第145回 「息子の住む、ハワイの空気が教えてくれる事」

投稿日: 2017年10月31日 17:00 JST

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10月某日 ハワイ

 

ハワイ。過去の私にとっては世界で最も興味のなかった場所のひとつだったのに、今では年に一度、必ず訪れるようになってしまいました。1年を通して日本や世界からの観光客で賑わうこの島に、マニアックな旅好きの私がこんなに惹かれる日がくるだなんて、自分でも想像すらしていませんでしたから、人生自分にどんな嗜好の変化がうまれるかなんて、本当にわかりません。

 

もともとポリネシア文化圏は、音楽や踊りも含めて何となく興味を持っていた場所であり、息子が小さかったころは、わざわざ何度もプロペラ機に乗り換えたりしなければいけない南太平洋の島を訪れたこともあります。青い海に浮かぶ美しい島々で生きる人々の独特なおおらかさや暖かさ、何より海を含む自然の素晴らしさに対して募る興味や関心を、かつては漫画作品にしたこともありました。

 

ポリネシアの島はそういう意味で、滅多には行く事はかなわなくても、私が興味を抱き続けてきた地域ではありましたが、いつも観光客でいっぱいのハワイという島が、私の意識の範疇に入ったことはありませんでした。

 

しかし今から4年前、息子がこの島の大学を選んで一人暮らしをするようになったおかげで、私は偏見を捨て去りました。確かに観光客も多いし、ワイキキにひしめく沢山のお店の数も半端ないし、ご飯も正直どこでなにを食べてもあまり美味しいとは感じられません。基本的にアメリカという国が性に合わない私なので、そう考えるとハワイも十分過ぎるくらいアメリカなのですが、ここでは街の雰囲気も人々も全く負担に思えず、居心地が良いのです。

 

確かに若い頃と違って、アウェイ感や緊張感を楽しめるマニアックな旅は積極的にしなくなりましたし、どちらかといえば知的触発を求めて動き回るより、できるだけ何もしないで寛ぐ旅を求める傾向はここのところ強くなっています。子育てというひとつの義務から解放され(といっても大した子育てはしていませんが)、しかも人生の折り返しを過ぎ、今までの力みを弛めた結果として選んだのがハワイなのかもしれません。

 

今回もイタリアから日本に戻ってきて早々、息子に頼まれた物品を鞄に詰め、早速ホノルルへ向かいましたが、空港に着陸し、飛行機から降りて外の空気に触れたとたん、それまでガチガチだった体とこんがらがっていた脳味噌がふっと一気にほぐれ「いろいろ、もうどうでもいいや」モードのスイッチが入りました。ハワイは全体に常に海からの風が吹き抜ける、暑過ぎることもなく寒くなることもない最高の気象。そのため、噂によるとアメリカ本土のホームレスたちがなけなしのお金を貯めてハワイへやってきて、ここでホームレス生活をやり直すのだそうです。ハワイであれば、たとえばかつて私たち家族が暮らしていたシカゴのように、寒さやひもじさで簡単に野垂れ死んでしまうこともないからだと聞いて、とても納得がいきました。

 

我々観光客がこうしたホームレスを目のあたりにすることは、少なくともワイキキを歩いている限りは滅多にありません。ですが、うちの息子によると、とある場所にいけばそこはリゾート地などとは思えないほど荒みきった地域があるそうで、そこにはホームレスたちがごろごろしているそうです。惚けた顔の私に向かって、息子は「ハワイにちゃらちゃらやってくる人は、この島の隠された実態を知るべきだ」などと半ば怒ったように熱く語っていましたが、とりあえずその多くが本土からの移住者であるというのは実に興味深い話です。息子に言われた通り、ハワイのそんな知られざる実態を見ておこうとは思いつつも、残念ながら今回は最終日まで時間が取れず、叶いませんでした。

 

のんびり過ごすために来たはずのハワイですが、いつも時間が足りないのが現状です。

 

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たまには観光客らしいことをしてみた!

昨年は同行していた母が体調を崩してしまい、到着早々ホノルル市内の病院に入院、10日間まるまる病院で過ごさねばなりませんでした。そして今回はどうしても前倒しで終わらせねばならぬ仕事を抱えて来たので、結局5日間の滞在中ほぼ部屋に缶詰状態、一度も海やプールに足を入れることがありませんでした。

 

思い返せば、私は実はハワイの海に一度も入ったことがありません。ビーチで寛いだことすらありません。ハワイらしいことは、今まで何一つやっていないのです。にもかかわらずハワイは良い所だと心底から思えているのだから凄いことです。

 

それでも今回の滞在中、1話分の漫画のペン入れを終わらせ、エッセイも何本か仕上げた出発の前夜、大学の授業やプロジェクトが忙しくてなかなか一緒にいられない息子と、同行していたマネージャーを誘って、ホテルでやっていた「ポリネシアンダンスショー」を見に行く事にしました。乗り気でない息子を引っ張って「せっかくハワイに暮らしているんだから、一度見ておいたほうがいいって!」と説得しつつ、会場の入り口で蘭のレイを首に掛けられ、ダンサーの2人を脇に3人で強制写真撮影。「あとで高額で売りつけられるよ。こういうのが嫌だからこういう場所に来たくないんだよ」と愚痴を漏らす息子に「大丈夫、買わなければいいだけだから」と伝えるも、後で係りの人が私たちのテーブルに持って来た写真を見るなり速攻購入。あきれ顔で私を見る息子に「今までこんなハワイらしいこと、したことないんだからいいじゃないか!」と強調する私。

 

ポリネシアンダンスも、ポリネシアンなビュッフェディナーも堪能し、出口付近で、先程までステージで踊っていたダンサーのマッチョなお兄さんとボインなお姉さんと一緒に並んでいるのをデジカメで撮影をしてもらい、すっかり満足顔な私に「なにをそんなにガチンコな観光客みたいなことしてるのさ……。前にこういうの嫌いとか言ってたくせに」と再び息子に文句を言われる始末。「いいんだよ、だって観光客なんだから」と答えながら、自分も昔に比べて随分変わったものだとしみじみ痛感。ハワイは、温泉と同様、人から虚威的なものを一切削ぎ取ってしまう場所なのかもしれません。

 

それにしても、息子こそ、よくこんな土地に暮らしていながら真面目に工学などという厄介な勉強を続けていられるのかが不思議でなりません。今は大学のプロジェクトで衛星のパラシュートの何だかを開発するのに忙しいのだそうですが、私はポリネシアンダンスを見ながら、すっかり容姿も佇まいも現地民化しつつある息子に「あんたも体鍛えてダンサーになったらどうだろう?」と提案をしてみました。全く相手にされませんでしたが、私は結構本気で息子が将来ハワイらしい何らかの仕事でも見つけてくれたらありがたいのに、と思っているのですが。

 

こうして年に1回でも、体裁や世間の目などまったく気にしなくていい場所で心身緩めることがどれだけ大事なことか、50歳になって気がついたわけですが、世の人びとが皆ハワイのような場所でほんの僅かな期間でもだらりとすることが許されるのなら、世の中は今よりずっと平和になるんじゃないかと思うのですけどね。

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ヤマザキマリ(漫画家・随筆家)

1967年東京都出身。17歳で絵画の勉強のためイタリアに渡り、国立フィレンツェ・アカデミア美術学院で、油絵と美術史を専攻。‘97年漫画家デビュー。『テルマエ・ロマエ』で第3回マンガ大賞、第14回手塚治虫文化賞短編賞受賞。著書に『国境のない生き方』(小学館)、『男性論』(文春新書)『スティーブ・ジョブズ』(講談社)『プリニウス』(とり・みきと共作 新潮社)など多数。シリア、ポルトガル、米国を経て現在はイタリア在住。平成27年度芸術選奨文部科学大臣賞受賞。平成29年イタリア共和国星勲章「コメンダトーレ」綬章。
 
公式サイト
https://www.thermariromari.com/

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