若い世代に思ってもらいたい。もちろん女性がきちんと所得を得られる雇用の創出もあわせて進めていきます。この町ならそれができる。私は津南町の可能性を信じています」

 

町長室でまず目につくのは、執務机の脇に敷かれた2畳ほどのウレタンマットに玩具の数々。ママたちが子連れでやって来たときの遊びスペースだ。悠さん自身も町長就任直後に荷物を運び込んだとき、わが子をここで遊ばせていたという。

 

「町長室の扉はオープンです。子育て中の町民の方も気軽に立ち寄って、意見を聞かせてほしいんですね」

 

25歳で町議に初当選した悠さん。7年間の町議時代とくらべ、「仕事は10倍に増えました」と語る。朝は5時に起床して、就寝は24時ごろ。保育園への送りと、夜のお風呂と寝かしつけが、子どもたちと過ごす貴重な時間だ。

 

「姑はじめ、婚家の家族には本当にお世話になっていますが、なるべく子どもとの時間を作るようにしています。週末の町民との会合などには、子どもたち同伴で行くこともあるんですよ」

 

そんな日々を送りながら、悠さんは自分があえて町長になった意味を見つめていた。財政健全化も急がなければならない。たとえば、観光施設など、いわゆるハコモノの整理も課題の1つだ。

 

「次の時代に即した津南町にするためなら、大なたを振るうこともあるかもしれません。憎まれ役になることも厭いません。危機感を持って、大胆に変革していかないと問題は解決していかないんです」

 

さらに悠さんは、町の人びとの持つ可能性にも期待する。

 

「どんどん本音を発信してほしいんです。それが町の活性化につながると思うんですね。そのためにも私は、『よお!』って気軽に話しかけてもらえる存在でありたいと」

 

就任から2カ月、2児のママで現役最年少の町長が「ふるさと改革」に挑む。

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