第111回 「姑のダーツ式? ワクチン攻撃再び」

投稿日: 2017年02月07日 22:00 JST

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2月某日 北イタリア・パドヴァ

日本でもインフルエンザ患者が先月末の統計で200万人を越えたそうですが、私も類いに漏れずインフルエンザにかかりました。先々月、夫の実家に行った際に姑から「いいからやっていきなさい!」と無理矢理に二の腕をまくられ、予防接種を打たれたにもかかわらず。

 

欧州でもインフルエンザは大猛威を奮いまくり中で、姑は昨年末、既にその予兆のニュースを見たために自分のテリトリーに侵入してくる全ての人間の腕をまくり上げ、ことごとくワクチンを打ちまくったわけですが、「え!? 家でワクチンしていいの? 素人が?」と思われた方、この件については以前もこちらのコラムで触れたことがありますが繰り返します。はい、イタリアではワクチンを薬局から買ってきて、家で接種することが許されているのです。

 

勿論、誰しも注射が打てる技能を持っているわけではありません。姑に言わせれば「あんなもの薬物中毒者でもできるくらいだから簡単なもんだよ」ということですが、やはり慣れていなければ何が起きるかわかりません。そういう心配がある人は皆病院や看護師の知り合いのところへ行って接種をしてもらいます。

 

姑の場合は在宅で老人の介護を4人も経験してきた為に注射の扱いにも慣れていると言えますが、それにしても注射器をまるでダーツでも投げるように的に向かって打つというそのスタイルの無謀さに、家族も親戚も接種の呼び出しが掛かる度に心底怯えあがるのでした。

 

まあ、手段がそのように若干横柄であっても、一応インフルエンザのワクチンは投入されたわけですから、接種した家族は皆一様に、この感染病に怯えることなく安堵して冬を乗り越えるつもり満々で過ごしていたわけです。

 

しかし、年明けにまず中学校の先生をやっている小姑がインフルエンザを発症。学校でも大流行中だと聞いて、ワクチンが効果を発揮できなかったことも何となく納得。それから間もなく、家に引きこもって仕事をしていた夫が発症。しかも彼はその後ノロウィルスにも感染し、「人生で最も死ぬかもしれないと感じた苦しみ」に見舞われたと、その時期フランス滞在中だった私のもとに連絡がありました。そして姑のワクチンに眉唾感を感じ始めた頃、私もついに怪しい症状を察知。

 

フランスで発売された漫画のプロモーションとテレビ撮影でかなりハードなスケジュールをこなしていた為に、疲れが溜まってウィルスに感染されやすい身体になっていたのでしょう。イタリアの家に戻って来て間もなく、疲れにしてはどうもあちこち痛過ぎるし怠いと感じて熱を計れば、いきなり39度。そんな高熱の自覚も無かったので、体温計が狂っているのかと思って再度計ってみても同じく39度。熱があると自覚した瞬間、私は全身に悪寒を感じ、直ぐに布団に潜り込みました。そのうち足も腰もこのまま放っておくと軋みまくって粉砕するんじゃないかと思うような痛みをうったえはじめ、辛さに思わず「ううう」という声が漏れ出る始末。

 

インフルエンザに乾燥は大敵だと思い出し、濡れたタオルを部屋のヒーターにかざし、日本から持って来たマスクを装着して私は毛布にくるまっていました。するとそこへすっかり完治した旦那がやってきて、マスクをしている私を「そんなものまで付けて、大袈裟だ」と指摘するではありませんか。

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欧州では、マスクはとてつもないウィルス感染者だと思われる

マスク。そう、この件についてもだいぶ前にこのコラムで取り上げた事がありますが、欧州ではこのウィルス対策に大きな効果を発揮するはずのアイテムが未だに市民権を得られていないのです。つい先だってもFBでイタリア人の友人がどこかのネットで「日本人はなぜマスクをするのか」という記事を拡散しているのを見ましたが、とにかくこちらでは誰もマスクをしていないのです。日本からの観光客の人たちはまさか欧州ではマスクが市民権を得られていないとは思っていませんから、皆さん堂々と顔の半分を白く覆って街を巡り歩いていますが、あれはこちらの人の目で見ると、何かとてつもないウィルスの感染者にしか見えないらしいのです。

 

ですが、風邪やインフルエンザのように明らかに咳やくしゃみで感染するようなものは、それが周りに飛び散らないように配慮するのは当然だと思うわけです。

 

「だいたい顔を半分覆うというのが怪しい」と言われたこともありますが、確かに犯罪率の高い欧州ではマスクはあまりポジティブな印象をもつアイテムとは言えません。ならいっそ、透明なマスクでも開発したらいいのではないでしょうか。ウィルスが散布するのは抑えられるけど、人の顔が隠れることはない透明なマスク、それなら欧州でも使ってもらえるのでは……。

 

最近帰国をする時には日系の航空会社を使うのですが、何が嬉しいって、機内で誰の目を気にすることなくマスクを装着できることです。誰もマスクをしている私を異様な目で見ない、この素晴らしさ。乾燥とウィルス感染、そして花粉から自分を守れる安心感。

 

ところで、姑にワクチンを打たれたのにインフルエンザになったと告げたところ、そういうことは自分にではなく製薬会社に訴えろと遮られました。後で判った事ですが、今回のインフルエンザはワクチンをしていても感染した人の数が非常に多かったものの、ワクチンのお陰で病状が抑えられたというケースが沢山あるそう。39度の熱が1日で済んだのも、ワクチンをしていたお陰だと友人から言われて、まあそれならあの姑のダーツ式ワクチン接種もしたかいがあった言えるでしょう。

 

とはいえインフルエンザは何度経験しても、本当に辛い病気です。未だ感染していない方は是非万全に対策して御過ごし下さい!

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ヤマザキマリ(漫画家・随筆家)

1967年東京都出身。17歳で絵画の勉強のためイタリアに渡り、国立フィレンツェ・アカデミア美術学院で、油絵と美術史を専攻。‘97年漫画家デビュー。『テルマエ・ロマエ』で第3回マンガ大賞、第14回手塚治虫文化賞短編賞受賞。著書に『国境のない生き方』(小学館)、『男性論』(文春新書)『スティーブ・ジョブズ』(講談社)『プリニウス』(とり・みきと共作 新潮社)など多数。シリア、ポルトガル、米国を経て現在はイタリア在住。平成27年度芸術選奨文部科学大臣賞受賞。平成29年イタリア共和国星勲章「コメンダトーレ」綬章。
 
公式サイト
https://www.thermariromari.com/

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