車が強羅を過ぎたあたりから、フロントガラスに雨の水滴が白く残るようになった。火山灰だ。大涌谷から1キロ以上離れた場所でも、勢いよく出る噴気の「ゴー」という音が間近に聞こえた。

 

気象庁が噴火警戒レベルを「2(火口周辺規制)」から「3(入山規制)」に引き上げた6月30日、本誌記者は箱根山へ向かった。強羅駅近くの喫茶店主はこう嘆く。

 

「硫黄の臭いには慣れっこですが、火山灰が降っているのを見たのは初めてです。とにかく、このままじゃやっていけないという声ばかり聞こえてきます。『早く1回ボンと噴火してくれたほうがガス抜きできていいのに』なんて笑えない冗談も出る始末です」

 

その日の午後、気象庁でおこなわれた会見は異様なものとなった。前日に「噴火ではない」と説明していた気象庁が、一転「きわめて小規模な噴火があった」と認めたからだ。記者から不信感もあらわな厳しい質問が相次いだ。

 

「29日の会見では、噴火ではなく地滑りで、噴出物も泥だと言っていた。空振計の記録もないと言っていたのに、やっぱりあったなんて言い訳している。火山学では噴石が300メートル飛べば『噴火』といいます。実際に噴石は1キロ以上飛んでいるし、火山灰も飛んでいるんだから、気象庁は素直に噴火だと認めるべきだった」(武蔵野学院大学特任教授・島村英紀氏)

 

今回の噴火には山体膨張、火山性微動、火山性地震など明らかな前兆があったが、気象庁はそれを捉えていなかったはずと島村氏は言うのだ。

 

「気象庁は震度計を大涌谷からかなり離れた箱根湯本に1カ所しか設置していません。基本的には神奈川県が設立した温泉地学研究所からすべてのデータをもらっている。気象庁は箱根に関して、情報がまったく手薄なんです」

 

温泉地学研究所の職員も同意する。

 

「気象庁が震度1と測定しても、われわれの震度計が震度3や4と測定することもある。データは気象庁にも送っていますが、それをそのまま気象庁が発表することはありません。震度を発表できるのは気象庁だけなので、問題があると言わざるをえない」

 

’13年2月、大涌谷で震度5の直下型地震が発生した。ロープウェイも止まるほどの地震だったが、震度5を記録したのは温泉地学研究所の震度計。気象庁の震度計は、地震の揺れをまったく捉えていなかったのだ。そのため、いまもこの地震は公式記録にない。

 

日本には世界の活火山の7%にあたる110の活火山がある。このうち、24時間態勢で監視する火山は47(秋から50)。だが実際には、遠隔地にある4カ所の火山監視・情報センターでモニターしているだけだ。そもそも、監視にあたる気象庁職員104人のうち、火山の専門家は17人しかいない。

 

「こんな態勢で噴火予知などできるはずがないんです」(群馬大学・早川由紀夫教授)

 

御嶽山の噴火を受け、火山の観測態勢が強化された。気象庁の実力が試されるのはこれからだ。

 

(週刊FLASH7月21日号)

関連タグ: