第132回 「新しい仔猫ちゃんがもたらしたストレスとは」

投稿日: 2017年07月18日 17:00 JST

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7月某日 北イタリア・パドヴァ

 

こちらのエッセイの担当編集の方から、今週のネタに松居一代さんの一件はいかがでしょうかという案を提示して頂いたので、イタリアに戻って早々YouTubeで巷で話題の動画を見始めたわけですが、松居さんの怪談を語るような喋りが始まった途端になにやら気分が悪くなり、結局途中で視聴を断念。芸能ネタに疎いので松居一代さんについても船越英一郎さんについても実はほぼ何の知識もありませんが、まあ正直この件は自分にとっては(そして国民の多くにとっては)かなりどうでもいいことと言えるでしょう。

 

松居一代さんという人間性になにか自分と同じベクトルを感じられたら、もうちょっと彼女の苦悩についても同情できたんでしょうけど、彼女の考えていることにも、取った行動にも、そしてカメラの前で絞りだしている言葉にも、全くなにひとつ共感できることがなさそうなので、今回は別のネタにしようと思います。

 

気を取り直して……。

 

パドヴァの我が家に可愛らしい仔猫ちゃんがやってきた日から、もうかれこれ1ヵ月が過ぎました。メスでありながらも、“アタワルパ”というインカ帝国最後の皇帝の名前が付けられたこの仔猫は、我が家の先住猫ベレンちゃんのお友達になるべくしてこの家に貰われてきたはずなのですが、現状、どうやら我々の思惑どおりには交友関係は進んでおりません。

 

最初から、先住猫がある程度年輩の場合、新しい猫がやってきてもなかなか受け入れてもらえないであろうことも、時間を掛けてゆっくり慣れさせていかなければいけないことも、周りの猫好きの人やネットの情報から調べて認識済みでした。

 

それにしても、まだ4月に生まれたばかりのアタワルパに対するベレンちゃんの容赦ない意地悪な態度ときたら、傍で見ていても呆れてしまうレベルです。人間でも猫でも、中年女の容赦のない理性を失った攻撃性というのは見ていて本当に恐ろしいものですが、のんびりした田舎の家で沢山の兄弟たちと2ヵ月過ごしてきたアタワルパにとっては、なぜ自分がそれほどまでに意地悪をされるのかさっぱり判らず、それが可哀想で夫はついアタワルパばかりを可愛がってしまいます。すると、ベレンちゃんの怒りは嫉妬を帯びて、さらに醜悪なものへと変化します。

 

例えばアタワルパは今のところ夫の部屋に隔離されていますが、一瞬でもドアに隙間が空けば中へ入っていって、アタワルパのトイレに用をしっかりと足し、ベッドの下に隠れているアタワルパに猫パンチを喰らわせて全速力で逃げていきます。そうしたところにベレンちゃんのチキン度が伺えますが、まあ、それまでは自分が好きに往来できていた部屋を見知らぬ仔猫に占領されてしまったわけですから、気持ちが動転してしまうのもわかります。

 

しかし、ベレンちゃんはそれだけではまだストレスを解消できないと見えて、家中のあちこちにおしっこをするようになってしまいました。「ここはあたしの家なのよ、ちくしょう!!」とアタワルパに主張するために、マーキングをしているつもりなのでしょうが、それにはこちらも仕方ないねと黙って見過ごしているわけにはいきません。ベレンちゃんを引っ張って来ておしっこの場所に無理矢理鼻を付け、「ダメなの! ここでおしっこはダメ、わかった!?」と言い聞かせるも、効き目ゼロ。

 

日本から持って来た3種類の高性能のペット用消臭剤を何度も吹き付け、お香を焚いてなんとかその場に近寄らせないようにしていますが、考えてみたらベレンちゃんだって自分の縄張りを守る本能に従っただけであり、好きでそんなことをしたわけではないのですから、いきなり怒られても意味はさっぱりわからないでしょう。

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スイスではペットを一匹だけで飼うのは虐待

そもそも何故にいきなりベレンちゃんにお友達を、と思い立ったのかというと、数ヵ月前にネットで見かけたスイスのペットに対する法令の記事がきっかけでした。

 

スイスでは2008年より動物の権利関連法が施行されており、もともと群れで生きる習性の動物を閉鎖環境において一匹のみで飼うことは虐待である、という内容が取り入れられています。

 

猫は一見マイペースな生き物のように見えますが、実は外で暮らしている猫たちはしっかり群れという組織に属していて、完全に一匹だけになることはありません。ですから猫の場合でいえば、外へ出してあげられる環境でないのなら、2匹以上での飼育が必要だ、というのがその法令の中に上げられているのです。

 

犬を飼う時も事前に一緒に暮らすための座学と実習を受けることが義務づけられていますし、インコでも金魚でもとにかく一匹飼いは禁止。もしもどちらかが先に死んでしまった場合は、相手をレンタルしてくれる業者もあるのだそうです。ペットの気持ちへの配慮が徹底されています。

 

実際、家の中のみで飼われている猫が一匹だけだと寂しいというのは、私も以前からベレンちゃんを見ていて感じていたことでもありました。どこかの誰かがネット上にアップした動画を見ても、飼い主が出て行った後の猫は悲しそうににゃおにゃおと鳴き続け、ドアの前を落ち着かずにうろうろしていたりします。うちのベレンちゃんも丸一日家を留守にして戻ると、声がすっかり枯れてしまっているのは、自分だけ取り残された心細さで、ずっと鳴き続けているからなのでしょう。

 

動物というのは人間も含め、自分が棄てられてしまったのではないかという孤独感に苛まれると、誰にともなく大声で辛さや寂しさ、怒りを放出したくなってしまうものなのです。自分の辛さや寂しさを一方的に喚きまくり、哀れな自分に涙し、そんな様子を動画で撮影して勝手に人々に発信することで浄化を計るような人間もいる傍で、動物は辛い感情を言葉に出すこともできなければ、他のことで孤独から気を紛らわせることもできないわけですからね。スイスの条例はやり過ぎだと感じる人もいるかもしれませんが、賛同している人も少なくないと思います。

 

先住猫のいる環境に新しい猫を連れて来た経験のある人たちの話を聞けば、猫同士の緊張感に満ちた軋轢があるのは長くても数ヵ月の問題で、最終的にはどちらもお互いの存在に慣れるようになるという話ですから、ベレンちゃんとアタワルパが一緒に仲良く昼寝をしていたりする姿を、きっとそのうち見る事が叶うと信じております。

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ヤマザキマリ(漫画家・随筆家)

1967年東京都出身。17歳で絵画の勉強のためイタリアに渡り、国立フィレンツェ・アカデミア美術学院で、油絵と美術史を専攻。‘97年漫画家デビュー。『テルマエ・ロマエ』で第3回マンガ大賞、第14回手塚治虫文化賞短編賞受賞。著書に『国境のない生き方』(小学館)、『男性論』(文春新書)『スティーブ・ジョブズ』(講談社)『プリニウス』(とり・みきと共作 新潮社)など多数。シリア、ポルトガル、米国を経て現在はイタリア在住。平成27年度芸術選奨文部科学大臣賞受賞。平成29年イタリア共和国星勲章「コメンダトーレ」綬章。
 
公式サイト
https://www.thermariromari.com/

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