第139回 「紀行番組で真実を暴く」

投稿日: 2017年09月12日 21:00 JST

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9月某日 北イタリア・パドヴァ

 

先日、とても面白い紀行番組を見ました。『アンソニー世界を駆ける』というタイトルで、アメリカではCNNで放映されているのだそうです。今までに優れたテレビ番組に与えられるエミー賞やらピーボディ賞を何度も授賞するなど、紀行番組という枠でありながらも大勢の視聴者の関心を集めていることがわかります。

 

この番組の案内人とナレーションは、作家でシェフでもあるアンソニー・ボーディンという人物なのですが、この人はかつて『キッチンコンフィデンシャル』というレストラン業界内の混沌を暴く大胆な内容の本を書いて話題になったこともあり、当然リポーターとしてもそのへんは容赦ありません。

 

とにかく見ていて爽快だったのは、食を要にした紀行番組でありながら、訪れた場所で知るにいたった現実を、良きも悪しきも全て包み隠さず曝け出すというコンセプトです。

 

私が見た回で、このアンソニーが訪れたのはイタリアのシチリア島でした。シチリア島を旅する番組は私もかつてNHKの特番で出演したことがありますし、日本のメディアでは何度もイタリアの素敵な場所として、散々紹介されてきています。シチリアをひたすら素敵な土地として紹介したい場合は『ニューシネマ・パラダイス』のBGMが欠かせませんし、シチリアの影や社会の混沌を表現したいのならやはり『ゴッドファーザー 愛のテーマ』が王道。シチリア島の人は世界中の人々がシチリアというと『ゴッドファーザー』を連想することに、心底からウンザリしていますが、果たして日本の番組において、このシチリア島の人々のウンザリな本音を、赤裸々に映し出してくれた紀行番組はかつて存在したでしょうか?

 

そう、このアンソニーの旅番組におけるシチリアでは、イタリア政府観光局的には「勘弁してくれ!」とすら思うに違いない、土地の“本性”が暴かれてしまうのです。

 

本人も料理人であるアンソニーはタオルミーナという映画の撮影でも有名にもなった風光明媚な観光地で、自ら海に潜ってその夜の食材を調達しようとします。あらかじめ現地で高級レストランを営むオーナーシェフからも「ここではうまいタコやイカが採れるよ!」という情報を収集していたので、準備万端船で海原へ出て行くのですが、なんとそこで衝撃の事実が発覚するのです。

 

海に潜っても、お目当てのタコもイカもアワビも全く視界に入ってこないアンソニーの目に、突然ぼちゃんぼちゃんと冷凍の海産物が放り込まれているという信じられない光景が入ってきます。

 

冷凍のタコ。冷凍のイカ。そして現地のシェフはそれをすくい上げ、暴かれていることに気がついていないのか、アンソニーに向かって「ほら、新鮮な今夜の食材が採れたよ!」と報告。アンソニーはその場では言葉は返しませんし、この展開に対する怒りを大量のワインで抑えながら、夜もその冷凍のタコ料理を食します。しかし、そこに加えられているナレーションはアンソニーの情動が染出た辛辣な言葉のオンパレード状態で、シチリア素敵! という心構えでこの番組を見ていた人がいたら、もう胸くそ悪さ100%の思いをしたに違いありません。

 

そしてシチリアの人にとっても、こんな番組を放送された日にはたまったものじゃありません。「これじゃまるでシチリアの人間全てがこんなふうだと誤解されてしまうじゃないか!」と。でも声を上げつつも心底では「そうそう、残念ながら、これがシチリアなんだよ」と納得している人も少なからずいることでしょう。

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日本の海外の旅番組は脚色しすぎ

番組ではその後、レストランで出会ったおっさんの家族に招かれ、そのおっさんのマンマの手料理をごちそうになったり、シチリアでなければ体験できない独特の味わい深い経験に満足顔のアンソニーもたくさん出てきます。先述のゴッドファーザーにウンザリする地元の人の話が出てくるあたりなどは、シチリアの人にしてみれば「よくぞ編集してくれたぞ!」と思ったに違いありません。

 

シチリア島という場所に憧れを描いていた人にはショッキングだったでしょうし、これからシチリアへ行こうとわくわくしていた人にも、冷静になるきっかけがもたらされた内容だったと思いますが、日本のテレビ局が作る旅番組のきれいさに食傷気味になっている私にとっては、フィクション性よりリアリティを、というこの紀行番組は、いろんな意味で楽しめた内容でした。

 

以前、日本のテレビ番組における外国人の吹替えが「どうしてみんな上から目線なんだ!」「なぜこんなに横柄でフレンドリーなんだ!」と訴える内容のエッセイをこちらにアップしたことがありますが、それと同様、やはり日本の海外の旅番組はどれもそれぞれの場所や人々を、視聴者を慮って脚色し過ぎだと思うのです。

 

テレビ局の人々が「視聴者が元気になれる内容を!」「視聴者が良い心地になれる内容を!」と、視聴率を上げるために懸命に模索しているのはわかりますが、そうやっておいしいところばかりを編集した番組に影響を受け、痛い目にあうケースもあります。

 

たとえば気軽に高山鉄道を旅する番組を見て、実際は標高5千メートル地点を通過する列車に何の準備もなく飛び乗って、思いっきりハードな高山病になり、現地の病院に収容される私みたいな単純な人間も、この世には少なくありません。そうなってくると、余剰な脚色はある意味責任問題にもなってきます(その後、この番組を制作した会社の人と偶然知り合い、撮影中に何人ものスタッフが高山病でやられたということを知ったので、そういうことは是非番組のエンドロールに記載してほしいと伝えました)。

 

何より、このアンソニーの番組の場合、リポーターの毒気と社会の持つ歪みを捉える洞察力、そして歯に衣着せぬ物言いがなんといっても最大の魅力であり特徴になっていると思うのですが、おそらく日本の紀行番組ではこのようなインパクトの濃さと、鋭利な知性で言葉を駆使する人物を起用することは、まず考えられないでしょう。

 

でも、一度でいいからどこかのテレビ局が実験的にこの『アンソニー世界を駆ける』的な番組を作ってみてくれたらいいのですけどね。意外に視聴率も取れると思うし、メディアへの信頼度も上がると思うのですよね。目の保養にはなるけども、実際その土地にも文化にも本質的な興味を持っているようにはお見受けしないハンサムな俳優さんや美しい女優さんに案内させるよりも、人生の辛酸を舐めてきたような人の目に映る世界のほうが、視聴者にとってもずっと面白い番組になると思うのです。

 

とにかく、我々の生きるこの世界は、きれいなもの、正しいもの、素敵なもの、おりこうさんとお行儀のよい人だけで成り立っているわけではありません。視聴率ばかり気にして、都合の悪いもの、見せたくないものを排除した情報だけ流していると、高山病で倒れた私のように、現実のどこかで人は対処不能の窮地に追い込まれることになります。

 

なにより、どんな側面であろうと地球とそこに生きる人間の実体を知る事こそが、人にとって本当に効力のある、何にもめげないパワーというものになってくれるんじゃないでしょうか。

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ヤマザキマリ

1967年東京都出身。1984年からフィレンツェに11年間在住、油彩、美術史等を学ぶ。1997年に漫画家としてデビュー。2010年『テルマエ・ロマエ』で第3回マンガ大賞、第14回手塚治虫文化賞短編賞受賞。シリア、アメリカ、ポルトガルを経て現在はイタリア・パドヴァ市在住。最新作は『スティーブ・ジョブズ』『プリニウス』等。平成27年度文化庁芸術選奨文部科学大臣新人賞受賞。

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