第131回 「“勝ち目無し”という名のアリ。小さいけれど侮るなかれ」

投稿日: 2017年07月11日 17:00 JST

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7月某日 東京

 

蒸し暑い東京での週末、数ヵ月前に映画館で観た『シン・ゴジラ』を改めてテレビ画面で鑑賞しながら、私は最近日本で発見されて大騒ぎになっているヒアリのことをぼんやりと思い出していました。巨大怪獣ゴジラが東京の街をことごとく破壊し、人間の生活を押し潰しながら突き進んでいく様子から、ふだん我々が足下のアリを無意識に踏んでいたりするかもしれないことを連想してしまったからでしょう。

 

片や現実には存在しない架空の巨大怪獣。片や世界中で問題視されている体長2・5ミリから6ミリ程度の小さな生物。でも、どちらも “危険生物”という点では共通しています。巨大なゴジラに踏み潰されるのも嫌ですが、小さなヒアリの被害に遭うのも御免被りたい。

 

虫というのは身体自体は小さくても猛毒を持っていたり、または群れることによって大型生物顔負けの力を発揮します。どこでどう進化してそうなったのか、体が小さい分だけ強烈な防御力を身につけていった虫の中には、蚊やダニのように人間にとって脅威である病原菌を媒介するような連中もいます。日常、クマやサメのような凶暴な生き物から直接攻撃をされることは滅多にありませんが、こうした体長数ミリ程度の生物である昆虫から、某かのダメージを受けることは日常茶飯事と言えるでしょう。

 

私は子供の頃から虫が大好きで、中年に達した現在も真夏の青々とした森や雑木林を見かけると、思わずその中へ入り込んでいってしまうことがありますが、そんな性分のために今まで何度となく様々な虫に刺されたり噛まれたりしてきました。かつては毒素の強いアブに刺された手が2倍の大きさに膨れて全く動かせなくなり、病院へ行く羽目になったこともあります。また、子供の小学校でケジラミが流行したときは、しっかりと私も彼らを自分の毛髪の中で育てていたこともありました。テレビの取材で訪れた蕎麦畑の中では無数の小さい虫に全身を刺されて、体中がプラネタリウムようになったこともあります。虫そのものは毛虫でも蛾でも大好きなんですが、刺されたり噛まれたりする被害に遭うことはやはり避けたいものです。

 

まあ、刺された部分が膨れて痒い程度で済むのならまだ薬でも対処できますが、一番勘弁してほしいのはやはり質の悪いウィルスを媒介されることでしょう。数年前に南米で大発生したジカウィルスを媒介する蚊が日本にも上陸し、発症例が出たことがありました。友人は東南アジアでマラリアを持った蚊に刺され、日本の空港の検疫からそのまま病院送りになり、暫く隔離病棟で過ごさねばならなくなりました。子供の頃にワクチン接種をされる日本脳炎という恐ろしい病気も、そういえば蚊の媒介によって発症するものです。

 

せめてもう少し大きな生物であれば近寄られても気がつく事ができるのですが、なんせ蚊やアリはとにかく小さいし、近づかれても大きな音がするわけでもない。人類は虫除けも蚊取り線香も痒み止めもワクチンも無い古代から、こういった小さな危険生物と為す術もなく付き合い続けてきたのです。

 

古代ローマ時代の博物学者プリニウスも、吸血系の昆虫については「天は彼らに人間の皮膚を突き抜ける武器をあたえ、特に人間の血に対しては飽くなき乾きを抱えている……。虫が小さいからといって侮蔑をしてはいけない」というような記録を残していますし、アリに関しても、その驚異的組織力と人間のような動物への攻撃性について触れています。2千年前の人たちも、小さな生き物、昆虫のパワーには注視していたのです。

 

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アメリカでは1億ドル以上をかけてヒアリ駆除を試みるも失敗

今回日本の各地で発見されたヒアリは、“日本に最も入ってきてほしくなかった昆虫ナンバーワン”“殺人アリ”などとも言われていますが、実際彼らはどういった具体的な被害を及ぼすのでしょうか。皆さん、もうテレビなどでご覧になってご存知だと思いますが、ざっと書き出してみるとーー。

 

※ 刺されると毒針で刺されたような激痛がして、その部分が水泡状に腫れ、アレルギー反応を引き起こすことで人を死に至らしめる場合もある。呼吸困難や激しい動悸、意識困難をもたらす場合もある。

※ 熱に引き寄せられる性質があるため、電化製品などに入り込んで火事を引き起こす可能性がある。

※ 農作物が食い荒らされる

※ 生まれたばかりのニワトリやウシといった家畜がヒアリの犠牲になる

※ 在来種の昆虫を一掃してしまう

 

などといったことが懸念されているそうです。ただし、致死率は14万人に1人だそうですから、そう思うと蚊で嫌なウィルスを媒介されるよりは危険ではないと感じますが、それにしても、アメリカでは既にヒアリによる総合的被害の経済損失が50?60億ドルと発表されています。これを聞けば焦りを感じても当然です。

 

ニュージーランドは1億円以上という巨額を投じ3年かけてヒアリの根絶に成功したそうですが、アメリカでは30年という歳月と1億ドル以上を投資して駆除を試みるも失敗。

 

果たして日本は上陸してしまったヒアリを根絶させることはできるのでしょうか。

 

ヒアリの学術名Solenopsis invicta。“invicta”とはラテン語で「勝てない」という意味です。余程人間から恐れられているアリであることが判りますが、実はこの無敵に思えるアリにも恐れている生物が存在します。

 

通称ゾンビバエと呼ばれるノミバエはヒアリを襲って体内に卵を産み、孵化した幼虫はヒアリの体液を吸って成長。やがてヒアリの脳を食べて頭を突き破り外に出ます。その様子を想像しただけでもゾワゾワしますが、実はこのノミバエを使ったヒアリ防除の策略研究が進められてもいるのだそうです。

 

ゴジラは最終的に彼にくらべて遥かに小さい人間の知恵によって制御されますが、果たしてヒアリも人間の知恵を駆使したゾンビバエ大作戦で退治をすることはできるのか。

 

実を言うと、私はヒアリの怖さ以上にこのゾンビバエの生態がショックでした。昆虫にはこのような寄生で育つものが少なくありませんけど、それにしても生物の世界というのは残酷なものですね。

 

人間からは疎まれ、小さなハエに脳味噌を喰われてしまうヒアリに生まれてこなくてしみじみ良かった。

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ヤマザキマリ

1967年東京都出身。1984年からフィレンツェに11年間在住、油彩、美術史等を学ぶ。1997年に漫画家としてデビュー。2010年『テルマエ・ロマエ』で第3回マンガ大賞、第14回手塚治虫文化賞短編賞受賞。シリア、アメリカ、ポルトガルを経て現在はイタリア・パドヴァ市在住。最新作は『スティーブ・ジョブズ』『プリニウス』等。平成27年度文化庁芸術選奨文部科学大臣新人賞受賞。

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