第106回 「ショックな訃報が多かった1年」

投稿日: 2016年12月20日 17:00 JST

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12月某日 北イタリア・パドヴァ

 

イタリアと日本の度重なる往復、それに加えて今年はポルトガルに放ったらかしにしていた家を掃除するために戻ったり、息子が暮らすハワイに母を連れていったり、イタリア国内、日本国内にいても仕事で移動ばかりしていたせいで、今年もまた1年が2カ月くらいで終ってしまうような感覚がしております。

 

恐らく去年の暮れのエッセイにも同じ様なことを綴っていたかもしれませんが、幼いころの私にとっての1年はとてつもなく長く、いつまで経っても大人になれない気持ちがしていました。あの頃の時間の感覚を、今半分くらいでいいから取り戻せたらどんなにいいだろうと、そんな途方も無い事を考えてしまいます。

 

それと、自分自身の慌ただしさもさることながら、今年はいつにも増して印象的な出来事が多かったことや、ショックな訃報が多かったのも、1年の〝束の間感〟の要因になっているように思うのです。

 

帰国の折に時々コメンテーターとして出演している『Mr.サンデー』という番組があるのですが、2016年の1月初頭、その日も出演のために控室で準備をしていると、そこへやってきたディレクター氏から、たまにご一緒させて頂いたジャーナリストの竹田圭吾さんが前日にお亡くなりになったことを告げられました。

 

竹田さんは自らがんを患っていたことを公表されてもいましたが、お会いする度にどんどん痩せていかれるその姿を拝見するたび、私は不思議な気持ちを募らせていきました。勿論彼の健康状態の心配が一番なのですが、自分の命のあり方と真正面から向き合っているその堂々とした姿勢と、死を全く自然の成り行きとして受け入れようとしていらっしゃる佇まいに圧倒された、勇気付けられたというのが、あの頃の気持ちに一番近い感覚かもしれません。

 

もうあれからほぼ1年経ちますが、デスクの隣に座る竹田さんと普通におしゃべりしていたのは本当についこの間のことだったようにしか思えません。

 

竹田さんの訃報とほぼ同時に、デヴィッド・ボウイも亡くなりました。ツイッターにその情報が流れた時は、あまりの唐突なニュースに報道に対する半信半疑の反応が溢れていたのを思い出します。デヴィッド・ボウイは1960年代から活躍していたミュージシャンですが、私が高校に入学したころ、ちょうど『レッツ・ダンス』という曲で新しい世代も含めて一世を風靡し、大島渚監督の『戦場のメリークリスマス』に出演したことで日本でもファンを増やしました。その頃来日したデヴィッド・ボウイと一夜を過ごした女性の強烈な告白が掲載された女性週刊誌を、学校帰りに本屋で立ち読みしたのが、私にとってボウイの一番印象的な思い出かもしれません。

 

デヴィッド・ボウイの死から数カ月後、今度はプリンスという大御所が死去。ほかにもアースウィンド&ファイアやイーグルスのメンバー、ナタリー・コール、レナード・コーエンなどのミュージシャンたち、日本では村田和人さんやりりィさんなど、とにかくこの分野の方たちも沢山亡くなりました。さらに日本のTVドラマやドキュメンタリー、手塚治虫のアニメ作品などの主題歌を手がけてきた作曲家の冨田勲さん、ピアニストの中村紘子さんも亡き人に。

 

大橋巨泉さん、永六輔さん、千代の富士、ムハマド・アリ。そして数回前のこちらのエッセイでも取り上げたキューバの最高指導者フィデル・カストロ。今年はとにかく、自分の人生に様々な刺激や触発を与えてくれた表現者が、いっぺんにいなくなってしまった年だったと言えます。

 

もしあの世というものが存在するのであれば、今年はスーパー・ジャムセッションも可能なくらい、さぞかし大賑わいになっているでしょう。

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ピコ太郎について夫は「深い事は考えずにただ全てこの世の事象として受け入れるのみ」と

今年を〝出来事〟という視点で振り返ってみれば、軽井沢のスキーバス事故、熊本地震、オバマ大統領広島来訪、伊勢志摩サミット、舛添知事辞職、小池百合子都知事誕生、豊洲市場問題、海外においてはリオ五輪、アメリカ大統領選挙とトランプ氏の選出、韓国の朴大統領弾劾訴追案可決、イギリスEU離脱、米国乱射テロ、ベルギー同時多発テロ、南フランス・ニースでのトラック群衆突っ込みテロ、トルコ空港でのテロ、その他各地での多数のテロに継ぐテロ、イタリアのアマトリーチェやエクアドル、太平洋の島々など世界各国での大規模な地震、そしてボブ・ディランのノーベル文学賞受賞……。

 

私の記憶力で思い出せる限りの出来事をこうして書き記しているだけでも、胸焼けと消化不良をおこしそうな気分にさせられるくらい、ほんとにこれ全部1年で起きたの?と思えるような事柄の数々。

 

これに日本で話題になった幾つかの不倫騒動、あの人やこの人の覚せい剤騒動、SMAP解散、ポケモンGO上陸、博多駅前道路陥没……まだまだいろいろ思い出せそうですけども、私の場合はここにイタリアでの国内ニュースも加わるので、頭の中はもう混沌の極みです。これらの情報にいちいち気をとられていれば、1年が瞬く前に終ってしまったと感じても、これはやむを得ないとしか言いようがありません。

 

個人的には、今年の日本国内の報道の中で特に思い出に残っているのが、北海道の山林でお父さんに置き去りにされて行方不明になった少年が、ひとりで原生林の中を彷徨い、自衛隊の演習場の小屋のマットレスに包まって寝泊まりしているのが見つかった事件です。これはイタリアのニュースでも報道され、「日本のしつけは、なんと子供を置き去りにすることらしい。信じられない」という物議を醸していましたが、私はそんなことよりも、この少年の飄々としたサバイバル精神と、もう頼れる人は自分以外にないと思ったに違いないその姿勢に、ストイックな頼もしさを感じて心強くなったのでした。

 

そういえば、イタリアで報道された印象的な日本のニュースがもうひとつありました。

 

先日、朝ご飯を食べながら国営放送のニュース番組を寝ぼけ眼で見ていたら、シリア情勢の後に、突然テレビ画面に真っ白な中で変な動きをしているピコ太郎のPPAPが映し出されたのです。キャプションでは「今世界で話題になっている動画」と紹介されていましたが、私はびっくりして食べていたパンを口から落としそうになりました。

しかし一緒にテーブルについていた夫を一瞥すると、彼は石膏像のような完璧な無表情でピコ太郎の姿をじっと見つめています。そしてその短い動画が終わると「こういう動画の存在も、こういう動画が国営放送の報道番組で流れることも、深い事は考えずにただ全てこの世の事象として受け入れるのみ」と、まるで悟りを得た僧のような落ち着いた声で感想を述べていました。その表情は他の報道を見ていた顔よりもより一層深刻そうでした。

 

ピコ太郎動画のヒットを含む波乱万丈の2016年。まだ数日残っているので容赦なりませんが、2017年からは少しでも世界の人々がそれぞれの人生に休息と平和を許される時期が訪れるよう(でも新年早々トランプ氏の大統領就任式があるんだよな、という不安を抱えつつも)、心底から、さらにまたその奥底から祈り続けております。

 

皆様、どうぞ健やかなお年をお迎えください。

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ヤマザキマリ(漫画家・随筆家)

1967年東京都出身。17歳で絵画の勉強のためイタリアに渡り、国立フィレンツェ・アカデミア美術学院で、油絵と美術史を専攻。‘97年漫画家デビュー。『テルマエ・ロマエ』で第3回マンガ大賞、第14回手塚治虫文化賞短編賞受賞。著書に『国境のない生き方』(小学館)、『男性論』(文春新書)『スティーブ・ジョブズ』(講談社)『プリニウス』(とり・みきと共作 新潮社)など多数。シリア、ポルトガル、米国を経て現在はイタリア在住。平成27年度芸術選奨文部科学大臣賞受賞。平成29年イタリア共和国星勲章「コメンダトーレ」綬章。
 
公式サイト
https://www.thermariromari.com/

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