メジャー挑戦を表明していた大谷翔平(18)を強行指名した日本ハム。「可能性ゼロ」から入団へと導いた同球団の見事な交渉術について、弁護士・谷原誠氏はこう語る。

「全体をみると、随所に交渉テクニックがちりばめられ、非常にきれいに着地している。交渉のプロがシナリオを考え、それに沿って進められている印象です」

本人とは違い、両親は当初から国内志向だった。そこで11月10日、日ハムの山田GMと大渕スカウトは両親と花巻市内のホテルで交渉。その際に使われた資料『夢への道しるべ』は、父によって大谷のもとに届けられた。

「この資料は、メジャーはもちろん、他の競技まで引き合いにして、国内の育成環境の優位性や成長の期待値まで徹底的に比較している。メリットとデメリット〈メリデメ〉双方を調べ尽くし、提示しているのです。ビジネスの現場ではよく用いられている手法です。ご両親にこういうものを示すと心が揺れますよね。外堀を埋めることはここで成功しました」(谷原氏)

最速160キロの右腕は、高校通算56本塁打の打撃実績も残している。11月17日の交渉で、日ハムが提案したのは、メジャーでは実現不可能な、非常に魅力的なプランだった。

「本人は投手希望といわれているけど、本音ではどっちもやりたい。『メジャーに行くと諦めざるをえないよね』という話をしたあとで『エース兼4番として育てたい』という”二刀流”の提案をズバッとやる。これが〈ギャップ・イン・ザ・ドアテクニック〉です。自分が想定していることと、大きなギャップのある話をされた瞬間、心に隙間ができるんですね。すっと話が入ってくる」(谷原氏)

11月26日には栗山監督が交渉に初参加。日本ハムとの交渉開始後、初めて会見に応じた大谷は「素晴らしい話が聞けた。(栗山監督は)けっして説得ではなく、自分の立場を親身になって考えてくれました」と感激して語った。

栗山監督と2度めの直接交渉をおこなった12月3日、大谷に残っていたのはわずかな疑問だけだった。

「大谷くんには、自分が表明したものを翻す”自己矛盾”が生じていた。自身の行動や発言、態度をブレないものにしたいという〈一貫性の原理〉が働くんですね。それを正当化するには『その時点でメジャーを目指したのは正しかった』と認めてあげること。ここで栗山監督は『われわれ球団が守る』と表明し『強行指名に踏み切った球団側に非がある』と認めた。最後の説得としてこれ以上効くものはありません」(谷原氏)

大谷が日本ハムへの入団を明らかにしたのは、その1週間後だった。

(週刊FLASH 1月29日号)

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