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15年以上も無事故・無違反の優良運転手だった夫(78)の様子が最近、変だと思うようになったのは妻のA子さん(76)。ガレージに車を入れるときに、こするようになっただけでなく、“もの忘れ”も増えてきたという。

 

「最近、高齢ドライバーによる事故のニュースを見るたびに、いつかお父さんも事故を起こすのではと気が気ではありません。本人は『自分は大丈夫』と言って聞かないのでどうやって運転をやめさせたらいいのか……」(A子さん)

 

日本では65歳以上の高齢者の7人に1人が認知症といわれ、アルツハイマー型へ移行する可能性が高いMCI(軽度認知障害)も含めるとその割合は4人に1人となる。日本認知症学会の専門医でおくむらメモリークリニック(岐阜県)の奥村歩院長が解説する。

 

「認知症は発症すると完治は望めないまでも、初期のうちに見つかれば進行を遅らせて、日常生活も普通に送ることができます。しかし、病院に検査を受けに来ようとするのは、すでにもの忘れが目立ち、日常生活に支障をきたすようになってから。それでは遅すぎます。初期のちょっとした異変に気づいて対策を講じることが、認知症の発症を食い止める、または進行を遅らせる第一歩なのです」(奥村院長・以下同)

 

奥村院長が今まで延べ3万人超の人を診てきたなかで、認知症の“初期の初期”に現れやすい「ちょっとした異変」は「もの忘れ」だけではないので、注意が必要という。

 

「認知機能には大きく分けて3つの中核があります。1つ目は『視空間認知』。自分の体と外にある物との位置関係の間合いを測る機能のことをいいますが、この力が衰えますと、歩いているときに障害物を避けられなくなったりします。自動車を運転するときには、車幅感覚がわからなくなるので、A子さんの夫のように、車を車庫に入れるとき、ぶつけるようになる。また、エアコンやテレビなど、リモコンの操作が困難になるなど、道具がうまく使えなくなったりします」

 

ものを「回転」させる動作が鈍くなるので、力が入らないのとは違う感覚で、ペットボトルの蓋が回せない、瓶ビール、ジュースの栓が開けられないことがある。このほかにも、靴ひも、ネクタイが結べない、引き戸は開けられるが、ドアノブが回せないといった困難が生じるという。

 

「2つ目は、計画して段取りどおりに行動する『遂行(実行)機能』。この機能が低下すると、料理上手だったお母さんが、料理の段取りが下手になり、味が単調になる。出かけるときにはいつも身なりをきちんとしていたのが、化粧が雑になり、身だしなみもだらしなくなる、といった見た目の変化が表れてきます」

 

日常生活でも不都合なことが起きてくる。たとえば、電話をかけながらメモを取り、伝言を伝えるのが苦手になる。散歩しながら、簡単な暗算ができない、カラオケで歌いながら、リズムに合わせて手をたたけない、といった、2つの行為を同時に行うことができなくなるのだ。積極的に外出していたのが、急に家に閉じこもるようになったときも要注意。

 

「最初は体調を崩して『気乗りしないだけ』だと思っていたのが、朝起きて今日何をするのか、スケジュールがわからないなど、今まで難なくできていたことができなくなっていたのです。ゲートボールなど、趣味のサークルに出かけなくなるのは、身なりを整え、段取りをするのに疲労感を感じるという、遂行機能の低下によるものです」

 

3つ目は「記憶」。認知症の症状が出はじめると、昔の出来事は覚えていても、最近の出来事は覚えていないなど、30分前にやったことのような『近時記憶』を忘れてしまうのが特徴。加齢による「もの忘れ」との違いを知っておきたい。

 

「よくあるのは、薬を飲んだかどうか忘れてしまい、また飲んでしまったといったように、薬の飲み忘れや飲みすぎなどの管理ができなくなる。買い物に行ったのに何を買おうとしていたのか忘れる。メガネや携帯電話をなくす、といったことが頻繁にあります。また、テレビドラマを見ていても、1週間前のストーリーが覚えていられなくなるので、毎週、見ていたテレビドラマを見なくなるといったことが出てきます。聞いたことも忘れるので、同じことを何度も言ったり聞いたりする。また、思うようにいかないので二次的に情緒不安定になり、たいしたことでなくてもすぐカーッとなるなどが起こるのです」

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