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「こういうものを出すと、今まで溜められていた在庫もずいぶん出てまいりました。価格も下がってきたという成果もありますので、そういう成果はあったのかなぁと思います」

 

5月6日、ニコニコ生放送「安倍首相に質問!みんなが聞きたい新型コロナ対応に答える生放送」に出演した安倍晋三首相(65)は、いわゆる“アベマスク”の成果についてこう力説した。

 

安倍首相の肝いりで始まった全世帯に向けた布製マスクの配布政策。一住所あたり2枚ずつマスクが届く予定なのだが、配られたマスクに大量の不良品が含まれていることが発覚。未配分を回収して検品を強化した結果、配布は遅れに遅れているのだ。

 

厚生労働省の公式サイト「布製マスクの都道府県別全戸配布状況」によると、5月9日時点で「配布中」となっているのは東京都のみ。「5月11日(月)の週から配布開始予定」となっているのが14道府県で、ほかはすべて「準備中」となっている。一方、ツイッターなどでは、4月下旬ごろから市中で不織布マスクを買えるようになったという声が目立つように。その声は日に日に増えてきている。

 

《近所のスーパーで2日連続でマスク売ってたからマスク不足はかなり解消されてきてる》
《マスクが普通に、スーパーに売ってました。。。値段も298円、マスク不足の時代は終わりですかね?》
《地元のピカソ(ドンキの小型店)でも不織布マスク売ってた もうアベノマスク配る理由ないよな…》

 

布マスクは不織布マスクと比べてフィルター効果が低いこともあって、466億円もの予算がつけられた“アベノマスク”は無駄だという批判は強い。一方、主に政権支持層を中心にされてきたのがこんな主張だ。

 

《アベノマスクが 国民に配付されることが決まり これ以上の高値はつかないと ブローカーが、在庫を放出して 不織布マスクの価格が下がり 市場に出回りだしたので大成功》
《マスクを出し惜しみして価格を吊り上げていた業者や悪徳転売屋にダメージを与えてくれたのでアベノマスク効果は絶大であったといえるでしょう》

 

要は“アベノマスク”配布が決定したことで、価格高騰を狙ってマスクをため込んでいた業者があわてて在庫を放出。そのためマスクの流通量が増え、値段も下がったという理屈だ。最初は主に政権支持層がネットなどで主張してきたものだったが、冒頭のように安倍首相も口にするように。4月28日の衆院予算委員会でも「マスク市場にたいしても、それなりのインパクトがあったのは事実でございまして、業者のなかにおいてはですね、ある種の値崩れを起こす効果にはなっているということを評価する人もいる」と同様の主張をしている。

 

そもそもマスクを求める長蛇の列ができ、店頭に置けば飛ぶように売れていた時期があったのにも関わらず、在庫を出し惜しみする業者がいたとは考えづらいが……。はたして安倍首相の主張は本当なのだろうか。

 

日本のマスク不足は新型コロナウイルスのために国内でのマスク需要が高まるとともに、海外からのマスクの流入が減ったことにあった。もともと国内で流通するマスクの約8割は輸入品。さらに財務省貿易統計によると、昨年に輸入された不織布マスクは12万7300トン。そのうち中国産は10万8724トンと、およそ85パーセントを占めていた。

 

今年1月の不織布マスクの総輸入量は1万5157トンと、昨年同月(1万3010トン)と比べて大きな変化はなかった。だが。これが今年2月になると4732トンにまで落ち込む。これは新型コロナウイルスのまん延でマスク輸出国を含む各国でマスク需要が高まり、日本への流入が減ったためだと考えられる。特に中国からの輸入量の落ち込みは顕著で、中国産が占める割合はおよそ72パーセント(3439トン)にまで低下している。

 

しかし3月になると、不織布マスクの総輸入量は8697トンに回復。中国産のものが占める割合も80パーセントほど(7001トン)まで回復した。これは中国内でマスクの増産が行われたためだとみられている。新華社3月2日の報道によると、中国共産党の号令で中国内のマスク生産量は急増。2月29日時点で1日当たりの生産能力は1億1千万枚に達したと報じられた。また人民網日本語版3月13日の報道によると中国内のマスク不足は緩和され、この時点で使い捨てマスクの価格は半額程度まで下がったと伝えられている。

 

5月9日時点では公表されていないが、これまでの経緯をみると、今年4月の不織布マスク輸入量はさらに増えているとみて間違いない。加えてシャープなど複数のメーカーが国産マスクの生産に踏み切っており、日本国内のマスクの流通量は大幅に改善されている。マスクが店頭で見られるようになったのも、これが主要因と考えられる。

 

実際に複数の報道機関がマスク販売している小売店を取材したところ、マスクは中国から輸入したもので、“アベノマスク”との因果関係を証言した例はなかったという(アエラドット「品薄のマスクが東京・新宿区の雑貨店に山積みされている理由」、ビジネスジャーナル「マスク価格が突然急落した謎に迫る 安倍首相は“アベノマスクの成果”と自画自賛だが…」など)。

 

“アベノマスク”のために在庫が放出され、価格が下がったと主張する安倍首相。だがこの主張には、今のところ何の裏付けも証言も示されていない。少なくとも配布を止めれば、送料がかかることはない。いま一度、立ち止まって“アベノマスク”について検証してみるべきではないだろうか。

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