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(写真・琉球新報社)

「序列主義を推し進めているのはマスコミだ」。ある教員が学力問題について指摘した言葉が胸に突き刺さった。2016年度の全国学力・学習状況調査(全国学力テスト)の公表を控え、教育担当記者が取材を進める中で出てきた言葉だった。この教員はこう指摘したという。「点数で見ると大きな向上でも、正答数で見ると1問分以下の差しかない。マスコミは数字のマジックに踊らされている」

 

本紙はこれまで、文部科学省が公表した各教科の都道府県別の平均正答率を高い順から独自に並べ替え、各教科の順位と、それを統合した「総合順位」を報じ、見出しにも取ってきた。沖縄県の学力水準を把握するには順位が大きな指標となると判断してのことだ。

 

平均正答率の比較が過度な競争をあおるとの批判も根強い。取材する中でも、対策に追われ疲弊する子どもたちや教員の姿もあった。文科省は「過度な競争が生じないよう十分配慮することが重要」とするが、現場教員から「人間の価値はテストじゃないといいながら、実際は点数で子どもや教員を評価することを毎日やらされている」などの声が多く聞かれた。点数、順位上昇を現場に求める無言の圧力があるのは間違いない。

 

知り得た情報を分かりやすく伝えるため順位を報道してきたが、かえって競争をあおっているのか。取材を進めるほどジレンマに陥った。

 

文科省は今回、「微少な差異は実質的な違いを示すものではない」として、これまで小数点1位まで示していた都道府県別の平均正答率を四捨五入した整数値に切り替えた。ただ平均正答率の基となる平均正答数は、従来通りの小数点第1位までだった。

 

今回も従来通り順位を報じるのか。教育担当をはじめ編集局内のさまざまな場で議論を重ねた。「順位を報じなくても全国平均、前年度との比較で県内の学力は把握できる」「順位は読者の関心事であり、知り得た情報は伝えるべきだ」。意見は分かれた。

 

議論の末、単純比較による都道府県の過度な競争を助長しないよう「総合順位」の報道はせず、各科目の都道府県別比較は従来通り小数点第1位まで報じるとし、編集局の各デスクによる会議で了承を得た。紙面でも「おことわり」を出し、見出しにも順位は取らなかった。

 

今も迷いは残る。局内でも順位を報じるべきだったとの意見、学力テスト自体の意義を問うべきだったとの声もある。

 

教育活動は、点数で測れるものだけが全てではない。問われているのは「学び」を育み、それを保障する環境をどうつくるのかだ。その視点を基本に、報道の在り方を模索していきたい。(瀬底正志郎)

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