第86回 「“熱帯雨林の昆虫”のようでも、異性は意識しない男性たち」

投稿日: 2016年07月12日 17:00 JST

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7月某日 東京

以前こちらのエッセイで、イタリアの我が家に週2回、お手伝いにやってくるロシア人女性のファッションについて書いたことがありました。最近は北イタリアのパドヴァの気温も30度を越す日が増えるようになり、彼女もピタピタのレギンスからお尻がはみ出すホットパンツに履き替える季節になったようです。彼女の性格は頑固で真面目、仕事中は無駄なおしゃべりは一切しません。決められた仕事を決められた時間内でしっかりとこなして帰っていきます。

彼女が家に来て最初の頃、自宅で仕事をする旦那は、目の前でお尻のライン丸見えの恰好でモップ掛けをしている姿に集中力を奪われっぱなしで文句をこぼしていましたが、最近は慣れてきたのか、または視線のやり場をコントロールできるようになったのか、何も言わなくなりました。

もともと彼女のそのセクシーな服装は男性を挑発する為のものではかった、ということを前回のエッセイでも書きましたが、実際、彼女と外を歩けばその姿を見た男性は思わず彼女を振り返ってしまいます。しかし、彼女の目的はそういった殿方の反応ではなく、殿方を振り向かせている自分が周りの女性の意識に止まる事にあるようです。

女性のダイエットについても、よく男性は「男は女性にはこんなに痩せてほしくはない。もう少しふっくらして欲しい。ガリガリなのは御免だ」なんて言葉を口にしたりしていますが、私の見解では女性たちのほとんどは男性に好かれたいが為にモデルのような体型に憧れているわけではないと思うのです。女性たちが憧れの体型に近づかせたいと思うのは一種の創作願望に近いものがあり、努力の末に作り上げた造形作品は、先ず同性である女性から評価されたい、という思いがあるのではないでしょうか。

まあ個人差があるので一概にはああだこうだとは言い切れませんが、昨今はイタリアでもダイエット意識を過剰に持ってしまった女性が増えて、男性がそれに対していかなる不平不満を口にしても(イタリア男子は普遍的にグラマラスな女性を嗜好する傾向があると思われる)、痩せたがる女性の減る気配が無いところを見ると、やはり彼女たちも男性に評価されるのが目的ではない、というのがはっきりわかります。

考えてみたら、私が高校時代に頭を剃ったりパンクの恰好をしていたのも、あれは私自身が自分の社会に対する理念を表現する創作だったからであり、松田聖子や中森明菜が男子たちに大人気だったあの頃、異性の目を意識していたら絶対にできないファッションだったと言えるでしょう。

そしてその自らのイメージ造形への気合いや執着は、決して女性に限られたものではなく、男性にも当てはまる事かもしれません。

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彼等のそのスタイルは、やはり異性よりは同性の目を意識したもの

フィレンツェでは年2回、ピッティ・ウォモという世界最大級の男性プレタポルテの見本市が開かれますが、来期からリニューアルされるNHKイタリア語講座で始まるイタリア美術コーナーの収録のために、このイベントの開催期間にフィレンツェを訪れていた私は、たまたま通りかかった会場の前で、着飾りまくった大勢の男性来場者たちを目の当たりにする機会に見舞われました。

この街に11年間暮らしていた時もピッティ・ウォモのイベントの存在自体は知っていましたが、来場者を間近に見たのは今回が初めてだったので、辺り一面お洒落に気合いを入れた男性しかいない、という状況はあまりに印象的でした。

この時に撮影した写真は私のブログの方にアップしてありますので、ご興味のある方はご覧になって頂きたいと思うのですが、とにかく皆さん、自分の仕立て方が半端じゃない。くるぶしから覗く素足に素敵な革靴はもはや定番ですが(これについては、かつてピッティ・ウォモを訪れた日本人のファッション関係者が火付け役で、イタリア人たちがそのスタイルをこぞって真似しているうちに、イタリア男子のお洒落のお約束みたいになってしまった、という説もあります)、今年はやたらと白スニーカーが目立ちます。

仕立ての良い半ズボンスーツという出立ちのおじさんたちもいますし、ベルトからスカーフをふわりと垂らし、ズボンのポケットに両手をつっこんで颯爽と歩いている人もいます。ピンクに白にブルーに赤、様々な色使いのアイテムを微妙な配置で身にまとい、表情も何やら皆さん、注目されていることが当然という様子で決まっている。

なるほど、男の人たちって服装に気合いを入れるとこういうことになるのか! という新鮮な驚きに私はただただ呆気にとられ、そして、ふと熱帯雨林の鳥や虫の事を思い浮かべてしまいました。そう、熱帯雨林の鳥類や昆虫は、雌よりも実は雄の方がずっと鮮やかで派手な仕様になっています。特に鳥はその派手さに無事に子孫が残せるかどうかが掛かっているわけです。

しかしそこに集まっている男性たちの気合いの入ったお洒落をみていると、どうも女性へのアプローチとは別次元のもののように思えてなりません。彼等のそのスタイルは、やはり異性よりは同性の目を意識したものであり、ソフトにそれぞれのファッションセンスを競い合っているようにも見えてきます。

私はふと、もし自分の恋人が待ち合わせ場所に、ここにいる人みたいな服装で現れたらどうするだろう、というシュミレーションをして、思わず額に冷や汗を浮かばせてしまいました。日本ではお洒落で斬新な女子が男性に敬遠される傾向がある、という話を聞いたことがありますが、まさにそれが逆の立場にも当てはまります。この人たちに釣り合う女性ファッションもそりゃあ、あるとは思いますが、それ以前に彼等が女性を意識して洋服を選ぶのかどうかもわかりません。きっと、何よりも大切なのは同業者やファッション業界の人たちと相互に触発し合えるかどうかであり、やはり女性と同じく、自分という造形作品がどう周りから評価されるか、ということなのかもしれません。

ピッティ・ウォモ会場から出てくる来場客の波に身を委ねて、様々な男性用香水が漂う中、駅への道を向かって歩いていると、おしゃれな男たちが次から次へと流れて行くその有様を、ぼんやりと眺めている工芸品店の職人さんと思しき白髪のお爺さんが目に入ってきました。

お爺さんは私と目が合うと「…凄いもんだねえ…」と笑っていましたが、すました表情で気合いが入りまくった作品展示の行列みたいな男たちの群れの中、そのよれよれのシャツを身にまとった究極的に謙虚な佇まいは何とも素敵で、緩んだ笑顔には色気すら感じられる程でした(いや、別に高齢者フェチではありませんからね!)。

まあ、このお爺さんだってその昔はイケイケのスタイルでフィレンツェの街を闊歩していたのかもしれませんが、ホットパンツからお尻がはみ出ている女性にしても、素足に革靴の男性にしても、セクシーさを強調しつつも本質的に異性を意識していないファッションというのは、ある意味人類という生き物の進化の特異性示す象徴的なものと言えるような気がします。

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ヤマザキマリ(漫画家・随筆家)

1967年東京都出身。17歳で絵画の勉強のためイタリアに渡り、国立フィレンツェ・アカデミア美術学院で、油絵と美術史を専攻。‘97年漫画家デビュー。『テルマエ・ロマエ』で第3回マンガ大賞、第14回手塚治虫文化賞短編賞受賞。著書に『国境のない生き方』(小学館)、『男性論』(文春新書)『スティーブ・ジョブズ』(講談社)『プリニウス』(とり・みきと共作 新潮社)など多数。シリア、ポルトガル、米国を経て現在はイタリア在住。平成27年度芸術選奨文部科学大臣賞受賞。平成29年イタリア共和国星勲章「コメンダトーレ」綬章。
 
公式サイト
https://www.thermariromari.com/

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