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(写真・神奈川新聞社)

 

“お巡りさん”からプロレスラーに-。元県警巡査の植木嵩行さん(25)が、警察官時代に身に付けた技術や経験を得意技に変え、プロレスのリングで活躍している。濃い体毛も持ち味で、付いたニックネームは「胸毛ポリス」。おもちゃの銃やパトライトなどを使った元警察官ならではのパフォーマンスも人気だ。植木さんは「毎試合、お客さんに『楽しかった』と言ってもらえるように全力を尽くす」と力を込める。

 

「確保ー!」。昨年12月、横浜文化体育館(横浜市中区)で行われた「テーブルクラッシュマッチ」。コーナーポスト上の植木さんが雄たけびとともに宙に舞った。抱え上げた相手レスラーをテーブルにたたきつけると、約2,500人の観客から歓声と笑いが起こり、会場が大きく沸いた。

 

群馬県太田市出身。高校卒業後の2010年4月、「柔道2段の経験が生かせるのでは」と県警に入った。川崎署川崎駅前交番に配属され、巡回中に不審な男を発見した際には体落としを見舞い、強制わいせつ容疑で現行犯逮捕したこともある。

 

転機は11年10月、上司に誘われて観戦した大日本プロレス(横浜市都筑区)の試合だ。高さ3メートルの柵から飛び降りるレスラーの迫力や血まみれのデスマッチに衝撃を受けた。「自分もやってみたい」。眠れぬほどの興奮は一夜にして決意に変わり、翌日には辞表を提出した。

 

大日本プロレスの門をたたき、13年12月に福岡市内で行われた大会でデビュー。週4日の練習を欠かさず、入門当時83キロだった体重は95キロまで増えた。とはいえ、身長170センチはレスラーとして小柄。「けがはつきもので、手当てをしながら練習するのは大変」と言いつつも、「商店街プロレス」を含め全国各地で約600試合の熱戦を繰り広げてきた。蛍光灯を武器にしたデスマッチも経験し、無数の傷痕が歴戦の勇姿を物語る。

 

警察官時代の同僚は「柔道が強く、正義感にあふれた『優しいお巡りさん』だった」と振り返りつつ、「まさかプロレスラーになるとは思わなかった」。リングで活躍するかつての仲間に「警察官の時よりも顔の表情が生き生きとしている。頑張ってほしい」とエールを送る。

 

闘う舞台は変わっても、警察官の“魂”は失わない。逮捕術とプロレス技を組み合わせて編み出した得意技「確保」で相手を押さえ込む。コーナーポストに上がり、敬礼しながらリングに横たわる相手に頭突きする「敬礼式ダイビング・ヘッドバット」で観客を沸かせる。相手の顔面を胸毛にこすりつける「胸毛ウォッシュ」には、戦意を喪失させる効果があるという。

 

コスチュームの胸元には「POLICE」のプリント。入場時にパトライト付きヘルメットをかぶったり、機動隊員を模した衣装や防護ベストをまとったりして会場を盛り上げ、リング上ではおもちゃの銃で繰り広げるパフォーマンスが笑いを誘う。目指すのは観客の「楽しい」の一言だ。

 

県内全商店街でのプロレス開催が当面の目標。試合前には子どもたちをリングに招いてルールを説明し、スクワットや腕立てを一緒に行う。「興味を持ってもらい、一人でも多くの人にプロレスを好きになってほしい」と目を輝かせた。

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