第62回 「『クローズアップ現代』で話し切れなかったこと」

投稿日: 2016年01月12日 17:00 JST

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1月某日 東京

今回の日本での滞在期間中、『クローズアップ現代』というNHKの番組で、増えつつある外国人労働者との共生をテーマにした回のゲストとして出演しました。

私は10代半ばで海外に出て、欧州や中東や米国等で暮らし、今も外国人の家族を持って海外を生活の拠点にしていますし、それぞれの国における外国人への受け入れ方や対応の違いも体験していますが、日本人でありながら、日本にいてもどこか移民的な感覚が抜けないという意味でも、私の立ち位置は日本に暮らす外国人たちサイドに近いものがあるかもしれない、と思わせられる企画でもありました。

『クローズアップ現代』で焦点を当てられていた、日本で働くアジアの労働者たちは、日本人のメンタリティを理解したり、慣れない日常の習慣や国民性に合わせる難しさを吐露していましたが、場を読んだり悟るといった〝言語化が端折られたコミュニケーション〟は、確かに日常会話の量が日本よりも圧倒的に多く、感じた事は何でも言葉にするのが当たり前だと思っている外国の人にとっては難しいものに違いありません。

日本は他国と比べて適応難易度の最も高い国ではないかと、私は自分のこれまでの経験も踏まえて感じています。何せ日本人であってもマジョリティに属さない、違和感を醸すような言動を起こすと変な目で見られてしまう社会ですから(そしてそれがいじめの原因にもなったりしているわけで)、外国の人には適応するのは本当に大変な事だと思います。

かつて知り合った日本に暮らすとあるイタリア人男性は、イタリアでは自分の性格が消極的過ぎて、他のイタリア男みたいに愛情や情熱を言語化するのがヘタなので女性たちにはことごとく嫌われ(イタリアのような国では言葉に置き換えなくても考えている事を悟れ、みたいなのはほぼ通用しません)、おしゃべりも得意じゃないし、いつも自分の考えを言葉にしなくても済む日本に居ると心底からほっとするし馴染む、と言っていたのを思い出しました。彼のように自らの性質を客観的に理解し、そんな自分に馴染む土地として日本を選んでやってきた人たちは、積極的に、そしてスムーズに日本社会に溶け込むことも叶うでしょう。

でも就労が目的で日本にやってくる外国人には、そのような嗜好性や適合性といった条件は後回しになってしまいます。何よりもとにかくお金を稼いで家族を養いたい、貯めたお金を持って帰って自国で商売を始めたい、という生きるための完璧な〝義務感〟のみで移住する人は、例えば社会問題になっているシリアのような国の難民の人々にも言える事かもしれませんが、移民先の国の社会での適応失調に悩まされる展開を避けられないように思います。

私もイタリアへは美術という留学目的の為だけに移住をしたので、特別イタリアというお国柄に憧れたり惚れ込んでいたわけではありませんし、自分の性格がイタリアに合っていると感じた事もありません。ですから最初の11年間での滞在期間はこの国の様々な側面に馴染めず、時には嫌悪感すら抱き、ここでやるべき事だけやったら早く出て行きたい、とすら思っていました。しかし、ピークを越え、イタリア以外の他の国々に暮らす様になって(これも自分の意志ではなく、家族の事情によるものでしたが)、世界のどこにいても某か問題は起こるものだと諦観し、今ではどこにいても細かい事を考えずに毅然としていられるようになりました。

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お互いが困った時に、どこまで手を貸し合えるかどうか。助け合えるかどうか。

現在イタリアで暮らしている家に、週に2度お掃除に来てくれているロシア人女性とは、打ち解けるのに2年の歳月が必要でした。彼女もやはりイタリアが好きで移住したわけではありません。義務、という意識で止むを得ず、家族を養うためにイタリアに暮らしている沢山の移民の一人です。

彼女が自分のまわりにかたく張り巡らせた保守的バリケードには私も最初から気付いていましたが、お互いろくに会話も交わさぬまま月日が過ぎていったある日、私は掃除中の彼女からとある事を頼まれました。自分が通っているエステ施術師育成の学校で、リサーチの発表をするのにどうしてもイラストを描かなければならず、それをお願いできないかというので、私は太り過ぎて肉割れした女性の尻や太腿、喫煙し過ぎて肌の荒れた女性の顔など、リクエストされたままに画用紙に描きました。その機会を境目に彼女のバリケードも完全にではないけれど、以前程強固なものではなくなりました。

お互いが困った時に、どこまで手を貸し合えるかどうか。助け合えるかどうか。いろんな事が共有できなくても、判り合えなくても、適応できなくても、最終的に肝心なのはそういう事なのかもしれません。

この世に経済が大きく動く国とそうじゃない国とが存在する限り、戦争をする国とそうじゃない国がある限り、このような移民や難民が生まれる現象は人間という生き物の法則として過去からも繰り返されてきたように、これからも展開されていくでしょう。

ただし、日本は今まで他国による統治や支配を強いられてきた経験もありませんし、大陸の地域とは違って多様な人類との接触に慣れているわけでもありません。今になって日本にもグローバル化が必要だと急に焦って画期的な変化や結果を求めても、それは水しか飲んだことのない人にいきなり他の国では当たり前に飲まれている度数の高い酒を飲ませるようなもので、順応には日本という特異な国の性質に見合った時間の経過が必要なのだとも感じます。

何年くらい掛かるのかはわかりません。でもきっといつかそのうち、日本に限らず、世界中の人間が地球上に設けた国境という縄張りの脆さをもっと当たり前に感じるようになる時が訪れるのかもしれません。

以上、『クローズアップ現代』のコメント時間が足りなくて喋れなかった事でした。

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ヤマザキマリ(漫画家・随筆家)

1967年東京都出身。17歳で絵画の勉強のためイタリアに渡り、国立フィレンツェ・アカデミア美術学院で、油絵と美術史を専攻。‘97年漫画家デビュー。『テルマエ・ロマエ』で第3回マンガ大賞、第14回手塚治虫文化賞短編賞受賞。著書に『国境のない生き方』(小学館)、『男性論』(文春新書)『スティーブ・ジョブズ』(講談社)『プリニウス』(とり・みきと共作 新潮社)など多数。シリア、ポルトガル、米国を経て現在はイタリア在住。平成27年度芸術選奨文部科学大臣賞受賞。平成29年イタリア共和国星勲章「コメンダトーレ」綬章。
 
公式サイト
https://www.thermariromari.com/

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