第50回 「〝スラリ・ヤング〟だらけの日本のビーチの様子に戸惑う」

投稿日: 2015年10月13日 17:00 JST

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10月某日 沖縄

先日ほんの数日ですが沖縄の離島に行く用事がありました。イタリアでも海からはそう遠くない場所に住んでいるので、実際に泳ぐことは無くてもビーチの様子を見に行ったりすることはたびたびありますが、今回の沖縄の海岸で驚いたのは目の前の美しい浜辺にいる水着姿の女性たちの中に、太っている人の姿も、ある年齢以上の人の姿もほとんど見当たらないことです。

私もその時は泳ぐ気満々で、さっさと水着になって海に入りましたが、服を脱ぐ時に妙な心地がしたのは、自分と同年齢くらいの女性や太めの女性が少なくともその周辺には一人も見当たらず、いたとしてもウェットスーツに身を包んで身体の露出を避けている人ばかりで、誰もビキニなど露出の多い姿をしていないことです。日焼け対策なのもわかりますが、浜でビキニ姿が許されているのは若くて余計な贅肉のついていない女性ばかりのようなそんな特異な光景は欧米では考えられません。

イタリアでもポルトガルでもブラジルでもビーチへいけば、そこにはミシュランのタイヤマンみたいな体躯の人や白髪の貫禄のあるおばさんたちが、普通にビキニを着て堂々とその辺を歩いたり横たわっていたりします。若い女性でも結構みな逞しい体つきをしていたり、ふくよかだったり、逆にすらりとした人を見かける確率の方が低いぐらいと言っていいでしょう。そんな光景が当たり前のものになっていた私にとって〝スラリ・ヤング〟だらけの日本のビーチの様子にはただただ戸惑うばかりでした。

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自分が自由に寛ぎたい場所にいてまで、人様の目を気にするなんてありえない

知り合いの同年齢の女性にその話をすると、「だってもう人様に見せられるような身体じゃないしビキニなんてとんでもない」との事でしたが、欧米の女性たちなら多分「自分の水着姿を人目に晒していいものかどうなのかなんて、そんな事考えた事もない!」と声を上げるでしょう。自分が自由に寛ぎたい場所にいてまで、人様の目を気にするなんてありえない、自由と開放感を人の視線に束縛される権利はないと思っているに違いありません。

日本では夏が間近になるとどんなメディアでも「水着の似合う身体」をうたったダイエット特集みたいなものが取り上げられますが、「水着の似合う身体」の真意は「ビーチでは人々の美観の妨げにならない体つきになりましょう!」というところにあるのでしょか? リラックスできる場所に行ってまで、自分が人様にとって目障りかそうでないかを考えなければならないなんて、自由や開放感を人様の視線に束縛されるなんて、そんな切ない話はありません。温泉みたいに素っ裸になれる場所ならそんな事は一切合切誰も気に留めないというのに……。

イタリアの男たちは自分の為に尽くしてくれるような女性の慎ましさや、
美のサーヴィス精神も欲しているのかもしれません

そういえば、飛行機の客室乗務員もアジアでは比較的、若くてすらりとした美人を多く起用しているようですが、欧米の飛行機内では通路に尻がはさまるのではないかと思わされるような、立派な体躯の無愛想なオバさんCAにもたくさん出会います。

どうも水着姿にしてもCAにしても、各国における意識の違いの裏側には何かもっと根深いものがあるような気がしてなりません。日本における女性の美は結局自分自身の為ではなく、周りの人の視線に過剰な心遣いがベースになっているのではないかと感じてしまいます。

かつてイタリアに遊びに来たお人形のような可愛らしく清楚でスタイルの良い日本人女性に、その場にいた彼氏たちの視線を奪われたイタリア娘たちから「ちゃらちゃら媚てんじゃないよ」と大攻撃を受けて酷い目にあっているのを目の当たりにしたこともありますが、彼女たちは自らの美しさや可憐さを人の視線のために磨いている女性を嫌う傾向がある様に思われます。でもイタリア男たちは自国を含む欧米の女性たちみたいに「現実を見ろ、妄想するな、女とは本来こういうもんだ!」的な見解を強いない、可憐な日本女性のあり方は救いになるでしょう。イタリアの男たちは女性を女神のように崇めたいと思っている傍で、自分の為に尽くしてくれるような女性の慎ましさや、美のサーヴィス精神も欲しているのかもしれません。それも欧米人男性が伴侶に日本の女性を選ぶ大きな理由にもなっている気がします。

そう、人は確かに誰だって、できれば綺麗で可憐なものだけを見ていたいでしょう。そして自分がそんな人々の欲求を叶えるに値する素材の持ち主であれば、それはもうどんどんアピールして皆を幸せな気持ちにしてほしいとも思います。私も最近はイタリアと日本の往復便には日系の航空会社ばかり使いますが、それは長時間狭い機内に閉じ込められている間は、巨体のおっかないオバさんよりもすらりとした礼儀正しく可憐なCAがいる空間を選んでしまうからでもあります。

とはいえ、ビーチは飛行機と違って開かれています。どうしても耐えられない水着姿があったら最悪場所を変えればいいだろうとも思いますが、とにかく老若男女、太っていようと痩せていようと巨体だろうと小さかろうと毛だらけだろうと無毛だろうと何だろうと、人間という生き物としての多元的な体躯の視覚的免疫をもっと日本のビーチ(そしてビーチにいる人)は付ける必要があると私は思います。どんな身体つきであってもそれも人として当たり前、と捉える気持ちが普通に世の中に浸透してくれる日がそのうち来ますように……。

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ヤマザキマリ(漫画家・随筆家)

1967年東京都出身。17歳で絵画の勉強のためイタリアに渡り、国立フィレンツェ・アカデミア美術学院で、油絵と美術史を専攻。‘97年漫画家デビュー。『テルマエ・ロマエ』で第3回マンガ大賞、第14回手塚治虫文化賞短編賞受賞。著書に『国境のない生き方』(小学館)、『男性論』(文春新書)『スティーブ・ジョブズ』(講談社)『プリニウス』(とり・みきと共作 新潮社)など多数。シリア、ポルトガル、米国を経て現在はイタリア在住。平成27年度芸術選奨文部科学大臣賞受賞。平成29年イタリア共和国星勲章「コメンダトーレ」綬章。
 
公式サイト
https://www.thermariromari.com/

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