第137回 「子供を悩みから解放する『学校だけが生きる意味のすべてではない』」

投稿日: 2017年08月29日 22:00 JST

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8月某日 北イタリア・パドヴァ

 

日本では夏休みも終わって新学期のシーズンですね。息子が通っているハワイ大学は5月半ばで年度が終了し、3ヵ月の休みを挟んで8月半ばに既に新しい1年が始まったようです。休暇が3ヵ月もあると、さすがに後半は「早く学校に戻りたい、学業のペースを取り戻したい」と思うようになるらしく、休みの後半を過ごしていた日本から、意気揚々とハワイへと旅立っていきました。

 

別に息子の普段の言動を見ていると、とりわけ大学生活がエンジョイしている雰囲気はありませんし、専攻している工学という勉強内容は時に苦痛を生み、しんどくなることも度々あるようです。ハワイにいるのにワイキキやビーチに行く事など殆どないと言っていました。

 

でも、与えられた休暇期間に十分に休むことができた、という自覚があるからこそ、そのように本人自ら積極的に大学に戻りたいような気持ちになるのでしょうが、それはまさに3ヵ月という1年の4分の1もの時間がもたらす効果とも言えるでしょう。

 

ただ、これはあくまでうちの子供の問題であり、イタリアの親戚の子供などはやはり6月半ばから9月半ばまで3ヵ月たっぷり休んだのちに新しい学年が始まると、毎年がっくりと落ち込むことがあるそうです。そんな時、親は無理に子供を学校へ行かせることはせず、子供が自分からその気になるまで待つと言っておりました。そのまま不登校にならないのかと聞いてみると「嫌だというものは仕方ないじゃないの、かわいそうに」という答え。「問題があるようなら学校を別なところに変えるとかするわよ」とも。

 

イタリアという国は日本と違い、子供が社会に適応できるスキルを親はそれほど重要視していないように感じます。それよりも大切なのは家族であり、親族であり、逆に「学業や仕事が忙しいからなかなか家族に連絡ができない」とか、「実家へ帰る事ができない」という方が人として大きな問題、ということになります。

 

私のいくつかのエッセイにもこの件については度々触れていますが、もともと社会という環境も家族で固めようという意志の強い国ですから、会社の経営者などは、高学歴の他人よりも、たとえ中卒や高卒であっても自分の子供や親族を雇う、という傾向があります。コネが幅を利かせていると、もしも何かが起こった場合でも直談判で無駄に揉めることもなく話をまとめやすい、というのもあるのでしょう。

 

これをイタリア社会の美徳と捉えるか問題と捉えるかは微妙なところですが、失業者の数も増すばかりの今日においては、頑張っていろんなことを勉強しても最終的にコネが優先される、というこの傾向を否定視している人も少なくありません。

 

ですが、とりあえず社会が生きる意味の全てではない、社会からどう判断されようと家族はあなたの味方である、あなたを見はなすことはない、というこの見解に、窮地から救われている子供たちが少なくないということだけは確かです。

 

日本では18歳以下の子供たちの自殺率が一番高くなるのが、まさにこの2学期が始まる9月の初頭だそうですが、いくつかのネットをみていると、この新学期自殺シンドローム防止策として親は子供が発信する“学校へ行きたくないSOS信号”を素早く察知する必要があるといった記事が掲げられていました。学校の宿題について問いかけられると反発するかわりに黙り込んでしまう、スマホの使用時間が増える、お腹が痛い、頭が痛い、などの不調が突然始まる、などといったものがSOS信号としてあげられていましたが、学校へ行くのを説得できないようであれば、無理をさせずに休ませるというのも選択肢のひとつになっていました。これはまさに先述したイタリア式判断ですね。

 

ただ日本の場合は、周りと同じことができない、足並みを揃えることができないことが人としての欠落と捉えられがちですし、親も子供をそのように教育できないことを周りから問題視されてしまいます。例えば学校で虐められている子供たちの多くがその事実を親に告げられないのは、親から「なぜあなたが虐められるの? 何がいけないの? どうして周りと一緒にできないの?」と追いつめられてしまうような場合もあるからなのでしょう。

 

そのようなリアクションの背景には、親自身の“自分の子育てが上手くいっていない”という不安や恐れがあるのはわかります。しかし、社会環境で上手く馴染もうと日々を闘う子供にとって、何か不具合が発生したとき、唯一の味方であってほしい家族からもそのように対応されてしまった場合、自分にはもう守ってくれる人がいない、居場所がない、という絶望感に見舞われてしまうことも理解できます。

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子供が辛いときは身近な人が無条件で味方になる

ちょっと話が逸れますが、6月に訪れた瀬戸内のとある島で、軒先に沢山の猫が集まっている家を見かけました。そこに暮らすお爺さんが玄関から出てきたので「みんなこちらで飼っている猫なんですか」と問いかけると、「いや違う」と即答。「近所もわしが猫たちに餌をやったり、こんなに猫がたむろするのを嫌がっているし、迷惑がっている。でも、こいつらだって何も好き勝手にこんな世の中に生まれてきたわけでもない。猫だって生まれてきたからには生きていく権利があると、誰かが認めてやらないと」と。人間と共存しなければ生き延びていけない環境で、猫たちにとってはそのお爺さんの家が唯一安心することを許された場所なのでしょう。何よりも、私にはお爺さんの「好き勝手に生まれてきたわけでもない」という言葉が深く響きました。

 

この世は残念ながら、決して楽しいことばかりの極楽ではありません。だからこそ、子供たちが辛い状況に直面したときに、家族や身近な人が無条件で味方になることを、多少大袈裟であっても、顕示するのはとても大切なことと言えます。

 

夏の間、楽しいことをやったり、忙しい学業からも少し距離を置いてたっぷりエネルギーを補填したのだから、新学期は頑張れるはず! と誰しも思いがちですが、実は、休み明けというのはそれまで頑張ってきた自らへの労い期間の終わりも意味しています。子供が学校へ行きたくなさそうにしていたら、潔く行かなくてもいいという可能性も提示する。その判断に対して至らなさや失点を感じる親もいるかもしれませんが、それを評価する世間は何の責任もとってくれません。判断の基準はあくまでも世間ではなく、子供と親だけにあるのです。

 

大人がまず、どこかで躍起になったり無理をしているかもしれない自分の心情をじっくりと顧みることも、子供の気持ちに寄り添う上で大切なことなのかもしれません。

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ヤマザキマリ

1967年東京都出身。1984年からフィレンツェに11年間在住、油彩、美術史等を学ぶ。1997年に漫画家としてデビュー。2010年『テルマエ・ロマエ』で第3回マンガ大賞、第14回手塚治虫文化賞短編賞受賞。シリア、アメリカ、ポルトガルを経て現在はイタリア・パドヴァ市在住。最新作は『スティーブ・ジョブズ』『プリニウス』等。平成27年度文化庁芸術選奨文部科学大臣新人賞受賞。

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