第73回 「ツイッターが不似合いなイタリア人、ハマる日本人」

投稿日: 2016年04月05日 17:00 JST

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4月某日 東京

私はふだんイタリア語を話す家族と一緒の生活環境にいて、日本の媒体のために日本語を使った漫画や文章の仕事をしています。でもポルトガルやシリアやアメリカに暮らしていたときは、それら2つに加えて外の社会で使う言語が増えるので、毎日3カ国の言葉を状況によって使い分けてこなければなりませんでした。

そして、そういった様々な言語にはそれなりの、他言語とは重ならない特性というものがありますから、プロの方による巧妙な翻訳や通訳に置き換える事が最終的に可能だとしても、日常生活においては必ず「ああ、この遠回りなニュアンスはイタリア語ではうまく言い表せない」とか「日本語にするとパンチ力が減るな、日本語には向いていない」といった違和感がどうしても発生してしまいます。

それぞれの言語の持っている、こういったそれぞれの特徴や資質の違いは、例えばソーシャルネットワークの使い分けや利用率にも某かの影響を及ぼしているようにも思えます。

現在、世界においてツイッターの利用者数がフェイスブックを上回っている国は日本だけなのだそうですが、世界におけるツイッターの月間アクティブユーザーの数が3億2千万であるのに対し、フェイスブックは15億を越えているというのですから、その違いは歴然としています。しかも米国ではツイッターのユーザー数はどんどん減少傾向にもあるのだそうです。

しかし、それに比べて日本におけるツイッターの利用者数は年々延びていて、圧倒的にフェイスブックよりも多いというのは何故なのでしょう。私もこの2つのSNSの利用者ではありますが、やはりツイッターの使用頻度の方が高いのは、140字という限定的な文字数の使い易さにあるからかもしれません。140字というのは、恐らく日本語という言語にとっては扱い易い文字数なのでしょう。

つい数カ月前、ツイッター社が投稿文字数を1万字に拡張するという情報が飛び交ったときも「ツイッターに小説でも書き込めっていうのか!」と非難囂々だったそうですが、確かにツイッターの特徴は、その短い文字数で何を発信するのか、という「お題」的な要素にあります。

特に日本語は漢字という形態素の文字を使用しているうえに、短い言葉でも深みを醸す『俳句』や『短歌』という文化がありますから、140字でもそれなりの質感のある文を構成することは可能ですし、情報にしても漢字の力を使って詳細を書込む事もできます。

ところが欧州の言語で何かを呟こうと思うと、140字では単文的な構造のものしか打ち込めません。見て来たばかりの映画の感想もできればもっと深く文字として表現したいのにツイッターでは「昨日やっと〇〇を見に行った、凄くおもしろかった、また見に行きたい!」に、一言二言そえればもうそれで文字数が満杯です。でも文字制限もなく、写真もいっぱいアップできるフェイスブックであれば、そんな懸念はせずに自分の気持ちの赴くまま、書きたい事を書きたいだけ書込めるわけです。

我々日本人は四文字熟語や、先述した俳句や短歌などのミニマムな文芸形式の存在を教わり、それと同時に特に意味もないナンセンスな呟きやギャグも大好きな人種です。どちらにしても、少ない文字数でどこまでエンターテインメント性を出せるかということ自体が肝心になってくる。それが欧州の人たちが感じているであろうツイッターの不便さと物足りなさとの大きな違いと言えるでしょう。

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日本語は短い文字の構成で、イタリア人が口にする悪口よりも何倍も残酷で無情な表現も可能にしてしまう

ちなみにイタリアでのツイッター利用率がどれくらいなのかは知りませんが、少なくとも私の周りでは日本の出版業界と関係のある仕事をしている数人がやっている程度で、家族も含めて使っている人は殆ど誰もいませんし、感心すら示しません。考えてみたら、ツイッター程イタリア人のような口語コミュニケーション欲の旺盛な人たちに不似合いなものは無いとも言えるでしょう。

自分の言いたい言葉をまず140字という制限内で表さなければならない、その縛り自体が彼らにとっては許されない事であるでしょうし、朝目覚めてから夜寝るまで家でも家の外でも常に誰かと言葉を交わし、常に論議を好むあの国においては普及しにくくても当然の事かもしれません。愚痴や文句もかなり壮絶でお下品な内容なものが多いイタリア語ですが、あれはやはり文字としてではなく、人の口から弾け出てこそ効果をもたらすものといえます。

私が机の上のPCを睨みつつツイッターに打ち込む文字をじっと考えたりしている姿を家族などに目撃されると、「どうしてそんなものに対してそんなに熱心になれるんだ、信じられない、下らない」と呆れられますし、イタリア人的脳が優性になっているときは確かにツイッターなんてもどかしいツールは止めてしまおうかとも思う事もしばしばあります。日本語というのは短い文字の構成で、素晴らしい言葉だけではなく、イタリア人が口にする悪口よりも何倍も残酷で無情な表現も可能にしてしまう要素も持っています。私も幾度かそんな書込みで嫌な思いをしてきました。

しかし、それも含めて、ツイッターというのは日本人という人種と、そして日本語という言語の特徴を際立たせる上ではとても興味深く、そして実際日本人である自分にとってもどこか切り離し難いツールであるようにも感じてしまうのでした。

でもまあ、本心を言えば、ツイッターを覗いたり書込む言葉を考えたりしている時間を返上できれば〝どんなに仕事がはかどるだろう〟〝以前のように映画を見たり読書に耽る時間もどんなにか増えるだろう〟と、日々葛藤をし続けているのも事実です……。

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ヤマザキマリ(漫画家・随筆家)

1967年東京都出身。17歳で絵画の勉強のためイタリアに渡り、国立フィレンツェ・アカデミア美術学院で、油絵と美術史を専攻。‘97年漫画家デビュー。『テルマエ・ロマエ』で第3回マンガ大賞、第14回手塚治虫文化賞短編賞受賞。著書に『国境のない生き方』(小学館)、『男性論』(文春新書)『スティーブ・ジョブズ』(講談社)『プリニウス』(とり・みきと共作 新潮社)など多数。シリア、ポルトガル、米国を経て現在はイタリア在住。平成27年度芸術選奨文部科学大臣賞受賞。平成29年イタリア共和国星勲章「コメンダトーレ」綬章。
 
公式サイト
https://www.thermariromari.com/

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