韓国政府は「流行が終息に向かうかどうかの分岐点」を6月12日と発表したが、MARS(中東呼吸器症候群)は想定外の感染経路が次々と明らかになり、いよいよパンデミック(感染爆発)の様相を呈している。なかでも、60人ともっとも多くの患者を出しているのが、サムスンソウル病院だ。

 

10日、記者は渦中の病院を訪ねた。本館のロビーに入ると、案内デスクの前にサーモグラフィーが設置されていた。感染の可能性がある人間を瞬時に発見するには、いまのところ体温測定しかない。

 

「マスクをつけ、手洗いを。咳をするときはティッシュやハンカチで口を塞ぎましょう」

 

ロビーのテレビからは感染防止のアドバイスが流れ、政府の担当者は政府を信用するよう必死に訴えていた。駆け寄ってきた警備員に取材の旨を伝えると、広報担当者がMARS感染者専用の診療所まで案内してくれた。人通りは少なく、まれに老人や子供の姿が見える。

 

専用診療所では、患者も医者も防護服に着替えて検診していた。病院関係者は自分ができることを黙々とやっていたが、「これでいい」という確信がないためか、どこか不安げだった。

 

翌11日、喉の痛みと咳に不安を覚えて記者は、近所のソウル大学病院でMARS検査を受けることにした。応対した人に「昨日、サムスンソウル病院に行った」と打ち明け、症状を話すと、MARS専用の診療所に案内された。

 

手を洗い、コンテナ式の診療所の2号室に入る。壁には「この部屋は殺菌装置と(菌を外に出さない)陰圧装置が稼働しています」と書かれ、その横に痰の採取方法が説明されていた。

 

医師も看護師も来ない部屋で待機していると電話が鳴った。看護師から体温計の消毒方法と使い方を教えてもらう。体温測定後、担当医から電話があって、簡単な質問を受けた。最近の出入国記録と詳しい症状を話すと「あなたは感染者ではありません。ふつうの病院で診察を」と言われた。

 

結果的に記者の病気はたんなる風邪だったが、MARS感染の恐怖を身をもって体験したことになる。思うのは「現場の医師たちは最善を尽くしている」ということ。同時に、何をしたらいいのか迷っているようにも見えた。政府の対応が後手に回り、司令塔が機能していないことに不安と不満を感じているようだった。

 

MARS騒動は、いまや朴槿恵政権を根っこから揺さぶりはじめている。

 

「16日に予定されていた米韓首脳会議は延期。7月のユニバーシアード光州大会も延期の危機に直面し、日韓交流事業もキャンセルが相次いでいる。韓国経済への深刻な影響も出はじめ、政府の無能ぶりを批判する声はますます強まっています」(韓国に詳しいジャーナリスト・太刀川正樹氏)

 

政権内部からも朴槿恵批判が噴出。韓国では、死に体となった朴槿恵を退陣させるため、憲法を改正して大統領の任期を短縮しようという意見さえ出てきた。MARS禍は、まさに“第2のセウォル号事件”となって朴槿恵を追いつめている。

 

(週刊FLASH6月30日号)

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