第49回 「イタリア人彼氏に、自国の政治についても文化についても疎くて嘲笑された頃」

投稿日: 2015年10月06日 17:00 JST

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10月某日 東京

先日、日本の女性が家庭の中でも外でも政治の話がなかなか出来ない、というテーマについてを語り合うNHKの朝の番組に出演したのですが、政治的言論の自由に規制を感じている女性がこれほど沢山いるという事実を私もこの機会に始めて知って、ちょっと驚きました。

安保法制の件で、今年の日本は確かに多くの人々が政治に感心を寄せていたようですが、そんな中、ママ友同士で政治の話をしたら引かれたとか、政治の話がきっかけで夫と険悪なムードになってしまったとか、子供の前で政治の話をするのは良くないのではないかといった悩みは、宗教的理由や何やらで男性優位が確立している国ならまだしも、日本のような民主主義の先進国には見合わない現状のように思えてならなりませんでした。

あの番組を見ていた人の中には「そりゃヤマザキさんの暮らしている海外では女性も普通に政治の話はできるかもしれないけど、海外式のあけすけさを日本人のメンタリティに求めないで」と感じた人もきっといたでしょう。しかし私があの場で感じた何とも言えないもどかしさは、海外の暮らしで育まれた見方故のものではありません。私の場合は生粋の日本女性である母が、子供だった私に平気で政治や社会情勢の話をするような人だったので、影響を受けたものがあるとすれば先ず一番に思いあたるのはそれです。

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小学生の私に容赦なく自分の考えを打ち明ける母と暮らして

昭和一桁生まれの母が一体いつからそういう話を堂々と人前でするようになったのかは判りませんが、彼女が学生時代に付き合っていた男性は後に中東情勢の研究者となった人ですから、恐らく若い頃からそういった事への好奇心は旺盛だったのかもしれません。

子供の頃の私にとっての母といえば、楽器の練習をしているか、家の中だろうとどこだろうとおっさんのように新聞をバサバサいわせながらめくって読んでいる姿です。エプロン姿で家事をしている母親らしい姿なんてほぼ見た記憶もありませんが、とにかく彼女はそのようなメディアによって焚き付けられた思いや考えを、自分の一番身近にいる誰か……夫は亡くしていたので、子供である私を相手に語ってくるのでした。新聞の記事に腹を立てたり同意したり、世の中の事情なぞ然程良く判ってもいない小学生の私に、容赦なく自らの考えを打ち明けるそんな母と暮らして来たせいで、私にとっては女性が政治や世の中の事象に感心を持つということは、全く当たり前の事になっていました。

しかし日本ではそんな環境にいた私ですら、後年イタリアへ渡った時は、私があまりにも自国の政治についても文化についても、周りにいた同年代の学生たちの誰よりも疎いことを嘲笑され、猛烈に恥ずかしくなったのを覚えています。初めてイタリアで惚れた男性からも、「社会や歴史や文化にも感心を持たずに、浮足たったファンタジーだけでどんな絵が描けると思ってるの?」という辛辣な意見を浴びせられて傷ついたりもしました。

お昼ご飯後の腹ごなしに家族みんなで選挙に行く

当時足繁く通っていた文化人のサロンには、南米や中東などの国々から政治的理由で亡命して来た作家たちも沢山混ざっており、彼らとの集いでは何がテーマの話題であれ政治の話題が介入するのは必至でした。そこに関心がなければ彼らの話題にはいつまでたっても入ってはいけません。男性であろうと女性であろうと若者であろうと年寄りであろうと、自分たちの生きる社会に対して自分たちのオピニオンを持つ事は当然であり、その意見を交換し合うコミュニケーションという手段をとらなければ人としてのどんな考えも熟成はしない、と彼らは考えているのです。

選挙にしても、投票日は家族が集まって昼食を取るのが恒例の日曜日なので、ご飯が終わった後の腹ごなしに子供も老人も含め家族全員で投票場に行く、というのがイタリアではどこの地域でも結構当たり前の光景になっているような気がします。選挙権のない子供たちも、そんな習慣を普通に身につけながら育ち、誰かに何かを言われなくても、自分がある一定年齢になったら投票をするのは当たり前の事だと解釈するようになりますし、国と自分とのかかわりについてを早くから自覚するきっかけにもなっているように思えます。

テレビを付ければバラエティ番組ではコメディアンやお笑いタレントが、政治家を風刺したような、かなりブラックなネタを堂々と披露して観客を笑わせていますし、友人が集まれば子供がいようと何だろうと全く自然にイタリアの情勢の話題にもなります。大人同士、意見が分裂して大声での言い争いにもなったりしますが、彼ら曰くそれは「喧嘩じゃなくてエネルギッシュなコミュニケーション」なのだそうです。情報をことごとく信じないイタリア人たちは、古代ローマの時代からこうして意見交換をすることで、その都度納得のいく見解をそれぞれ探り続けて生きてきたとも言えるでしょう。

このように、誰もが政治に関心を持つ事が至極当たり前で自然の事として捉えられているイタリアのような国があることを考えると、確かに日本では政治というものが未だ少なくない数の人たちにとって、日常からは距離感のある、何か“特殊なもの“という位置づけにあるようにも感じられます。ただ、今回のように沢山の日本の国民が政治に対して意見を持ったり思いを募らせたりしたのは本当に画期的な事ですし、もしこれが一過性のブーム的なノリで終わるものでなければ、きっと何年か、何十年か後には女性も政治情勢について自分たちの感じた事を自然に口にすることのできる、熟れた社会になっていくことは間違いありません。

欧州だってつい少し前までは、政治の議論なんかする女性は生意気だと思われていたのに、今では一国を女性のリーダーが司るのが当たり前の状況に進化しているのですから。

そして、政治というものを民衆が全く特別なものと捉えない日がくれば、母親が子供のいる前でも自国の情勢について話したり、ママ友同士が日本の未来について喋り合ったり、デモに参加したりしても、何の違和感も無い、人として当たり前の行為として浸透していくようになるでしょう。そして国民のそういった変化が、政治家たちの意識を変える大きなきっかけにもなるのだとも思います。

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ヤマザキマリ(漫画家・随筆家)

1967年東京都出身。17歳で絵画の勉強のためイタリアに渡り、国立フィレンツェ・アカデミア美術学院で、油絵と美術史を専攻。‘97年漫画家デビュー。『テルマエ・ロマエ』で第3回マンガ大賞、第14回手塚治虫文化賞短編賞受賞。著書に『国境のない生き方』(小学館)、『男性論』(文春新書)『スティーブ・ジョブズ』(講談社)『プリニウス』(とり・みきと共作 新潮社)など多数。シリア、ポルトガル、米国を経て現在はイタリア在住。平成27年度芸術選奨文部科学大臣賞受賞。平成29年イタリア共和国星勲章「コメンダトーレ」綬章。
 
公式サイト
https://www.thermariromari.com/

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