結局、何ができるようになるのか。首相と防衛大臣の答弁は矛盾し、本人たちもよくわかっていないようだが、「安全保障関連法案」は通過しようとしている。“出番”を待つ自衛官の思いとは、どんなものなのか?元自衛官に話を聞いた。

 

「お世話になりました。行ってきます」が最期の言葉になるはずだった。イージス艦「みょうこう」の航海長だった伊藤祐靖氏は、「戦死」を覚悟した部下の表情を忘れられない−−。

 

’99年3月、「みょうこう」は能登半島沖で北朝鮮の不審船を追跡していた。闇夜の日本海を時速33ノット(約70キロ)の猛スピードで逃げる不審船を追いながら、何度も警告射撃をおこなった。’87年以来となる、自衛隊による2度めの武器使用事案。そこは戦地だった。

 

「いくら撃っても不審船は停まらない。それが、なぜか突然停まった。そのとき、二十数名の立ち入り検査隊を不審船に送り込むことになりました」(伊藤氏・以下同)

 

200名超の乗員のなかで誰が指名されるかは、そのときまでわからなかった。当然、まだ訓練さえしていなかった。

 

「隊員たちには小銃や拳銃を持たせ、小舟で相手の船に近づき、乗り込ませるんですが、銃の扱いに慣れていない者ばかりでした。防弾チョッキさえなく、『少年マガジン』などの漫画雑誌を腹に巻きつけました。相手の船に乗り込めば銃撃戦になるかもしれない。銃撃戦に勝ったとしても、相手は自沈する可能性が高い。隊員たちは120%生きて戻れないだろうと全員が思っていました」

 

結局、不審船はふたたび逃走を始め、立ち入り検査隊員は出撃することなく終わった。「あと30分で死ぬと覚悟したとき、公のためになら平気で死ねると思った」。隊員はそう口を揃えた。伊藤氏は、いまの安保法制議論を眺めながらこう語る。

 

「リスクがどうのとさかんに議論されていますが、自衛隊員にリスクがあるのは当たり前じゃないですか。政治家はごまかさずに『隊員は大義に命を奉げろ』と言えばいい。それが、人に死を強要する立場にいる者の最低限の礼儀ではないか。しかし、私利私欲だけの政治家の命令なんぞでは、絶対に隊員を戦地に行かせたくありません」

 

安倍首相に大義はあるか。

 

(週刊FLASH6月16日号)

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