第97回 「イタリアの“小池百合子”の苦しみ」

投稿日: 2016年10月04日 19:00 JST

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10月某日 北イタリア・パドヴァ

日本では、小池百合子東京都知事が連日ニュースで取り上げられていますが、こちらイタリアでは今年の夏に37歳という若さで、女性として初めてローマ市長となったヴィルジア・ラッジさんが話題です。

 

当初は彼女の若さや美しさ、そして意気込みに対して好意的な報道でしたが、ローマに積み重なっていた様々な課題や問題を抱え、最近では「美人市長、仕事がハード過ぎて激痩せ!?」「退任秒読み!?」など、その人気は減速する一方です。思えばラッジさんも、前市長が公費流用疑惑などで辞任した後、汚職撲滅や公共サービス向上などを唱えたことで多くの支持者を得て、圧倒的な票数を勝ち取ってローマ市長に選ばれたわけですが、就任してからまだほんの数ヵ月、彼女に対する負の世論には容赦がありません。

 

ラッジさんにはもともとカメラマンの伴侶がいましたが、ゴシップ誌によれば弁護士で政治家としても活動していた妻のキャリアへの嫉妬が原因で諍いが絶えず離婚。今はラッジさんは1人息子を育てるシングルマザーですが、仕事と家庭の両立はただでさえ容易なことではないのに、ましてやローマのようなトラブルと問題の玉手箱のような街の市長を勤めるとなると、生半可な体力と精神力だけではなかなか難しいのでしょう。

 

確かに最近テレビで見かけるラッジさんはすっかり頬もこけてしまい、当選当初のような力強い目ヂカラも感じられません。彼女の健康状態や行く末を懸念する男性たちに、毒舌のイタリア女性は「ちょっと若くて綺麗だからって投票したあんたたちが悪いのよ」と妬みたっぷりの言葉を叩き付けていますが、ラッジさんの女性として、そして母親としても頑張る佇まいを見ていると〝汚職だとか公費流用だとかからは遠く離れた次元にいそうな人を選びたかった〟という、多くの人々の気持ちを汲み取れなくもありません。

 

実際ラッジさんはそれまで財政官の権力と癒着の象徴となっていた、ローマ市本部庁舎を市民に解放することで空気の入れ替えをはかり、未だに女性就労率の低いイタリアにおいてシングルマザーでありながらバリバリ働く女性のひな形として多くの女性にも支持されています。

 

しかし、市民のウケがいくら良くても政界というのはあらゆる人間のさがが露顕した、甘えの許されない世界です。ラッジさんも公にはならない場所で、彼女自身や彼女の所属する政党に反発する人々から圧力をかけられて、きっと様々な思いを強いられているに違いありません。

 

イタリアにはもう1人、エレナ・ボスキさんという若くて美人の政治家がいますが、彼女はラッジ市長より雰囲気もオーラも女性的であり、書類にサインをしようと屈めた姿勢をとった時にパンツの下のTバックが見えてしまったことで、それがメディアの恰好のネタになったりもしました。官能的な作品ばかりを撮る映画監督ティント・ブラスに「ああ彼女を自分の映画に起用できたら……」と呟かせてしまうほど、ある意味で注目度の高い人物でもあります。

 

女性への必要最低限度のマナーは守るイタリア男たちですが、政治という昔から男性が構成してきた社会において、女性が女性ならではの考え方や言動を浸透させようとする姿勢を目のあたりにすると、違和感や警戒心、人によっては嫌悪感も隠さず露わにしてしまうのでしょう。

 

〝女性は結婚をして子供を産んで家庭を守ってりゃいいんだ〟という考えに捕われている男性は、実はイタリアでもまだまだ多いですし、いくら女性の政界進出が進んでも、女性たちが偏見を持たれている兆候は、あちこちに散らばっています。

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パンチの効いた女性の存在を受け入れることが成熟をもたらす

しかし、基本的な視点で捉えると、ここイタリアには古代から多くの女神や、そして聖母マリアを敬い続けるバックグラウンドがあります。何より、イタリアといえばマンマ(母親)崇拝国家でもあるわけですから、表では女性を卑下したり荒ぶった言動を取るような捻くれた男性も、マンマから呼び出しがかかればそれに背くことはほぼ無いでしょう。

 

加えて、気のせいかもしれませんし、自分の身の回りの人間限定なのかもしれませんが、イタリアの男性たちは女性を全般的に “サザエさん”的要素を持った存在として見ているところもあるように時々感じます。女性というのは本来頑張っているつもりでも、一生懸命であっても、ついうっかりどこで何をしでかすか判らない生き物、という諦観的心構えも彼らには育まれているような気もするのです。

 

うちの旦那なども、年輩の女性が運転する車がウィンカーも出さずに図々しく割り込んできたりすると、咄嗟には汚い言葉が出てしまっても、その後は「シニョーラ(マダム)……ほんと勘弁してくださいよ、もー」とおどけてみせます。それがヤカラだった場合は猛烈な罵詈雑言が噴出するはずですが、女性に対してはどこか「これはもう仕方がないこと」的な対処があるのです。きっとその心理の奥底には自分の母親の姿が重なっているのかもしれません。

 

日本でもこのところ、小池新都知事が就任直後から豊洲市場の移転問題や五輪費用問題などといった、前途に転がる大きなハードルと既存勢力に向き合っている姿を様々なメディアで目にします。その活力漲る佇まいは、お疲れオーラが露顕してしまっている前述のラッジ市長とは対照的ですが、日本の政界内の男性たちはイタリア以上に女性に対して手加減が無さそうなので、ニュースなどを見ているとちょっとハラハラしてしまいます。

 

そういえば都知事就任直後の挨拶回りの際にも、彼女との撮影を拒んだ都議会議員の人がいましたけれども、やはり我々にしてみれば、政治家という職業の方にはできればどんな行動越しにも、「自分っていうのは、ここまでの人間なんですよ」と言わんばかりの器や懐の小ささよりも、寛容性や気持ちのおおらかさを、ささいな態度からであっても感じさせてもらいたいものです。

 

小池都知事にどことなく教育機関の校長先生や園長先生的な雰囲気が感じられてしまうのは、彼女がそういうふうに振る舞っているからではなく、おそらく知事を前にした政界の人々のリアクションに、彼女をそんなふうに見せてしまう要素があるからなのかもしれません。それはそれで客観的に見ていると面白くはあるのですが……。

 

とにかくローマも東京も、それぞれの大きな課題を抱えた地域の代表者として選ばれし2人の女性には、今後、待ち構える数々のハードルにめげずに、逞しく突き進んで行ってもらいたいものです。男性社会といっていい政界で、例え苦手であろうと憎たらしかろうと、一筋縄ではいかないパンチの効いた女性の存在をひとまず受け入れてもらい、共生していくこと自体が、社会に画期的な成熟をもたらすきっかけになってくれるかもしれないのですから。

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ヤマザキマリ(漫画家・随筆家)

1967年東京都出身。17歳で絵画の勉強のためイタリアに渡り、国立フィレンツェ・アカデミア美術学院で、油絵と美術史を専攻。‘97年漫画家デビュー。『テルマエ・ロマエ』で第3回マンガ大賞、第14回手塚治虫文化賞短編賞受賞。著書に『国境のない生き方』(小学館)、『男性論』(文春新書)『スティーブ・ジョブズ』(講談社)『プリニウス』(とり・みきと共作 新潮社)など多数。シリア、ポルトガル、米国を経て現在はイタリア在住。平成27年度芸術選奨文部科学大臣賞受賞。平成29年イタリア共和国星勲章「コメンダトーレ」綬章。
 
公式サイト
https://www.thermariromari.com/

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