18世紀半ばまでのヨーロッパ人は、「琥珀は海の産物」であると信じていたそうです。そのことを裏付けるように、ギリシア神話の中にもこんなお話があります。海の神であるネプチューン(ポセイドン)の娘が若い猟師と恋に落ちました。それを知ったネプチューンは若者を海に沈めてしまい、娘は悲しみ嘆いて、止めどなく涙を流しました。その涙がいつしか琥珀になったというのです。また他にも、琥珀のことを「乙女の涙」、「人魚の涙」という言い伝えもあります。さらに琥珀の英名「Amber」の由来をたどると、「琥珀は海の産物」であったことがはっきりと分かります。そう、「Amber」は古代アラビア語の「アンバール」を語源とし、その意味はなんと「海に漂うもの」なのだそうです。

では、どうして当時の人々は「琥珀は海の産物」と信じて疑わなかったのでしょうか? それは琥珀を発見した場所が海岸だったからです。では、いったい何故、陸上で茂っていた樹木の樹脂が海岸で見つかったのでしょう。これには何千万年という気の遠くなるような時の流れが介在しています。テレビのドキュメンタリー番組などで、山間の地層を指さしながら「ここは昔、海だったところです」などと説明しているのをあなたもご覧になったことがおありでしょう? ですからその逆も真で、昔は山だったところが現在は海底ということもあるのですよね。

Stone_070626 つまり、樹脂をもった樹木は長い年月の流れの中で、やがて朽ちて地中へ埋没。その朽ちた樹木の一部は、想像を絶する地殻変動やプレート移動などの環境変化によって海底へと沈んでいきました。そして、数千万年という時間の経過の中で、はじめは単なる樹脂にすぎなかったものが、いつしか「琥珀」という美しい化石へと熟成されていったのです。でも、それがどうして海岸へ? そういう疑問がわいてきますよね。実はここに琥珀がもつ最大の特色があるのです。

なかなか興味深いことですが、琥珀は海に浮遊するのです! ここで「比重」のことを復習する時間はありませんが、「比重が1よりも大きい物質は水に沈み、1よりも小さい物質は水に浮く」という原則を頭に入れておきましょう。実は、琥珀の比重は1.05~1.09です。これに対して海水は1.03ですから、ここで言えることは、琥珀は水には沈むが、海水にはかろうじて浮くという事実です。したがって海岸に打ちあげられた琥珀というのは、もともとは海底の地中深くに埋もれていたもの。その琥珀が海底地殻の変動などによって海底表面に押し上げられ、それが潮の流れに乗って海中を漂いながら、ついには波によって海岸に打ち上げられた……そういうプロセスが見えてきますよね。

もちろん海からとれる琥珀は、琥珀全体からすれば一部であって、多くは陸地にある鉱山から産出されています。したがって、海からとれた琥珀は「シー・アンバー」、陸地でとれた琥珀は「ピット・アンバー」と呼ばれています。

ところが、琥珀ほどニセモノが出回っている宝石はないと言われるほど、あの手この手のまがい物が流通しているのです。これもまた、琥珀ならではの特徴と大いに関係があります。次回はニセモノをとおして見えてくる琥珀のもう一つの横顔をお話しましょう。