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冷たい表情で、生きた虎をナイフで突きながら、部下の報告を聞く日本軍の将校。その内容が気に入らなかった彼は虎をめった刺しにし始め、その返り血を浴びながら命令を下す。

 

「(独立軍を)1人残らず殺せ」

 

韓国で上映中の映画『鳳梧洞戦闘』、安川少佐を演じる北村一輝(50)の初登場シーンに観客たちは驚愕していた。映画を見たソウル在住の日本人ジャーナリストは言う。

 

「私が映画館に行ったのは平日の昼間でしたが、それでも座席が3割ほど埋まっていました。8月7日に公開され、8月29日時点では観客数は463万人を記録しています」

 

この作品は朝鮮半島を日本が統治していた1920年6月、中国東北部の渓谷の村・鳳梧洞で起きたという、武装集団“独立軍”と日本軍の戦いを描いている。

 

「今年は三・一独立運動から抗日100周年にあたり、数々の“反日映画”が封切られています。『鳳梧洞戦闘』は団体客を中心に観客動員数を伸ばしました。8月14日には韓国の与党『共に民主党』のイ・ヘチャン代表や同党の関係者100人ほどが団体で鑑賞しました」(韓国の映画関係者)

 

『朝鮮日報』は、この大ヒットについて次のように報じている。

 

《映画に登場する3人の日本人俳優も話題だ。この映画に出てくる日本の軍人の多くは韓国の良民たちを虐殺する人物として描写されているからだ》(8月18日付)

 

韓国の映画評論家たちでさえ“善悪の構図があまりにもはっきりしていて、憎悪をあおる編集が残念”などと評価しているように、“残虐な日本軍”の描写には容赦がない。農村を襲撃し、妊婦をレイプし、子供や老人たちも無慈悲に虐殺していくのだ。そのなかでも際立っているのが、北村一輝が演じた追撃舞台の隊長、安川少佐だ。

 

「まさに“絵に描いたような敵役”です。作戦に失敗した部下の指を切り落としてしまったり、日本軍の蛮行を批判するようになった少年兵に切腹を命じたり……。韓国人俳優が主演した独立軍の3人も歴史上は実在していないそうで、製作者たちも“フィクションだから”と考えたのでしょうが、あまりにも荒唐無稽に思えました」(前出の映画関係者)

 

けっして映画の評価は高くなく、“拷問シーンや虐殺シーンがやりすぎ”といった声も多い。実はウォン・シンヨン監督も、この“やりすぎ抗日フィクション”に、日本人俳優が出演してくれたことが意外だったようで、試写会では次のように語っていた。

 

「慎重にオファーしたところ、意外にも多くの日本人俳優が出演の意思を示してくれた。かなり驚いた」

 

確かに北村といえば、9月末から放映されるNHK朝の連続テレビ小説『スカーレット』ではヒロインの父親を演じる“日本の大物俳優”。彼の決断には監督もかなり驚いたことだろう。北村の意図について、所属事務所に聞いたところ、担当者は次のように答えた。

 

「北村は以前から海外作品のオファーも受けています。出演を決めるにあたっては、監督の実績や共演俳優が誰かなどの条件を検討しますが、『鳳梧洞戦闘』も、そのようにして選んだ作品の1本にすぎず、けっして北村本人の政治信条や思想などで選んだわけではありません」

 

――演出が過剰という評価もありますが?

 

「オファーを受けた段階では演出の細部までは決まっていませんでした。北村もあくまでも役の1つとして演じただけだと思います」

 

役作りのためにチンピラ役を演じるときに9本の歯を抜いたりなど、“役者バカ”としても知られる北村。彼を知る日本の映画関係者は言う。

 

「北村さんは『世間に持たれている(自分の)イメージを常に裏切っていきたい。どんな役が来ても受け入れて、その役を自分のものにしたい』と、よく言っています。彼にとっては、冷酷非道な日本軍将校役も挑戦の1つだったのでしょう」

 

しかし前出のジャーナリストは、ある疑問も抱いたという。

 

「北村さんの“国際的に活躍する俳優でありたい”という熱意がうまく利用されてしまったのではないでしょうか。“残酷シーンが過剰”という批判に対しては監督もかなり気にしていたようです。実は8月14日のトークショーで監督はこんなことを語っています。
『ここまで(残酷なシーンを)描写してしまったら、観客が受け止められないかもしれない、と悩んでいたら、北村が“当時は、もっとひどかったはずだ。よりリアルに伝えたい”と、言って励ましてくれた』。まるで、その場にいない北村さんに責任を転嫁しているように思えました」

 

このジャーナリストが観賞した映画館ではエンドロールが流れても、観客からは拍手も起こらなかったという。韓国の人々も映画の“過剰演出”には辟易しているのだろうか。

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