第95回 「『未来には良いことしかない!』オーラがあふれた時代」

投稿日: 2016年09月20日 18:00 JST

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9月某日 東京

先日、仕事をしながらぼんやりテレビを眺めていたら、私と同じ歳の田中美奈子さんが真っ赤なボディコン姿で携帯電話会社のCMに出ているのを見て、ついバブル時代を題材にした一本の映画を思い出し、〝あの時代〟に思いを馳せてしまいました。

 

シカゴに暮らしていた時、仲良くして下さっていた当時の在シカゴ日本総領事館の総領事が、「ヤマザキさん、これ面白いから是非見て下さい」と貸して下さったのが、『バブルへGO!!』という映画のDVDです。

 

『テルマエ・ロマエ』の映画版が公開されて間もない頃です。『テルマエ・ロマエ』で主人公を演じて下さった阿部寛さんのことを、総領事が「この作品(バブルへGO!!)でも実に良い味を出しているんですよ。素晴らしいですよ、阿部さんは!」というので、早速この映画を見たわけですが、その時も、観賞後に私は、全体的に面白いとか楽しかったという次元を通り越した、強烈な感慨深さに見舞われてしまいました。

 

阿部さんのバブリーな佇まいも凄かったのですが、あの頃の日本を知っている人間ならば、誰しもが当時の自分自身のあり方を振り返らざるをえなくなる、そんな要素が込められた映画だったからです。

 

1980年台の半ばから1990年代初頭にかけての、あの一言では形容し難い不思議な時代。私はちょうどイタリアに留学をしていた頃なので、その時の日本の様子を端から端まで知っているわけではありません。しかし、日本から遠く離れたイタリアに居てでさえ、私は日本で起っていたこのバブル現象の煽りを受けながら過ごしていました。

 

まず、それまでの日本では海外旅行は誰でも気軽に行ける、という類いのものではなかったはずなのに、ある時期を境目に突然、私が暮らしていたフィレンツェの街中にも日本人観光客の数がどさっと増え始めました。それによって、現地のガイドの数だけでは足りなくなって、私のような画学校の留学生にまでアルバイトの声が掛かるようになったのです。私が頼まれたのは貿易商の方や、個人旅行でいらっしゃるとても裕福な方たち専門のガイドだったので、彼らと数日をともにするだけで、日本におけるその当時の経済的価値観のリアルな異常さを、目のあたりにすることができました。

 

そういう方たちは、お店などに入ると本当に「ここからここまで全部頂戴」という言葉を普通に使われますし、コンビニのような気軽さで訪れた宝石店でも、大した時間もかけずに何千万円単位のお買い物をされるのです。私への日当もたしか1日で3万円くらいだったと思いますが、たまにそんな方々と一緒に過ごしてしまうと、貧乏であるはずの自分の金銭感覚がおかしくなってしまい、外での食事でも1本何千円もするようなワインを平気で開けたりもしていました。家に帰ればガスも水道もあらゆるインフラが料金未払いで止められているにもかかわらず、です。

 

フィレンツェまで遊びに来てくれた日本の友達も何人かいましたが、だいたい皆髪型はソバージュで肩パットが入っていながらも女性らしい体の線が出るように絞られた縫製のスーツ、またはTシャツの覗くコットンシャツをインした細身のジーンズという当時の今井美樹さんを彷彿とさせるスタイル。エルメスのスカーフに足下はフェラガモのヴァラ、バッグはグッチかプラダかシャネルかルイ・ヴィトン、真っ赤な口紅に太い眉毛。彼女たちの私へのお土産は私が喜ぶであろう日本のお菓子とかではなく、たいてい免税店で買ったブランドの口紅などの化粧品でした。

 

ブランドものは中年になってから持つもの、それ相応の経済力も無い人間が身に付けるとただひたすらみっともないもの、という考え方が定着していた当時のイタリアでは、そんな有様の若い日本人女性が列を連ねて歩いている光景は、不自然極まりないものでした。

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ラテン的な性質にかなり近い、元気さがあったバブル時代のメリット

先述の『バブルでGO!!』では、六本木あたりで夜遊びをした人々がタクシーを捕まえるのに1万円札を一斉にヒラヒラさせているシーンが出て来ます。イタリア人の夫と一緒にDVDを見ていた私は、「さすがにこれはないわ」とコメントしたものの、大分後になって、東京のタクシーのおしゃべりな運転手さんから「バブルの時代は誰も彼も普通にタクシーを使っていたから、捕まえるのがなかなか大変で、皆1万円札をひらつかせていたんスよ」という言葉を聞き、思わず黙り込んでしまいました。手にしているものをひらつかせる、という行為の軽卒さとえげつなさ。デリカシーもへったくれもありませんが、皆そんな時代を当然のように謳歌し、日々のあれこれが楽しくて仕方なかったわけです。

 

実際、イタリアでも視聴率がそれほど高く無い夕刻になると、1980年台後半くらいに公開されたイタリア映画やアメリカ映画が放映されていますが、そんなのをぼんやり見ていると、画面全体から放出してくる、圧倒的な「未来にはもう良い事しか有りません!」的なオーラに面食らわずにいられません。第2次大戦が終わって四十数年、それまでこつこつと進めてきた経済復興の発展が頂点に達し、それでもまだその上には別の頂点があるんだと思わせるワクワク感を誰しも感じることができたのが、あの時代のみに特化した凄さでありましょう。

 

そういえば、冒頭で触れたあの携帯電話会社のCMの田中美奈子さんが放っている、自らの美しさとパワーへの礼賛オーラは昨今の女子を10人集めてもなかなか叶わないもののような気がします。田中さんみたいに美人でスタイルの良い人ばかりではありませんけれど、まさにあれぞ、バブルの時には当たり前に見かけることのできた女性たちの姿だったのです。そして、そんなパンチの効いた女性たちを口説くのに、男子たちも相当ギラギラしていたはずなのです。でも、みんなそれくらいカロリー燃焼率が高い毎日を過ごしていたはずであり、彼らは今よりも、メンタル的にずっと元気だったようにも記憶しています。お金の力に手伝ってもらったにせよ、ラテン的な性質にかなり近い、多少のはったりやボーダーレスさもなんのそのだった、あの元気さがもたらしたメリットも、それなりにあったのではないでしょうか。

 

荒んだ事象に溢れる昨今の世の中、例え経済的にはあの時ほど豊かなものは望めなくても、単純に人々が、将来への澱みの無い前向きな思いを抱くキラキラした時代が、また何かの拍子でやってこないものだろうかと、バブル時代の人々を見て来た私はついつい思ってしまうのでした。

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ヤマザキマリ

1967年東京都出身。1984年からフィレンツェに11年間在住、油彩、美術史等を学ぶ。1997年に漫画家としてデビュー。2010年『テルマエ・ロマエ』で第3回マンガ大賞、第14回手塚治虫文化賞短編賞受賞。シリア、アメリカ、ポルトガルを経て現在はイタリア・パドヴァ市在住。最新作は『スティーブ・ジョブズ』『プリニウス』等。平成27年度文化庁芸術選奨文部科学大臣新人賞受賞。

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