ところで、「ピジョン・ブラッド」と呼ばれる品質のルビーとはどれほどの希少性をもった石なのでしょうか? 岡本憲将氏が監修されている「宝石の常識」シリーズによれば、鉱山から産出されるルビーのうち、宝飾品として使える品質の石は全産出量の100分の1に過ぎず、日本に輸入されてくる数量はその100分の1程度とのこと。つまり、100分の1は0.01、その100分の1は0.0001で、1万分の1という確率です。さらに、この中から「ピジョン・ブラッド」のようなAクラスのルビーとなると、出会えるのは、1万分の1の中の100分の1、すなわち1億分の1という確率とのことです。

Stone080623ですから、「ピジョン・ブラッド」と呼ばれるルビーにはめったにお目にかかれないのと同時に、もし出会えたとしても、その価格となると同じカラット数のダイアモンドより高価だと言われています。ではいったい、通常私たちが目にするお手頃価格のルビーとはどういうものなのでしょうか? これにはいろいろなケースがあります。まず言えることは、産地による石の等級の違いです。

すでにお話ししましたように、最上級とされる「ピジョン・ブラッド」はミャンマーの中にあるルビー鉱山の中でも、「モゴク」という鉱山からとれる「Aクラス」のものです。それ以外のものは「ピジョン・ブラッド」とは呼ばれていないのです。でも、ルビーはモゴク鉱山のみで発掘されるわけではありません。同じミャンマー国内を含め、スリランカ、タイ、ベトナム、アフリカ、マダガスカルといった他所の鉱山からも産出されています。ただし、品質には大きな違いがあります。他所の鉱山のルビーは「ピジョン・ブラッド」を「Aクラス」とした場合、「Bクラス」、「Cクラス」といった等級の石が含まれているのです。

ところで、ルビーの品質に関する話をさらに複雑にしていることがあります。それはルビーには「エンハンスメント」と呼ばれる熱処理がごく普通に行われているとうことです。色の余り良くないルビーがこの「エンハンスメント」という技術によって、見事な色に生まれ変わって市場に送り出されているのですよね。実は、タイ産のルビーは、かつてはミャンマー産にくらべ色が劣っていました。でも、1960年のビルマ(現在のミャンマー)政変の時期以来、この技術によってルビーの世界シェアーを伸ばし続けました。現在ではそのシェアーは50パーセントとも80パーセントとも言われるようになっています。こうした客観的なデータから判断すると、私たちが日本で通常目にするルビーとは「タイ産のエンハンスメントされたルビー」の確率が極めて高いと言えますね。

さて、ルビーには歴史上面白い話がいろいろあります。なかでもよく引き合いに出されるのは、イギリス王室の大礼用の王冠にはめ込まれている主石のルビーです。実はこのルビー、ルビーではなく「スピネル」というルビーとよく似た石なのだそうです。どうしてこのようなことになってしまったのでしょうか。それは、昔はその「スピネル」もルビーと信じられていたためです。王冠が創られたのは1367年のこと。そのルビーが「スピネル」と判明したのは、鉱物を科学的に鑑定する技術が確立した19世紀になってからのことです。ルビーは「宝石の中の王」とまで称され、古代より珍重されてきた色石。そっくりの美しい赤い石があれば、「ルビー」としたいのが人情とも言えますよね。

次回は「ルビー」のパワーストーンとしての魅力についてお話ししましょう。