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(写真・神奈川新聞社)

公開中の新作「リップヴァンウィンクルの花嫁」は、国内で撮る実写長編の劇映画としては12年ぶりとなる。海外での活動に軸足を置いていたが、東日本大震災をきっかけに、あらためて日本を見つめ、物語の舞台とした。

平和で豊かとされる日本。しかし、そこから落ちこぼれていく人々の存在は、無視され、抹殺されてはいないか-。この国を覆う空気を、かねてそう感じ取っていた。

「3・11後、体質がまったく変わったわけではない。でも、傷つき、いびつさが露呈した社会で、少しはそういう人々への痛みも分かるようになったのではないか。また覆い隠されるかもしれないが、一瞬、そうした雰囲気が垣間見えた気がした」

感じた気配を、作品に宿らせた。

派遣教員の七海(黒木華)はSNSで知り合った男性と婚約する。式に出る親族が足りず、何でも屋の安室(綾野剛)に代理出席サービスを頼む。新婚早々に夫の浮気が発覚するが、逆に浮気の罪をかぶされ、新居を追われる羽目に。居場所をなくした七海は安室の助けで今度は自分が代理出席のバイトで偽の家族を演じる。そこで女優を名乗る奔放な女性、真白(Cocco)と出会う…。

安室というウサギに導かれ、七海はアリスのように不思議の国に落ちていくかに見える。果たして、七海は社会からドロップアウトしたのか。真白には、この社会がどのように見えていたのか。

「私たちが当然のように是としている世界の方が息苦しい。下のほうに行くと押しつぶされてしまう容赦ない世界。みんな我慢して、全員が重いものを背負わされている」。不条理なこの世界にこそ、生きづらさの根がある。岩井監督の目にはそう映る。

七海は偽の家族を通じ、人との真のつながりを得る。「この世界はさ、本当は幸せだらけなんだよ」。そう語る真白と魂を共鳴させる。“岩井美学”といわれる独特の映像の中で、七海は次第に生気に満ちた表情を見せ、輝きを増す。

「落ちたように見えるが、社会のゲームから離脱できたことで実は救われている。豊かな世界を手にしたのではないか」。一種の逆説を通じ、七海も、私たちも、世界の多層さに気付く。

「今の社会から飛び出てしまったことが、逆に人間の回復になることだってある。人の優しさ、ぬくもりを信じ、個の生き物として自分と向かい合う。そこに輝く瞬間があると思うんです」