第89回 「ゲームも使いよう」

投稿日: 2016年08月02日 17:00 JST

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8月某日 北イタリア・パドヴァ

 

もともとゲーム類に興味がありません。スマホでもゲームをしたことはないし、飛行機での長時間移動でもゲームをやったことはありません。しかし、今から30年くらい前、フィレンツェで画学生をやっていた頃、我が家に日本からやってきた中学生の女の子が2週間程滞在していたことがあり、その子が持って来たニンテンドーのゲームボーイでテトリスを試しにやらせてもらったら、夢中になってしまったことがありました。

 

女の子は帰国後、すぐにテトリスのソフト付きでゲームボーイを送ってくれましたが、お陰で寝ても覚めても頭の中はロシア民謡のコロベイニキとともにテトリスの落下物画像が延々と映し出され、ありとあらゆる考え事の展開がその落下物の速度とシンクロする、という変な癖がついてしまいました。

 

そんなテトリス依存からどのように解放されたのか全く覚えていませんが、おそらくゲームやテクノロジーを嫌悪していた詩人の彼氏との大喧嘩がきっかけになったのでしょう。

 

当時、イタリアではゲームボーイはほとんど普及しておらず、ゲーム自体子供の教育には良くないものという〝定説〟がある中、当時20歳を過ぎた女性が、フィレンツェの街角であの機械をいじりながら自分の世界にはまっている様子は、確かに異様なものだったはずです。学校でも家でも「あんた、頭大丈夫!?」と問い質されることが何度もありました。でも、依存と言われようが何だろうが、私はあのゲームをすることで、本を読む事以外に、食べるものもろくに買えない日常の貧困や彼氏との軋轢、仕事と学業の両立でつのらせていたストレスから、一時的であっても解放されていたのです。健康に大きな害を及ぼす危険なものへの依存に比べたら、まだマシだったと思います。

 

なので、イタリアで生まれた子供を2歳で日本に連れ帰り、その後彼を日本で育てている最中に、小学校の同級生たちと一緒に遊びたいからとニンテンドーの小型ゲーム機を欲しがられた時も、別にあれこれ言わず、普通に買ってあげることにしました。それがないと、学校のお友達と楽しく遊べないというのなら、持っておくべきだと思ったからです。

 

ただし、当時の私はかつてのゲームボーイで養ったゲーム愛をすっかり喪失していましたし、興味も全くなくなっていたので、息子には「言っとくけど、ママはゲームには関心はないからね」とだけ断言しておきました。私のその態度は、その後子供が遊戯王やポケモンのカードゲームにはまった時も、頑として変えることはありませんでしたが、ある日、彼に「やり方を覚えれば面白いから、そんなに嫌がらないで一度試してほしい」と言われ、仕方なく面倒臭いルールを把握し、時々5分くらいだけ、申し訳程度に遊んであげることにしました。

 

私が子供だった頃、母は私が漫画を読むのをとても嫌いました。当時私の気持ちを沸き立たせる自分とってかけがえのない漫画が、自分にとって一番身近な理解者であるはずの母に頭ごなしに否定された、あのがっかり感は未だに胸の奥に滞っています。そういう過去の思い出が反面教師となって、子供が興味の持つ事には一応理解を試みよう、という意識は常に持つようにしてきました。

 

ですから、子供に「どうしてこんなに面白いカードゲームが嫌いなの」と問い質された時も、私ははっきり「中味の見えない袋にカードを入れて、欲しいカードが出てくるまでどんどん買わせるという、子供の小遣い巻き上げ商法が大嫌いだから」と、本心をそのまま伝えました。「じゃあ、お金がかからないカードなら一緒に遊んでくれるの?」と言うので、私は忙しいにもかかわらず、手描きの自家製のカードゲームを作ることにしてあげたのです。

 

『動物カード』と称していたその自家製カードに描かれているのは、子供が動物や鳥類、昆虫、魚類などの図鑑から見つけてきた、世界中に分布する様々な生き物たちで、ゲームはその他のカードゲームと同じく、皆それぞれの能力や力や属性を生かしてバトルをする、という仕組みのものでした。

 

それがきっかけで、子供は熱心に図鑑を見るようになり、図鑑大好きな私にしてみれば同じ興味を持って森や山や川に出かけてくれる仲間が増えてくれて「しめしめ」という気持ちにもなりました。

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ポケモンGOの及ぼす影響というものも、国によってさまざま

日本では先日ポケモンGOが配信開始になったそうですが、イタリアのこの街にも、時々ですが若い子が携帯を睨みながら歩いている姿を見かけます。恐らく日本に比べたら利用人数は格段に少なそうですし、ここは漫画やアニメやゲームが未だにどことなく軽視されている社会ではあるので、爆発的に普及することは考えられないでしょう。なので、日本のように親子が揃って利用者で、一緒にポケモンGOの話題で盛り上がるとか、情報を分かち合ったりする、ということはあまりなさそうです。

 

最近は少なくなりましたが、数週間前までは、こちらでも人と会えばと必ずといっていいくらいポケモンGOについての話題になりました。ニュースでもアウシュビッツにまでポケモンがいる事を〝倫理観の崩壊〟と捉えた内容で伝えていましたし、イタリアのような国ではこのゲームを真っ向から否定する人が結構いますから、よく「日本ではどうなの、どう思われているの」と問い質されたりもしました。

 

ポケモンGOは既にこの世の中に、大きな拡大勢力を持って出現し、これによって日常にちょっとした楽しさをもたらされた人が数えきれないくらいいるのも事実で、今更その存在自体を〝良い〟とか〝悪い〟とか言っている次元のものではなくなっているように思います。日本でもポケモンGOについては、事故などの危険性以外の見地でも、利用自体において論議をかもしていたりもするようですが、要はこのゲームのあり方を客観的に認識したり分析できるアビリティが個人に備わって人に迷惑さえかけなければ、どれだけ遊ぼうが何をしようが、依存になろうが飽きてしまおうが、あとは本人の自由だと思うのです。

 

ポケモンGOのお陰で家に閉じこもりがちだった人が外に出るようになったり、それまで意識していなかった名所旧跡に辿り着いて、歴史に興味を持てるようになった、といった報告もネット上でちらほら見かけます。中には、情報交換の為に、外でも知らない人と普通に言葉を交わせるようになって嬉しい、という人もいます。それまで人が集まる事もなかった日本全国の空き地や公園に、スマホを持った大人たちが何かに取り憑かれたように集まっている光景は異様ではありますが、そのうちそれも、人々にとっては日常の見慣れたものと化していくのでしょう。

 

イタリアみたいな国でその話をすると、「そんなことにポケモンGOがアテにされているなんて信じられない、おかしい!」と呆れた顔をされます。ゲームの力を借りないと社会に溶け込めないという解釈は、確かにこういう国の人には大きな動揺をもたらします。しかし、日本はイタリアに比べて日常のコミュニケーション率も少ないですし、外で赤の他人と言葉を交わすことなど滅多にありません。毎日あてもなくうろうろと、ジェラートを頬張りながら夜中まで広場を歩き回り、知らない人とも他愛もなくおしゃべりを交わせるイタリア人の国民性とは大きな差異があります。人や国が多様な分だけ、ポケモンGOの及ぼす影響というものも、その分様々だということだと思います。

 

配信開始日、Facebookのタイムラインに、ポケモンGOを使い始めたばかりの知り合いの漫画家さんが路上にいる普通の鳩の写真と一緒に「ポッポいた!」とコメントをしていて、ちょっと微笑ましくなりました。翌日、私も自分の家の前の川で巨大なヌートリアを見かけたので、思わずこれはチャンスだと写真に収めて「ヌートリアGET!」とFacebook上で報告をしたら、お友達から「うちのニホンコガネムシとトレードしませんか」とか「進化系はヌートリアスですね」などという書込みが。

 

昔、子供のために作った自家製カードを思い出しつつ、とりあえずは家の近所の生き物で、自己流ポケモンGOを楽しみたいと思います。

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ヤマザキマリ(漫画家・随筆家)

1967年東京都出身。17歳で絵画の勉強のためイタリアに渡り、国立フィレンツェ・アカデミア美術学院で、油絵と美術史を専攻。‘97年漫画家デビュー。『テルマエ・ロマエ』で第3回マンガ大賞、第14回手塚治虫文化賞短編賞受賞。著書に『国境のない生き方』(小学館)、『男性論』(文春新書)『スティーブ・ジョブズ』(講談社)『プリニウス』(とり・みきと共作 新潮社)など多数。シリア、ポルトガル、米国を経て現在はイタリア在住。平成27年度芸術選奨文部科学大臣賞受賞。平成29年イタリア共和国星勲章「コメンダトーレ」綬章。
 
公式サイト
https://www.thermariromari.com/

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