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「モアナと一緒に一歩一歩進んでいけたらと思い、収録した」と語る屋比久知奈=那覇市内(写真・琉球新報社)

 

3月10日から全国で公開されるディズニーの新作アニメ映画「モアナと伝説の海」の日本語吹き替え版で、主役モアナの声優に沖縄市出身の琉球大4年、屋比久知奈(ともな)が選ばれた。可能性を秘めた輝きが評価され、ミュージカル初挑戦から2年足らずで次々とチャンスをつかんだ。「モアナはみんなを救うために新しい世界に踏み出す決断をする。私も初めての経験で大きな役をやらせてもらい、モアナと一緒に一歩一歩進んでいけたらと思い、収録した」と語る。

 

屋比久は1994年生まれ。芸能好きな家庭に育ち、母にバレエを師事した。「ミュージカルは大好きだったけど自分が飛び込むとは思っていなかった。英語が好きなので、英語を使う仕事がしたくて大学の英語文化専攻に入った」。同専攻では2年生が英語でミュージカルをする。屋比久は「フットルース」のヒロインを演じ、ミュージカルの初舞台となった。責任者の教員に勧められ、ミュージカル「H12」のオーディションを受けた。

 

「H12」は映画演劇文化協会のプロジェクトとして2015年5~6月に東京と沖縄で上演された。「東京で活躍する方々と同じ舞台に立てたことが刺激になって、ミュージカルの面白さと難しさに引かれた。『H12』がなかったら、この世界に入りたいと決断することはなかった」

 

「H12」のプロデューサーの勧めで、16年5月にミュージカル曲の歌唱力を競う「全国拡大版ミュージカル・ワークショップ『集まれ!ミュージカルのど自慢』」に出場した。応募総数2000余組の中から最優秀賞に輝いた。それを見ていたのが現在所属するビクターミュージックアーツのプロデューサーだ。「ダイヤモンドの原石だ」と感じた。客席にいた社長に相談し、その日にスカウトしたという。屋比久は「本当にこんなことがあるんだって思った」と笑う。

 

同年夏に事務所に入り、すぐ「モアナ-」のオーディションを受けた。10月にレッスンなどの名目で上京した際、事務所からサプライズで合格を知らされた。「人生で一番驚いた。予告を見て家族と『見に行こうね』と話していたので。台本をもらってからも信じられなくて、何日か『夢かな。夢じゃない』っていうのを繰り返した」

 

収録は昨年の秋から冬に行われた。「表現が声だけだと本当に難しかった」と振り返る。モアナと屋比久は見た目も似ていると評判だ。「私もモアナも海に囲まれた島で暮らしているので共感できる。最初に台本を読んだ時は強い女性というイメージがあった。何度も読み返すと不安や迷い、人間らしい部分が見えて、より共感できた」

 

印象に残るせりふに「私はモトゥヌイ(村)のモアナ」という自己紹介の言葉を挙げる。「何度も劇中に出るせりふで、モアナの成長が見えればいいと思った」。せりふはないが「最後にモアナが海を見詰める顔も好き」という。

 

主題歌も歌い、小柄な体から力強く伸びやかな歌声を生み出す。「海へ冒険にこぎ出す時もこの歌で、それだけの思いが歌われている。メロディーも歌詞もモアナをよく表している。言葉を一つ一つ丁寧に話すように、モアナの気持ちを表現できるように歌った。多くの人に聞いて、歌ってほしい」と力を込める。

 

大学卒業後は上京し、「ミュージカル(俳優)を目標にやっていきたい」という。「見てくれる人に何かを届けられるような表現者になりたい。沖縄でミュージカルが根付くことに貢献できたらいい。日本のミュージカルが沖縄に来て、沖縄発信のミュージカルもできたら面白い。その時は私も出たい」。この春、夢に向かって“冒険の海”にこぎ出す。

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