2月12日、東京高裁の第805法廷。村瀬均判事は、午前中だけで3つの裁判の裁判長を務めていた。窃盗、強盗殺人、覚せい剤などの裁判。本紙記者が見る限り、ひたすら杓子定規に判決を下す、真面目な裁判官という印象だった。

 

この村瀬判事を名指しで指弾する犯罪被害者の遺族がいる。’09年10月に起きた「松戸女子大生殺害放火事件」の被害者、荻野友花里さんの両親である。母親の美奈子さんが言う。

 

「“放火”といいますけど、娘は殺された後、体に直接火をつけられたんです。犯人の竪山辰美は娘を殺す前も殺した後も、何件もの強盗・強姦事件を起こしています。犯行は残忍で悪質極まりないと、’11年6月に千葉地裁の裁判員裁判で死刑判決が下されました。それにもかかわらず、’13年10月、東京高裁で死刑が棄却され、無期懲役になりました。この判決を下したのが村瀬だったんです」

 

減刑の理由を村瀬裁判長は「計画性がなく、1人殺害の強盗殺人で死刑となった例がない」と説明。遺族は上告したが、2月3日、最高裁で千葉勝美裁判長が無期懲役を支持し、死刑判決の破棄が確定した。

 

裁判員制度は、裁判に庶民の日常感覚を反映させるため’09年から始まった。殺人などの重大犯罪に対し、原則として裁判員6名、裁判官3名の合議で判決が下される。『狂った裁判官』などの著書がある井上薫弁護士が言う。

 

「6人もの裁判員が入れば、これまでの裁判と結論が変わるのは当然のこと。それを『前例に従え』と差し戻すのは、裁判官自身が新しい制度を否定していることにほかなりません。民意を取り込むために始まった裁判員制度が、結局は形だけで、制度を作り直した意味がない」

 

実際、実施から5年以上たち、制度は予想以上に形骸化している。’09年に起きた「南青山マンション男性殺人事件」も、’10年に起きた「長野一家3人殺人事件」も、裁判員制度の死刑判決が上級審で覆されたのだ。2月に入り、裁判員裁判が出した死刑判決が、立て続けに3件も上級審で破棄されている。

 

ある弁護士が匿名を条件に話す。

 

「東京高裁の刑事部は全部で9あるんです。だから、重大事件でこんなに同じ裁判長が担当になるはずがない。これは最高裁の意向を受けて、意図的にやっているとしか思えません。あえて言えば、裁判所全体で前例を守ることに汲々としているんです」

 

犯罪被害者支援弁護士フォーラムの事務局長・高橋正人弁護士は言う。

 

「前例、前例と入り口から否定しているんだから、こんな状態では1歩も前に進みません。じつはフランスもかつて同じような問題が生じて、高裁にも裁判員制度が導入されました。日本もそうならなきゃダメでしょう」

 

裁判官の保身こそ、覆すべきものだろう。

 

(週刊FLASH3月3日号)

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