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(写真・神奈川新聞社)

今の暮らし、そして私たちの未来は-。「18歳選挙権」が国政で初めて適用される参院選が22日公示され、神奈川選挙区では12人の候補者による舌戦が幕を開けた。経済政策「アベノミクス」をはじめ、安全保障政策や憲法改正といった安倍政権が推し進める政策の是非を問う選挙。将来への不安が強まる中、有権者は明日への思いを誰に託すのか。

「景気や企業業績の話ばかり。弱い立場で働く人のことには触れられなかった」。参院選候補の演説に足を止めた横浜市に住む30代の女性は、ため息をつく。

就職氷河期に短大を卒業し、派遣社員として職を転々としてきた。パソコンによる事務作業、電話オペレーター、商品の箱詰め…。さまざまな職場で共通していたのは「言うなりに働く奴隷のよう」との思いだ。

始業時間の1時間半前に出勤するよう求められ、トイレには休憩時間にしか行かせてもらえない。同じ仕事をしていながら、正社員との賃金格差にがくぜんとした。だが、不平を言う非正規雇用者はいなかった。仕事がなくなるから。

「正社員ならそんな対応はされない。自分の立場がいかに弱いか思い知った」

人件費削減や雇用調整など企業側の意向もあり、非正規労働者の割合は増えている。県内の女性の場合、1987年の39%が2015年には57%に膨らんだ。

正社員と非正規労働者の格差は、賃金に如実に表れる。厚生労働省の賃金構造基本統計調査(15年)によると、女性の正社員の平均月給25万9,300円に対し、フルタイムで働く非正規労働者は18万1千円だった。

安倍政権は1億総活躍プランを掲げ、「同一労働同一賃金」の実現に踏み込むため、労働者派遣法の改正などで正社員と非正規労働者の賃金差を改善すると明記。野党側の主張を取り込んだ“争点つぶし”とも映るが、その道筋は不透明なままだ。

女性は4月、住宅設備会社の契約社員となった。だが、営業実績を上げ続けなければ契約は更新されない。将来に不安が募る。

「真面目に働く人が報われる社会にしてほしい」

■有権者が重視するテーマは?
横浜駅西口で行われた野党候補の第一声。梅雨空に響く訴えに耳を澄ませた塾講師の男性(27)=川崎市麻生区=は「待機児童問題への対応」を最も重視する政策に挙げた。

保育園を探している育休中の妻が「どこも満員で焦っている」ことだけが理由ではない。塾に通う中学生の中には保育士を志望する生徒が多いものの、面談した保護者から「きついし給料も良くないし、保育士になってほしくない」と言われたことがあるからだ。

「夢を諦めたり、せっかく就いた職業をやめてしまうのはもったいない」。各党の公約を見比べ、保育問題への対応を判断材料にするつもりだ。

職に対する不安が強いのは、若い世代に限らない。自動車工場の期間工だった藤沢市の男性(47)は精神的な病で失業中。年齢的な理由もあって復職は思うに任せず、今は生活保護で暮らす。有効求人倍率は上向いたとされるが、「ハローワークの求人は長続きできない仕事か非正規ばかり。働く意欲がある人の気持ちに寄り添った政策を」と訴える。

経済対策を重視する有権者のアベノミクスに対する評価は割れている。「勤めていた鉄道会社の株価が上がり、業績も良くなった。効果を実感している」(横浜市神奈川区の60歳男性)という受け止めがある一方で、「暮らしはどん底。三本の矢なんて言葉だけだ」(同市港南区の79歳男性)といった厳しい見方も。

消費税増税の再延期は家計にはプラスだが、川崎市中原区の自営業男性(60)は「社会保障の充実に充てる財源はどう手当てするのか。社会的弱者が置き去りにされている」と首をかしげる。横浜市中区の主婦(70)も「新しい判断なんて自分勝手な言い方」と問題視する。

「これからの日本を支える若者を大切にしなければ日本は沈んでしまう」。そんな危機感を抱く秦野市の飲食店経営者の男性(44)は、次世代に対する支援策を最優先の政治課題にすべきと強調した。

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