第123回 「日本のメディアにおける外国人インタビュー吹替えの罠」

投稿日: 2017年05月09日 18:00 JST

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5月某日 東京

 

昨今の日本では本当に海外や外国の人を扱う番組は増えたと思うのですが、日本へ帰国した折にそういった番組を何気なく見ていると、度々「ん!?」という違和感を覚える時があります。ドキュメンタリーでも旅番組でもバラエティでもいいのですが、とにかくそこに出てくる外国の人たちの日本語吹替えが必要以上に、不自然にフレンドリーになっていることです。

 

テレビだけではありません、雑誌などで外国からの有名人のインタビューを取り上げているものもそうです。とにかく、日本で紹介される外国人のしゃべり口調の多くは“敬語”が適応されず、だいたいが上から目線的な態度で表現されているように感じます。

 

この件については、数年前に発行した自著『望遠ニッポン見聞録』というエッセイの中でも触れていますが、あれから数年、今では日本を訪れる外国人観光客も増える一方。最近はオリンピック開催に向けて日本の海外に対する積極的な働きかけと意気込みがいっそう増す中で、テレビ画面や雑誌媒体などの「外国人フレンドリー口語吹替え」は相変わらず。いや、むしろ以前よりもそういった風潮が強くなりつつあるんじゃないか、とすら思う事があるのです。

 

いったいいつから日本のテレビ画面の中の外国人は、敬語をしゃべらなくなってしまったのでしょうか。勿論ニュースなどの報道番組や真面目なドキュメンタリーでは、政治家や学者、主に知的な人やエレガントな佇まいの年配者は丁寧な言葉で吹き替えられていますが、同じ年配者でもちょっと田舎の風情になればお爺さんやお婆さんはとたんに「そうじゃ」という口調になっているし、若者を含む大勢はインタビュアーに対して「〇〇なのさ!」「それは○○だな!」「○○だわ!」「〇〇なのよ!」と初対面であるにも関わらず、横柄と言っていいレベルの口調になっています。

 

もうひとつ指摘したいのはこれらの口調に独特な抑揚が入っているせいで、自然さが払拭され、海外ドラマも含めて外国人というのは皆誰しもがドラマチックなしゃべり方をする人のようにも見えてしまいます。

 

たしかに“フレンドリーなしゃべり方”は、見ている人には解り易いかもしれませんし、外国人に対して接触しやすいイメージを与える効果はあるのかもしれません。しかし、勘違いをしてはいけません。たとえば英語は昔から、まるで敬語のない言語のように思われていますが、英語にもしっかりと相手に敬ったり、距離感や教養を感じさせる表現というのは存在するのです。誰しもが「ハーイ、今日の調子はどうだい?!」みたい言葉づかいであるわけではありません。

 

私は17歳の時からイタリア語をしゃべっていますが、まず最初に周りから煩く指摘されたのは敬語の習得でした。イタリア語には文法的にも立派に敬語としての二人称が存在します。どんな田舎へ行っても、土地の人は見知らぬ人にいきなり「おまえさん」だとか「あんたは」なんて言葉は使いません。「おまえさん」や「君」としたい時には、ある程度親しくなった後に、ほとんどの人が「これから『君』と呼んでも構いませんか?」と断りを入れてきます。イタリア人は、しっかりと対人を敬うこの敬語を駆使できているかどうかで、その人の資質をはかっているところがあります。

 

外国人などその土地の言語がおぼつかない人が目上の人に対して「あんた」という人称でしゃべったとしても、それはまあ他国の人だし仕方がないと笑って許してもらえるとは思いますが、「あんた」という人称が言えるくらいなら最初に敬語の「あなた」を覚えていて欲しかった、と皆思うでしょう。他者を敬う言葉づかいを駆使できるかどうか。それによって自ずと社会的な人との付き合い方もかわってきます。イタリア人たちも良い信頼関係を保ちたい場合は、親しくない人にはマナーとしてなるべく敬語をしゃべるようにしています。

 

一見ガラの悪そうな人にはそれなりのがらっぱちで態度のデカい吹替えが当てられていたりしますが、テレビのスピーカーのそばに耳を寄せて、吹替えの下に聞こえるその人の言葉を聴き取ると、その佇まいに反して至極丁寧で謙虚だったりする場合もあるので、そんな時はがっくりしてしまいます。フェミニンでセクシーな女性にはそれなりの、オバさん的な雰囲気の人にはまさにオバさん的な、できる男風の男性にはスタイリッシュで気取った、そういった日本語での偏見的吹替えが、それぞれの人の持つ個性や特性を消しているのではないかと心配になるのです。

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外国人には砕けて接すればいいんだ、という解釈に及んでしまうのは要注意

人間にとって声や言葉はとても大事です。その人の人格や性格を知るのに、外観だけの判断ではアテにはなりません。そんな時、私たちは声や言葉づかいから更にその人の性質を推し量ろうとします。言葉は人それぞれの個性を表現するツールなのです。だから、渋谷の街頭でインタビューを受けている一見明るく楽しいノリの外国人観光客も、日本へのリスペクトを表したくて、実は丁寧な言葉を選んで上から目線にならないように質問に答えているかもしれないのに、「日本はどうですか」という質問に対して「ずっと来てみたかったんだ、興奮してるよ!」だとか「来られて嬉しいわ、東京大好き!」で置き換えられてしまうのはいかがなものなのでしょう。本当は「前から来てみたかったんです。なので興奮しています」「日本に来られて嬉しいです。東京が大好きです」と言っているかもしれないのに……。

 

そもそも、日本人で「嬉しいわ、大好きよ!」なんて言葉づかいでインタビューに答えた日には“何様なんだ”と思われたりするのに、なぜ外国人ならそういうもんだ、と皆納得してしまうのでしょうか。

 

こうしたメディア経由の外国人フレンドリー演出によって、外国人には砕けて接すればいいんだ、敬語は必要ないんだ、という解釈に及んでしまうのは要注意です。外国人にも人と接するのが苦手なシャイな人はいるし、もの凄く丁寧な人がいるということは覚えておくべきことかもしれません。

 

そういえば以前、イタリアの文化系テレビ番組でインタビューを受けていた日本のゴスロリ女性が、もの凄く甘ったるく稚拙なアニメ的言葉づかいで吹き替えられているのを見た事がありますが、僅かに漏れ出ている実際の声はそれより断然低くて落ち着いたものでした。そのゴスロリ女性の魅力はその非現実的な装いと、現実的な低くて落ち着いた口調のコントラストにあるはずなのに、それが番組制作サイドの見解で払拭されたのはとても残念でした。というわけで、この吹替え問題は実は世界のどこにでもあると言えますが……。ただ、外国人がここまで上から目線な人間として演出されるのは、日本での特徴と言えるでしょう。

 

ちなみに私は、同じ日本人が私について語っているテレビのインタビューで、私のしゃべり方が「うるせえって言ってやったぜ」「ありえねえ」「がははは(笑い声)」という表現で演出された経験があります。確かに私は声も低く、時にはドスが利いたようにもなり、場合によっては更に言葉づかいが乱暴になるという自覚もあります。でも、それはそういう場とメンツならヨシ、と自分で解釈して使い分けているわけです。誰に対しても年がら年中こういう言葉づかいでしゃべっているわけではありません。しかし、これを読んだ人は「ヤマザキマリは柄が悪いなあ、怖いなあ」と思うこと必死です。いや、いいんですよ、思われても。実際それも私の側面です。それは否定しません。ただ、そういう言葉づかいは余程親しい、身近な人限定であることも知ってもらいたいわけです。

 

このように外国人と限らず同じく国民同士であっても、人っていうのは対人を自分が思い込みたいように、好き勝手に捉えるものなのだなあ……と、テレビでの外国人フレンドリー吹替えを見る度に痛感しております。

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ヤマザキマリ(漫画家・随筆家)

1967年東京都出身。17歳で絵画の勉強のためイタリアに渡り、国立フィレンツェ・アカデミア美術学院で、油絵と美術史を専攻。‘97年漫画家デビュー。『テルマエ・ロマエ』で第3回マンガ大賞、第14回手塚治虫文化賞短編賞受賞。著書に『国境のない生き方』(小学館)、『男性論』(文春新書)『スティーブ・ジョブズ』(講談社)『プリニウス』(とり・みきと共作 新潮社)など多数。シリア、ポルトガル、米国を経て現在はイタリア在住。平成27年度芸術選奨文部科学大臣賞受賞。平成29年イタリア共和国星勲章「コメンダトーレ」綬章。
 
公式サイト
https://www.thermariromari.com/

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