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(写真・神奈川新聞社)

 

【時代の正体取材班=石橋 学】東京都のローカルテレビ局、東京メトロポリタンテレビジョン(MXテレビ)の番組「ニュース女子」が問題になっている。沖縄の基地建設反対運動を取り上げた2日の放送がデマと偏見に基づき、沖縄や在日コリアンへの差別を助長する内容になっていたからだ。MXテレビ本社前では市民有志による抗議集会が続き、放送倫理・番組向上機構(BPO)が動くなど批判と波紋が広がっている。

 

「嘘(うそ)は『意見』ではないし、誹謗(ひぼう)中傷は『議論』ではありません。貴社自身の番組放送の基準に立ち返り、良心が残っていることを示してほしい」

 

19日、東京都千代田区のMXテレビ本社前で訂正と謝罪を求める申し入れ書が読み上げられた。3日前の放送で示されたMXテレビ側の見解への反論が込められていた。

 

〈1月2日に放送しました沖縄リポートは、様々な沖縄基地問題をめぐる議論の一環として放送致しました。今後とも、様々な立場の意見を公平・公正にとりあげてまいります〉

 

開き直りともとれるテロップが画面に表示されていた。

 

ニュース女子は、化粧品販売大手のDHCの子会社DHCシアターが制作する「ニューストーク番組」。2日は「沖縄・高江のヘリパット問題はどうなった? 過激な反対派の実情を井上和彦が現地取材!」と題し、軍事ジャーナリスト井上氏の沖縄レポートを放送した。沖縄県東村高江で米軍ヘリコプター離着陸帯建設に反対する市民を「テロリスト」に例えたり、「過激デモ」「反対派は日当をもらっている」と伝えたりした。反対運動の現場には行かずに「近づいたら危ない」などと報告し、「過激さ」を演出するものになっていた。

 

東京・中日新聞論説副主幹の長谷川幸洋氏がMCを務めるスタジオトークでも「(沖縄の)大多数の人が米軍基地に反対という声は聞かない」「沖縄の人はアメリカが好き。ここまで体を張って反対するのは地元の人とは思えない」などと選挙結果や各種世論調査と異なる内容のやりとりが交わされた。

 

■沖縄から目をそらさせる

 

「完全な嘘。反対派が暴力を振るっているとのデマも流されたが、実際は機動隊により反対派が暴力を受けている。しっかり取材して放送してほしい」

 

昨夏、反対運動に参加した田村誠さん(47)=都内在住=は憤る。反人種差別団体「のりこえねっと」が募集する「市民特派員」として沖縄へ飛んだ一人。現地の様子をツイッターなどで発信するのを条件に、カンパで集めた資金から飛行機代相当の5万円が支給されたが、宿泊費を含めて足が出たという。「なぜこれが日当になるのか」

 

座り込みの市民を力づくで排除する国家権力を目の当たりにした田村さんは言う。

 

「市民を守るでも、自然を守るでもない、ダンプで建設現場に運び込まれる砂利を守るため全国から500人の機動隊員が集められていた。沖縄の声や人権がいかに踏みつけられているか。今回の番組が作られた背景にあるのは安倍政権の人権軽視の姿勢だ。本土の側こそ自分たちの問題として直視しなければいけないはずだ」

 

番組には、事実をねじ曲げてでも沖縄や基地の問題から人々の目をそらさせたい意図を感じている。

 

19日の抗議集会には「デマで沖縄への偏見をあおるMXニュース女子をゆるさない」「デマ放送で沖縄の民意をおとしめないで」「ニュース女子はヘイトスピーチそのものです」などと書かれた横断幕やプラカードを手にした市民約60人が集まった。1週間前の3倍の人数だ。

 

「沖縄に基地を押しつけ、申し訳ないと思わなければいけないのに、どうして基地に反対する人たちの行動をあざ笑うような番組を放送できるのか。無理解、無知、無関心がなせるわざではないか」

 

呼び掛け人で雑誌編集者の川名真理さん(54)は、そうした無理解、無知、無関心をなくす機会をつくるべきメディア自身がデマを拡散させた責任の重さを考える。

 

「デマを広め、開き直る局の姿勢にこれからも声を上げていく」

 

26日と2月2日にもMXテレビ本社前で抗議集会を開く。

 

■権力の手先として

 

批判の高まりを受け、BPO放送倫理検証委員会はMXテレビに報告を求めることを決め、報告を受けて今後の対応を検討するという。

 

20日には制作を担当するDHCシアターがホームページ上で見解を表明。寄せられている批判や抗議への反論を掲載し、それらが「誹謗中傷」であるとの立場を明らかにしている。

 

〈DHCシアターでは今後もこうした誹謗中傷に屈すること無く、日本の自由な言論空間を守るため、良質な番組を製作して参ります〉

 

そのDHCシアターと親会社のDHCの両方で会長を務める吉田嘉明氏は同社ホームページで在日コリアンへの差別意識をむき出しにしている。

 

「似非日本人」「日本の悪口ばっかり言って」とゆがんだまなざしを向け、「芸能界やスポーツ界は在日だらけになっていてもさして問題ではありません。影響力はほとんどないからです。問題は政界、官僚、マスコミ、法曹界です。国民の生活に深刻な影響を与えます」などと妄言を書き連ね、「母国に帰っていただきましょう」と排斥をあおる「会長メッセージ」を公表している。

 

DHCはMXテレビの最大のスポンサーでもある。

 

差別は意図してなされ、そこには被害者がいる。

 

番組で「黒幕の正体」と中傷されたのりこえねっとの共同代表で、「韓国人がなぜ反対運動に参加するのか」「差別に闘ってきたカリスマ。お金ががんがん集まってくる」などと差別発言を受けた在日3世の辛(シン)淑玉(スゴ)さんは27日、BPO放送人権委員会に人権を侵害されたとして救済を申し立てる。

 

「在日であるからという理由でその活動を否定的に報道することはヘイトスピーチそのものであることを、同テレビ局は深く認識すべきです」

 

のりこえねっとが5日に出した抗議声明はそう指摘する。

 

辛さんは27日に開く記者会見を前に「地上波でヘイトを垂れ流した『ニュース女子』」と題した文章をつづった。

〈見ていて、こみ上げる怒りを抑えるのがこれほど難しかった経験はかつてなかった。胃液があがってきて、何度も吐いた。その後も、何気ない会話の中で突然涙が出てきたり、幾日も眠れぬ夜を過ごし、やっと眠れたと思えば悪夢にうなされた。私が、この番組の放つ悪意に冷静に向き合えるようになるまでには、時間が必要だった〉

 

在日コリアンとウチナンチュ(沖縄人)、同じく土地を奪われ、抑圧、排除され、孤立を味わい、それでも、痛みを共有するがゆえ矢面に立つ、立たざるを得ないという苦しみをさらし、振り絞るようにして書かれた言葉はこう続く。

 

〈この番組は、「まつろわぬ(服従しない)者ども」を社会から抹殺するために、悪意をもって作られ、確信犯的に放送されたのだ〉

 

〈為政者にとって、自分になびかない者の存在は、自らの優越性を否定されるため最も憎い存在であり、だから国家体制を批判する者には「非国民」のレッテルを貼り、他の国民が寄ってたかって攻撃するよう仕向ける。その手先としてメディアを使う〉

 

〈デマを流し、政権の尖兵(せんぺい)として憎悪扇動を行うこの番組を、決して許してはならない〉

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