第130回 「『罵詈雑言』女性に囲まれて生きる私」

投稿日: 2017年07月04日 18:00 JST

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7月某日 東京

 

“暴言音声”が暴露された豊田真由子議員が話題になりましたが、イタリアという国に暮らしていると、女性のヒステリックはわりと日常的に目のあたりにしますし、女性が猛烈な罵詈雑言を口にする現場も何度も見てきました。

 

今、私が暮らしている家は由緒ある大家族が所持する大きなお屋敷のワンフロアー部分にあたりますが、同じ階には大家さんの娘が暮らしていて、時々壁の向う側から、親族と喧嘩をする、この人の理性と自制のコントロールを失った叫び声が聞こえてくることもあります。声だけではなく、なにかを床か壁に叩き付けているような音がすることもあり、普段はノーブルでエレガントな人なだけに、この怒りによる人格の変貌はかなり衝撃的です。

 

女性の激しいキレ声というのはどこか人間離れした、制御不能な警戒警報のサイレンのような、一度スイッチが入ってしまうともう取り返しがつかない機械のような、そんな容赦の無さがあります。イタリア語という言語の性質がまた、大声で自己主張を口にするのに適している、というのもあるのかもしれません。

 

加えて、こうした情動を抑えず表に出してなんぼの国民性を反映しているのか、イタリア語という言語は罵り系言語の語彙が大変豊富です。10代でイタリアへ渡るなり、初っぱなから闘いが必要なトラブル続きだった私が、何よりも早くに覚えたイタリア語のほとんどが、実はこうした悪口や罵声でした。イタリアという国は正直、慎ましやかに、謙虚に、目立たないようにしていると、どんどん周りから覆い被さってくる他者からの圧力で潰されてしまいます。狡賢さが人間の美徳と見なされる国ですから、罵りの言葉を一切口にしないような正直者は気を許していると損をする仕組みになっています。

 

最初に私が暮らした家には3人の学生が暮らしていました。1人はナポリ出身の男性、もう1人はカラブリア出身の女性でこのふたりは付き合っていたのですが、私が人生で初めて目のあたりにした怒り狂う女性の姿というのはこのカラブリアの女性が初めてだったかもしれません。

 

ある日部屋の外からもの凄い音が響いてくるので、何事かと見に行くと呆然と突っ立っているナポリ男の前で彼女が、顔を涙でぐちゃぐちゃにしながら、食卓に並べた食器をテーブルクロスごと下へ振り落とし、オーブンから出したばかりのピッツァを男に向かって投げつけている姿が目に入ってきました。その時、彼女の口から発せられている言葉の殆どは聴き取れないものばかりでしたが、ナポリ男のほうも、それに対して躍起になって反応しているところを見ると、相当酷い言葉を並べていたのでしょう。

 

最後は互いに食卓の椅子を振り回しての大騒ぎになり、女性の言葉にならない悲鳴が窓の開け放たれた家の外にまで響き渡っていました。私は部屋に戻って自分が見てしまったものに対する恐怖におののき、しばらくベッドの上で座っているしかありませんでした。後でその大喧嘩の原因がナポリ男の浮気だったことを知りましたが、このふたりはこういったダイナミックな騒ぎを懲りずに何度か繰り返した後に別れてしまいました。

 

イタリア女性には勿論穏やかで理性的な人も沢山いますが、テレビなどであらゆる種類の討論番組を見ていても、人の話をしっかり聞く前に怒りスイッチが入ってしまう女性の姿というのは日常的に目にしますし、夫の実家でも姑や小姑が他人の前でも平気でキレている場面に、それはそれは何度も立ち合わされてきました。

 

例えば「ハゲ」という単語は、日本と違いイタリア語では単に毛髪の後退現象を示す言葉でしかなく、罵詈雑言としては用いられていませんが、『バカ』『アホ』的な意味を為す言葉の数は半端ありません。『おまえは便所』『タマ壊し』なんていうファンタジー系のものもあります。中にはある種の文学性すら感じさせるものすらあります。例えば『てめえのケツの毛でも毟ってろ』というような罵声です。ケツの毛という形容が醸す虚しさたるや半端ありません。こんなことを言われた日には返す言葉にも窮して、しょんぼりしてしまうしかないでしょう。

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イタリアだったら豊田議員の秘書が注目される

世間を騒がせた豊田真由子議員がもしもイタリア女だったら、暴力は別として、罵詈雑言がイタリアで発生した出来事だったとしたら、世間の反応は果たしてどうだったでしょうか。

 

先述したとおり、イタリアはなんせ女性のヒステリックや罵詈雑言が市民権を得てしまっている土地ですから、逆に女性からは「この議員の気持ちもわかるわ」といったような共感を持たれるケースも考えられます。

 

だいたいイタリア人の多くは政治家に対して過剰な理想や正当性、倫理性なんて求めていません。正直者の政治家は生き残れない、と解釈しているので、この手のスキャンダルは目障りではあってもインパクトはそれほど強いものではないかもしれません。なにより「女性はヒステリックになると怖い」という免疫が日常生活からも沁み込んでいるイタリア人のメンタリティにとっては、おそらく「女性議員が暴れた? だから何」程度の扱いになるでしょう。

 

でも日本の人にとっては違います。女性にもこうした凶暴性が潜んでいることはなんとなく判っていても、一国の未来を司る立場の人がそういう態度を取っているなんて、有り得ないことです。

 

私にとっては、豊田議員の言葉や態度の強烈さもさることながら、秘書の人の抱えていた怒りも相当なものであることが伺えたのが今回の一件での印象です。なんせ豊田議員がキレている最中の実況を録音し、それを公に明かしたわけですからね。イタリアであれば、豊田議員の振る舞いについてではなく、むしろこの秘書が取ったスキャンダルの告発の決断に焦点が当てられるかもしれません。彼はこの後一体どうやって生きて行くのか、少なくとももう政治家の秘書を続けていくのは難しいに違いありません。しかしそれを踏まえた上での決断ですから、よっぽどだったのでしょう。

 

まあきっとこうしたスキャンダルの背景には複雑で不透明な事情がいろいろと蠢いているのだとは思うのですけど、とりあえず感じたのは、今回豊田議員のように、ヒステリック起爆を自分に許してしまうアグレッシブで理性制御を放棄する女性が、今後日本でも増えていくかもしれないな、ということでした。実際ネットではこの事件を受けて、子育て中のお母さんが体裁や教育への理想で頭がいっぱいになって、最終的にヒステリックになってしまう懸念を掲げるサイトも目に入りました。

 

先日、とあるテレビ番組の収録でご一緒したとある俳優の方が「世界広しといえでも、女性はやはり日本人がいちばんですよ、我慢強くて理性的で」と強い口調で仰っていましたし、たしかに日本にやってくる外国人男性の中には自国の強い女性に辟易し、冷静で我慢強く親切な日本人女性の彼女や奥さんに理想的だと考えている人たちも少なくありません。でも、正直そんな日本女性の見解が伝説になってしまう日もそう遠くは無いかも……。

 

少なくとも、うちの旦那はそんな日本人女性幻想を、私に対してはもう随分前から一抹も抱いていません。

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ヤマザキマリ

1967年東京都出身。1984年からフィレンツェに11年間在住、油彩、美術史等を学ぶ。1997年に漫画家としてデビュー。2010年『テルマエ・ロマエ』で第3回マンガ大賞、第14回手塚治虫文化賞短編賞受賞。シリア、アメリカ、ポルトガルを経て現在はイタリア・パドヴァ市在住。最新作は『スティーブ・ジョブズ』『プリニウス』等。平成27年度文化庁芸術選奨文部科学大臣新人賞受賞。

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