「裁判は、世界でもっとも使用されている除草剤に対して、司法が“危険”だと審判したもの。今後、世界中の農業の現場が混乱する可能性があります。それほど大きな判決です」

 

そう語るのは、元農林水産大臣で弁護士の山田正彦さんだ。山田さんが言う裁判を起こしたのは、アメリカの大手化学メーカー、モンサントの除草剤「ラウンドアップ」が原因で悪性リンパ腫を発症したと訴えていた、末期がん患者の男性(46)。10日、カリフォルニア州サンフランシスコの裁判所は、男性の訴えを認め、モンサントに約320億円(2億8,900万ドル)という巨額の支払いを命じた。

 

この男性は、学校の校庭整備の仕事をしていたが「ラウンドアップ」を繰り返し使っていたという。農薬問題に詳しい、東京女子医科大学東医療センター麻酔科非常勤講師の平久美子医師に解説してもらった。

 

「訴えを起こした男性は、悪性リンパ腫の一種で、白血球が関与する非ホジキンリンパ腫を発症しています。日本の厚生労働省は、その発症要因として免疫不全、細菌やウイルス感染、除草剤、有機塩素系殺虫剤、放射線被ばくなどを挙げています。今回の判決は、『ラウンドアップ』の影響があるかどうかわからないことが多いと推測されますが、モンサント側が注意喚起を行わなかった点が問題だと司法が判断したのです」

 

この除草剤については、同じような訴訟がアメリカで5,000件以上起こされているという。平先生が「ラウンドアップ」の特性についてこう指摘する。

 

「『ラウンドアップ』は、植物の成長に不可欠なアミノ酸の合成をストップさせて枯らす除草剤です。モンサントは、『ラウンドアップ』に接触しても枯れない“耐性”を獲得した遺伝子組み換え作物も販売し、多額の利益を得ました。『ラウンドアップ』の主成分であるグリホサートについて、WHO(世界保健機関)が管轄する国際がん研究機関(IARC)は動物実験によって、《おそらく発がん性がある》との判断を示しています。また発がん性以外にも胃腸障害、糖尿病、うつ、自閉症、肥満、アルツハイマー病などとの関連も疑われています。さらに内分泌をかく乱する作用があり、生殖機能に影響を与える可能性も指摘されています」

 

それを受けてか、’15年にはオランダが「ラウンドアップ」を販売禁止に。まもなく、ブラジルでもグリホサートを含む製品について使用が禁止される。

 

内閣府の食品安全委員会は’16年にグリホサートについて評価書をまとめている。そこでは、《神経毒性、発がん性、繁殖能に対する影響、催奇形性及び遺伝毒性は認められなかった》として、1日摂取許容量の基準を体重1キロあたり1ミリグラムとし、その量なら生涯、摂取し続けても健康への影響がないとした。

 

前出の山田さんは、こんな指摘をする。

 

「ヨーロッパではグリホサートの使用禁止を求める市民発議に140万人が署名するなど『ラウンドアップ』の使用を規制する流れができています。そんななか、日本はグリホサートの規制が緩く、国産大豆の乾燥の手間を減らすため、収穫前に『ラウンドアップ』を大豆に散布しているという事例もあります。乾燥作業が必要な米や小麦などにも今後、拡大していく可能性があります。またグリホサートと同じ成分の除草剤が、ジェネリック品として広く販売されているなど、非常に危惧しています」

 

モンサントは、今年ドイツの医薬品大手バイエルに買収されている。そこで日本モンサント広報部に聞いてみたところ「グループ全体の意見としてですが」と、ことわりながら、次のように説明する。

 

「(判決は)800以上にわたる科学的な試験研究と検証の事実により、グリホサートは発がん物質ではなく、ジョンソン氏(※訴えた男性)のがんの原因でもない、という事実を裏付ける米国環境保護局、米国立衛生研究所および世界中の規制当局による安全性に関する結論を覆すものではありません」

 

モンサントは判決について上訴する方針を明らかにした。日本での発売元である日産化学に聞いてみた。

 

「弊社は『ラウンドアップ』の有効成分であるグリホサートには、発がん性がないと判断しており、今回の判決が農薬規制当局の従来の判断に影響を与えるものではないと考えております。商品のラベルに記載されているように、使用時に農薬用マスクや手袋を着用するなど使用方法を順守いただければ、安全にご使用できると考えております」(広報室)

 

最後に山田さんが語る。

 

「サンフランシスコでの判決が、日本においても大きな転機になることを期待します。海外では使用できない国もあります。日本でも個人使用の禁止だけでなく、小さい子どもへの影響を考えて、公園や道路など公共施設での使用をやめるべきです。除草剤の安易な使用は控えるべきでしょう」

 

320億円という巨額判決が世界に与えたインパクトは、金額以上に大きかった。