画像を見る

新型コロナウイルス感染症の影響を受け、苦しい状況に立たされている音楽業界。その中でも、ライブハウスの受けている被害は甚大だ。ライブハウスは流行初期段階で政府の専門家会議から、「ウイルスのクラスターが発生する危険性の高い空間」と指摘を受け、早い段階から営業の自粛を求められてきた。

 

沖縄でも2月末からライブの中止や延期が相次ぎ、いくつかのライブハウスも閉店することが決まっている。そんな中、那覇市安里にあるイベントスペース「G-shelter」は、前を向いた大きな事業転換を決断した。現店舗での営業を6月で終了し、インターネット上に移転するという大胆な発表を行った。話を聞くと、その取り組みは苦境を強いられているライブハウス業界の新たな救いの光になる可能性があると感じ、急きょG-shelterの黒澤佳朗オーナーに取材し、話を聞いた。彼らの取り組みや、問題に向き合い解決していく様子を、毎月の連載として紹介する。
◇聞き手 野添侑麻(琉球新報Style編集部)

 

【第一回はこちら】
https://ryukyushimpo.jp/style/article/entry-1145299.html

 

異例のスピード”入居”

 

―前回の取材から一か月。「移転先は、何も決まっていない」とのことでしたが、まさかのスピード入居(笑)。しかも新店舗は、那覇空港近くの倉庫施設。聞きたいことがたくさんありますが、まずここに決まった経緯を教えてください。

 

かなりの早さで新拠点が決まっちゃいました(笑)。新しいG-shelterは、撮影機材の販売などを行っている「株式会社プロ機材ドットコム」さんとの業務提携という形で、機材のショールームとして使用されていたスタジオに入居することになりました。実は、前回の取材中に担当の方からメールを頂いていたんですよ。それで内見に行ったら、頭の中で想像していた理想の物件そのもので、その日のうちに入居を決めちゃいました。那覇市内にあって、撮影に特化した物件で、広さがあって、すぐ後ろは海が広がっている。直観的に「ここだ!」って思いました。

 

―ものすごく広いですよね。スタジオとしてもいろんなことに使えそう!

 

前回も言ったように、今後のG-shelterは配信ライブなどの撮影を中心とした事業を行う予定です。今、考えているのは音楽事業と、一般向けの撮影事業の二本柱でいこうと考えています。ここは元々CMやMVなどの撮影で使っていたスタジオらしいので、そういった一般企業向けにも間口を広げて撮影に使ってもらえるように働きかけていこうかと思っています。県内でもトップクラスの広さを持つスタジオなので、持てあますことなく使っていきたいですね。G-shelterとして再び始動するためにも、ここをプロの撮影現場として耐えられる空間に作り上げていくつもりです。

 

異業種のタッグ!?

 

―今回、「株式会社 プロ機材ドットコム」との業務提携という形を取っていくとのこと。撮影機材のプロとタッグを組めるのは、配信事業をする上でとても心強いのではないでしょうか。

 

本当に心強いですね。撮影機材調達のご協力もしていただいて、とてもお世話になっています。プロ機材ドットコムさんとの協力関係を組むことになった経緯を話すと、彼ら自体、ずっと企業向けのオンライン展示会やオンラインイベントなどの配信事業に力を入れていた会社なんです。コロナ禍になって、音楽関係の配信相談もかなり受けるようになったところに、我々が配信事業に移るにあたって場所を探しているというニュースを見たそうで、一緒にやることで相乗効果があるんじゃないかと、声をかけていただいたという流れです。インターネットって、すごいですね(笑)。

 

海まで徒歩10秒?

 

―なるほど。そういう流れでしたか。まさしくタイミングが合致したんですね。この建物のすぐ裏には海も広がっていて、沖縄らしさも感じることができてとても良いなと思いました。

 

そうそう、それもこの場所に決めた理由の一つでもあるんですよ。G-shelterは県外から多くの出演者が来てくれる場所になっているのですが、スケジュールの都合上ライブを終えたらすぐに帰っちゃう彼らを見ていて、「沖縄に来た!」という実感をどうにか彼らに提供することはできないかと考えていたんです。なので、沖縄らしいアクティビティが楽しめる海辺の近くにお店を構えるのは、夢の一つだったんです。そして、いつか実現した時のために、実験を兼ねて毎年夏に海沿いのコテージを貸し切り「臨海シェルター」という音楽とともにいろんなアクティビティも楽しむイベントも行っていました。

 

そこにコロナショックが発生して、店舗を閉めるため国際通りから離れることになりまして、次の移転先を「アクセスの良い那覇市内にある物件」か、「アクセスが悪くても沖縄らしさが楽しめる海沿いの物件」で考えていたんです。ですが、ここにはその二つの条件が当てはまっていた(笑)。さらには元スタジオということで、すぐに配信もできる環境だった。もう300点満点ですよね(笑)。求める条件が全て揃っているので、それを使っていかに我々らしさを出していこうか、わくわくしています。

 

―それは凄い!とんとん拍子で話しが進んでいますね。本格的な始動は、いつからになりますか?

 

ミラクルが続いていますね。いろんな人に助けてもらいながら、段々と外れかけた歯車をまた回すことができていると思います。なので、国際通りの店舗を閉めるという判断は、次への舵取りのタイミングとしては間違っていなかったんだなと思いました。
音楽関係の稼働は、8月中旬以降から段階的に始める予定です。年内に大きめの配信イベントも決まりそうで、段々とクオリティを上げていけたらと考えています。

 

まずはスタジオをいっぱい稼働させてたくさんの成果物をあげたいと思っております。まだ私自身がこの空間で、どんなことができるのかわかってない部分もあるので、いろいろ試しながら学んでいきたいですね。ありがたいことに、すでにCM撮影やグラビア撮影などの稼働が始まっていまして、こないだまでライブの時はPAさんをしていたのが、いきなり「スタジオさん」なんて呼ばれ始めて、めちゃくちゃ新鮮です!(笑)。今までほとんど関わりのなかった業種の方とお仕事できる機会から専門知識をたくさん吸収させていただいておりまして、日々の勉強が楽しくて仕方ないですね。音楽事業を疎かにしないよう、気をつけないと…(汗)

 

BからCへ

 

―配信事業に切り替わるタイミングで、慣れ親しんだ名称も変えるかもしれないという話がありましたが、その件はどうなりましたか?

 

その件については、名前は変えずにG-shelterのキャッチコピーを変えることになりました。G-shelterには、「どんな人の居場所にもなれるように」という思いを込めた「in the place to be」というキャッチコピーがあります。配信事業になることで、人の集う場所という機能が中心ではなくなり「果たして、それはG-shelterなのだろうか?」という疑問が湧いてきたんです。そこで、コロナが落ち着いて再びイベントスペースに戻るまでの間は、今までと分ける意味でも、名称を変えることになるのかもしれないと感じていました。場所を変えることで、今までG-shelterが大切にしてきた自由性が、少しでも欠けてしまうなら、それはG-shelterではないと思っていたので。

 

でも、この物件を一目見た時に自由度が欠けるどころか、今まで我々が培ってきたものがより拡張して発揮できるポテンシャルを感じてしまって…(笑)。これはもう今までの延長線上であり、名前を変える必要はないと判断しました。でも、その代わりにキャッチコピーを変えることで、私たちの「次に進む」という意思表示を上手く表現することができるのではないかと思い、この期間だけ「in the place to C」というキャッチコピーを新たに掲げることにしました。我々の今後の動きの中に、「C」から始まる単語がキーワードとして挙がったことで、それらをキャッチ―に伝えることができるのでは、という狙いがあります。

 

例えば、配信事業になってインターネットの世界に移るという意味で、「クラウドサービス(cloud)」の「C」。あまり語る必要もないですが、「コロナ」「COVID-19」の「C」。次に配信を通して視覚体験を提供し、G-shelterが居るべき場所から見るべき場所に変わるという意味で「見る=see」、そして臨海の施設である事も重視しているので「海=sea」。この二つは読み方が「シー」なので、若干こじつけですが、同じ「C」ということにしました(笑)。

 

―なるほど!次のステップに進む中で出てくるキーワードを並べると「C」が浮かんできたのは、とても面白い発見ですね。

 

「in the place to “be”」から「C」に変えるだけで、今後のG-shelterのテーマを言葉遊び的に一気に表現することができました。また、読み方的にも「B」から「C」に変わるということで、次のステップに進んでいくぞという意思表示にもなるのも、うまくハマったなと思いました(笑)。

新しいG-shelterは、スタジオが主な運営という従来のライブハウスの運営形式からかけ離れた形を取りますが、そこも新しいキャッチコピーを通して、伝えたかったことなんですよね。以前の取材でも言いましたが、私たちはあまりライブハウスを運営しているという自覚が薄く、元々音楽以外に、映画上映、アート、討論会などいろんなクリエイティブな事柄の表現の場として、G-shelterが成り立っていった経緯があるので、ライブハウスとしての形にこだわりがあったわけではありませんでした。

 

そこで、新体制になるこのタイミングで「新しいライブスペース」としての形を提案させてもらおうと思っています。空間全てが真っ白、だからこそ出来る表現方法もあると思っています。それって今までライブハウスという現場がとりこぼしてきた音楽の表現でもあると思うんですよ。従来のライブハウスやクラブなどの枠にハマりにくかったインディペンデントな表現形態のアーティストもいると思うんです。今やインターネットも現場の一つで、ネットと親和性の高い音楽を作る人たちが世界中で台頭してきて、ここ沖縄でも増えてくると感じています。そういうアーティストも積極的に発信していける空間に出来たらと思っています。

 

各ライブハウス、これからどうしていくのか。それぞれのハコに特色があるように、それぞれに合った正解の形があるはず。我々はいろんな選択肢の中から、この空間を使って発信していくことを決めました。「配信はリアルな現場の代用になり得ない」と考える向きもあると思いますし、ずっと人の集まる場所を運営してきた私は、そこに関しては完全に同意します。それでもこの新しい試みを、今の状況を変えたいと願うアーティストらと一緒に企て、楽しみを多くの人に伝えていけるように努力していく所存です。

 

―今までジャンルに限らず、さまざまなエンターテイメントを発信してきたG-shelterが、配信に特化した形で戻ってくるのは、沖縄のアーティストにとっても心強いと思います。

 

それぞれのアーティストの表現方法に合った形で、この環境を提案しながら一緒に盛り上げていけたらいいですね。世界中がこんな状況下になって、彼らは今後の活動についてどうしていいかわからなかったと思うし、新しい形で彼らの表現をプッシュできるなら嬉しいです。

 

配信ライブってまだ世に出たばかりで、アーティストとリスナーのどちらも、利用するのに対して、今はまだハードルが高く感じているのではないでしょうか。でも、その価値観を変えていくことに対しても楽しみを覚えていますし、そのための場所を整えてインターネットから世界へ沖縄のアーティストを紹介していくことに努めたいです。

 

G-shelter info
【G-shelter HP】https://g-shelter.tumblr.com/
【G-shelter Twitter】https://twitter.com/Gshelter
【G-shelter ネットショップ】https://gshelter.thebase.in/

 

聞き手・野添侑麻(のぞえ・ゆうま)
2019年琉球新報社入社。音楽とJリーグと別府温泉を愛する。18歳から県外でロックフェス企画制作を始め、今は沖縄にて音楽と関わる日々。大好きなカルチャーを作る人たちを発信できるきっかけになれるよう日々模索中。

【関連画像】

関連カテゴリー:
関連タグ: