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(写真・神奈川新聞社)

横浜市神奈川区の大口病院で入院患者2人が中毒死した点滴連続殺人事件は30日、発覚から1週間となった。神奈川署特別捜査本部の調べでは、使用前の点滴に注射器で消毒液が注入された疑いが浮上、人手が手薄な連休中に院内の状況や医療機器に詳しい人物が関与した可能性があるとみている。だが、殺害に直接結び付く物証は司法解剖結果と残された点滴などに限られ、捜査幹部は「証拠が少なく難しい事件」と話す。終末期医療の現場で、誰が、何のために-。実態解明に向けた慎重な捜査が続く。

 

「亡くなった人の点滴に異物が混入された疑いがある」。病院から神奈川署に通報があったのは20日午前10時45分。その約6時間前に男性(88)=同市港北区=の死亡が確認されていた。点滴内部が泡立つ異常に女性看護師が気付き、司法解剖の結果、中毒死と判明。その後男女3人を司法解剖したところ、18日に死亡した別の男性(88)=同市青葉区=の死因も中毒死だったことが明らかになった。

 

2人の遺体と男性の点滴袋からは、殺菌作用が強い界面活性剤が検出された。袋の表面には目立った穴や破れがなく、界面剤は袋のゴム栓に注射針で注入されたとみられる。2人の病室がある4階のナースステーションには界面剤を含む消毒液「ヂアミトール」があり、特捜本部は空き瓶3本を押収。医療に詳しい人物が関与しているとの見方を強めている。

 

死亡した2人を含む4階の患者に投与される点滴は、3連休初日の17日午前に薬剤部からステーションに運ばれていた。原則は1日分を届けるが、この日は連休中の使用分を一括搬入。薬剤部では施錠して管理されていたが、ステーションでは机上や洗面台などに誰でも触れられる状態で置かれていた。

 

4階病棟は同日夜から、看護師2人の当直体制で運用しており、ステーションが不在になる時間帯も。夜間は入り口も施錠されて警備員もおり、外部の人間は出入りできない状態だった。

 

別の男性が最後に点滴を交換したのは18日午前。異物の混入は点滴がステーションに置かれていた約24時間の間とみられ、同病院の院長も「内部の可能性も否定できない」としている。

 

医療に明るい病院関係者が、不特定の入院患者を狙ったのか-。

 

終末期を迎えた高齢者の受け皿となり、4階に入院する患者の大半は寝たきり状態という大口病院。夏以降に1日当たりの患者死亡数が増加し、約3カ月間で50人近くが死亡するなど不自然な点があった。4階ステーションでは事件後、未使用の点滴約10袋でもゴム栓の保護フィルムに注射針で開けたような穴が見つかった。

 

院長は言う。「行き場のない終末期患者の受け皿として、信念と誇りを持ってやってきた。私たちが目指してきた医療が、このような形で壊されたことにショックと憤りしかない」

 

■「同僚と信じ合っている」 4階の看護師

「雰囲気は悪くなかった。内部の犯行ではないと信じたい」。2人が中毒死した大口病院の4階フロアを担当する女性看護師は静かに語った。

 

同看護師は「どのスタッフも、患者さんに対して一生懸命やってきたので信じられない」とした上で、「患者さんにもご家族にも申し訳ない」と謝罪した。4階では今春以降、ナース服の切り裂きや飲料への異物混入などのトラブルが相次いでいるが、「同僚とは信じ合っている」と説明。7月以降に50人近くが死亡していることには、「多いなとは思ったが、終末期の方を受け入れている病院なので…」と話した。

 

また、同病院に勤務する別の女性職員は「私にできることは残った患者さんを精いっぱい治療すること。看護師もみんな同じ気持ちだ。逃げ出したり、休んだりした人はいない」とし、「一刻も早い犯人の逮捕を望んでいる」と語った。

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