第120回 「民泊施設の運営は楽じゃない」

投稿日: 2017年04月11日 18:00 JST

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4月某日 北イタリア パドヴァ

 

うちの小姑様がご懐妊され、思いがけないサプライズに実家の義父母は浮き足立っていますが、出産予定は8月末、しかも小姑は去年から教職の国家試験に合格して近隣の街の中学校で仕事を始めたばかり。それに加えて彼女が暮らしていた舅の実家を改装し、ペンションのようなこじんまりした宿泊施設・B&B(ベッド&ブレックファースト)の経営も始めてしまったので、やることが一挙に増え過ぎて、ちょっとした混乱状態になっております。

 

小姑様はもともと自分の父親や兄のようなクソ真面目オタクタイプとは全く真逆の、ワイルドでエキセントリックな男性に魅かれる傾向があり、それはそれは苦労や問題が絶え間なく、誰もが彼女の将来を思うと不安でなりませんでした。それが2年前からどういう風の吹き回しなのか、イタリア人にしては珍し過ぎるくらい穏やかで静かな男性と付き合い始め、いつの間にか一緒に暮らすようになりました。

 

今のところ結婚するつもりはないそうですが、孫ができたことで舅も姑も鼻血が吹き出さんばかりの喜び様。そんなわけで、この小姑の静かな彼氏が、今はひとりでB&Bを切り盛りしている状態です。

 

ちなみに、私が15年前に旦那と知り合ったのは、まさにこの家でした。話せば長くなるので詳しく知りたい方は、私のエッセイ漫画かウィキペディアなどをご覧になっていただければと思いますが、とにかく我々家族にとっては思い出があちらこちらに沁み込んだこの家が、今ではすべて宿泊者向けに改装され(している最中のものもまだありますが)、既に世界中の観光客が宿泊しているのです。

 

風光明媚な歴史的小都市の街中に位置していることと、施設自体も300年前の古い家屋ということで、天井にフレスコ画が施されている部屋もあり、なかなか趣があります。その上値段もそんなに高くはありません。掃除もすみずみまで行き届き、改装したてですからベッドやバスルームもすべて新しいもので揃えられています。ホテルの予約サイトでは星は5点中の4つ半になっているから評判も結構良いと思うのですが、小姑の彼氏が言うには、「まさか宿泊施設をやりくりするのが、こんなに大変なことだとは思わなかった……」のだそう。

 

まず、お客が来る時には鍵を開けるために家にいなければならないので、好き勝手に外出することはできません。到着時刻を予め告げてもらってはいても、守ってくれない人や列車や飛行機の遅滞で遅れる人がたくさんいるので、結局外へ出かける予定も立てられない。

 

いざお客が来てみれば、入ってくるなり「4階建てなのにエレベーターがない」と文句を言ったり、部屋の温度が寒いの暑いのとイチャモンをつけてくる人もいる。そして何より、部屋の中を「どうしたら、ここまでになる!?」というくらい、汚し放題で去る人がいるのには閉口するばかり。清掃の人を雇ってはいても、場合によっては加勢しないと間に合わないこともある。部屋に備えていた湯沸かし器を持ち去れた事もあるし、朝ご飯の時に出したお皿を、目を離した隙に持ち去れた事も一度ではない。国籍によって部屋の扱い方には差異があり、日本の人はきれいに使ってくれるからありがたいとのこと。

 

しかし、それを聞いた姑が、自分の持っているフィレンツェのアパートをかつてウィークリーレンタルとして日本人の若い語学留学生に貸したところ、部屋の掃除をいっさいせず、生ゴミもそのまま、電気も暖房もつけっぱなしで立ち去られたということがあったそうで「日本人もダメなのはダメよ!」と、私の顔の前で激しく唾を飛ばして反論していました。どちらにせよ、どこの国籍だから大丈夫、安心、などというのは何の保証にもなりません。

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「毎日、予約サイトの評価の星の数ばかり気になって全く落ち着かない」

2020年開催の東京オリンピックを控えて日本でも民泊を始める人が急増中で、2017年には登録件数が6万件になるとも言われているというニュースを目にしましたけれど、皆さん結構大変な思いをされたりしているんではないかと、老婆心ながらつい心配をしてしまいます。

 

実際ネットで「民泊、トラブル」で検索してみると、かなりの件数がヒットしますし、問題対策のための充実したHPもいろいろありました。取り上げられているトラブルの内容については、部屋を汚される、盗難といった頻度の高いものから、言葉が通じなかったり、国民性の違いによる解釈の齟齬といったものも見受けられます。

 

特に日本人はお互いはっきり物事を確認し合わなくても、曖昧なまま受け流し、後になって「てっきり判っているんだと思っていた」「事前に言った“はず”なのに」というケースが定番ですから、海外の人相手に商売をする場合は、まずはそこが何より徹底させなければいけない点かもしれません。

 

面倒だけど、守って欲しい必要最低限の事項を記した契約書にサインをしてもらうとか、何らかのかたちで補償金を請求できるようにするとか、宿泊客に対してホストサイドの警戒心を察知してもらうことは必至かと思われます。

 

部屋を貸したいけど面倒なトラブルに巻き込まれたくないという人たちのために仲介業者も存在するようですが、当然手数料を支払うので儲けは少なくなります。ちなみに我が小姑カップルのB&Bの純粋利益は4つの部屋を貸しても「ええっ、それっぽっち!?」というくらい微々たるものです。あれだけの改装をし、しかも自由時間を拘束され、時には部屋のメンテナンスで更なる出費が課せられてしまう場合もあることを踏まえると、「だったら止めちゃえば、もう」という言葉がつい漏れ出てしまいます。

 

彼女たちはホテルの予約サイトにも登録をしていますが、そこでも予約が成立した時点で宿泊費の何割かを持っていかれてしまうのが大きいと嘆いておりました。ただ、昨今の旅人は宿泊先を決めるのにはどうしてもこうした予約サイトに頼ってしまいますし、そこでの評価を選択の判断基準にします。

 

小姑の彼氏は「毎日、予約サイトの評価の星の数ばかり気になって全く落ち着かない」と溜息を漏らしていましたが、そりゃそうでしょう。今の世の中は本を出しても食べ物屋をやってもなんでも星です。「星なんか気にするな!」とは言っても、この私もやはり宿泊先を検索するときは星を意識してしまいますからね。

 

小姑の彼氏の本職はフリーのグラフィックデザイナーであり、先日もミラノで開催されたエッシャー展の立派な図録を作ったばかり。そういうことをしつつも宿泊施設の兼業は、かなり心身に応える事でしょう。しかし、どんなに辛くても、仕事がハードでも、いつも静かで、いつも優しい笑顔をたたえているのを見ると、実は接客業に向いてるのかも、とも思ってしまいます。

 

先日犬の散歩の為のドッグシッターを雇うために面談をしたときのこと。その様子を報告する小姑のメールには「何故かみんな美人ばかりで、彼氏がすっごく嬉しそうだった。めっちゃむかつくから、もっとこき使わなくちゃ hahaha(笑い)」と書かれていました。

 

頑張れ、彼氏。

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ヤマザキマリ(漫画家・随筆家)

1967年東京都出身。17歳で絵画の勉強のためイタリアに渡り、国立フィレンツェ・アカデミア美術学院で、油絵と美術史を専攻。‘97年漫画家デビュー。『テルマエ・ロマエ』で第3回マンガ大賞、第14回手塚治虫文化賞短編賞受賞。著書に『国境のない生き方』(小学館)、『男性論』(文春新書)『スティーブ・ジョブズ』(講談社)『プリニウス』(とり・みきと共作 新潮社)など多数。シリア、ポルトガル、米国を経て現在はイタリア在住。平成27年度芸術選奨文部科学大臣賞受賞。平成29年イタリア共和国星勲章「コメンダトーレ」綬章。
 
公式サイト
https://www.thermariromari.com/

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