第147回 「年末の風物詩『流行語大賞』に象徴される、日本語の難しさ」

投稿日: 2017年11月14日 17:00 JST

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11月某日 東京

 

「ちーがーうーだーろー!」や「忖度」、「インスタ映え」など、年末の風物詩ともなった流行語大賞にノミネートされた30語が発表され、12月1日に大賞が選ばれるようです。

 

ところで、海外暮らしでたまに日本に来ると、戸惑うことのひとつが横行する新しい言葉と、死語と言われる言葉の使い分けです。今でこそ、年に何度も日本を訪れるようになり、海外に居てもネット経由で様々な情報を得られるので、“ああ今、日本ではこういう言葉が流行っているのだな”とか、“こういう言葉使いをするんだな”と把握できるようになりましたが、20年程前までは、そうはいきませんでした。

 

年に1度くらいの割合で日本へやってくると、周りの人たちやテレビの中の人たちがしゃべる新しい言葉使いに「…ついていけない」と感じることが多々ありました。もの凄く古い記憶を拾えば“プッツン女優”だとか“あの人は彼氏じゃなくてアッシーだから”とか、目の前にいる友人の発している言葉が何を意味しているのだかさっぱりわかりませんでした。かといって、いちいちそれがどういう意味なのか確認するのも憚られ、常に新しい言葉が生まれ続けている日本語という言語にうろたえるしかありませんでした。

 

実は去年の流行語大賞に選ばれた「神ってる」というのも、私には馴染みのない言葉でしたが、さすがに「プッツン」や「アッシー」、または「ギロッポン」みたいな逆読み名詞、「KY」みたいなローマ字読み短縮系よりはまだ瞬時に意味を理解できるので、極端な浦島太郎感を強いられることはありません。

 

浦島太郎感というのは、つまり長く日本の情報と疎遠でいたがために、時代の流れに付いていけず、それが周りと距離を作ってしまうことを意味してします。さらに人の言葉が判らないこともさることながら、自分が日本にいた17歳頃まで使っていた言葉を何気なく口に出して、それで周りから苦笑されたりしても、この浦島太郎感を痛感したりするわけです。

 

たとえば私は胸の大きい人のことを「ねえ、あの人ってボインだよね」といまだに言ってしまいますが、そうすると周りにいる友人などからは「あのさ……今どきボインとか、言わないから」と、私の言葉が既に若い人々には通じないものであることを指摘されてしまいます。いつからボインという言葉が使われなくなったのか全く判りませんが、かつての流行語をいつまでも使い続けてもいいわけではないというのも、空気を読む、読まないという社会的交際術にうるさい現代日本における、日本語独特の難しさだと言えるでしょう。

 

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イタリアには使用期限付きの流行語みたいなものはない

今どき「この間プッツンしちゃってさ」などという言葉を使おうものなら、周りはきっと私に対して「気の毒にヤマザキさん、時間が止まってる」と同情の眼差しを向けるに違いありません。他国の言葉と比べて日本語が難しいとされる理由は沢山ありますが、こうした流行語というものも、そのひとつを為すものだと私には思えてなりません。

 

例えば私が日常で使っているイタリア語には、こうした使用期限付きの流行語みたいなものがありません。英語のような外来語が混ざる傾向はITが普及するようになってから特に顕著にはなっていますし、年輩の人はそれに戸惑うこともしばしばあるようですが、イタリア語の中から生まれた流行語というわけではありませんから意味合いは違ってきます。

 

使い回し方として今はそんな風には言わない、そんなに丁寧な言葉遣いはしない、という例がいくつかあるにせよ、流行り廃りの厳しい制裁を受けるわけでは決してありません。確かに若い人には若い人特有の言語の用い方というものがどんな国の言語にもあるとは思いますが、日本の流行語ほどファンタジックな新しい言葉を毎時生み出して使っている国は、他に思い当たりません。

 

日本に長期滞在のつもりでやってくる外国人が、それまで自分の国で学んできた日本語と、実際の日本社会で使われている日本語のギャップに驚いた、という話を耳にすることが度々あります。

 

試しに1970年代や80年代のCMを動画で探して見てみて下さい。その時代のイントネーションと今の日本語のイントネーションに、あきらかに差異があることに気がつくでしょう。日本語には男性・女性による言葉遣いそのものの違いという特徴もありますが、女性の言葉には特に時代による変化が顕著に感じられます。言葉そのものの新しさや古さよりも、恐らく海外で日本語を学んで日本にやってくる外国の人が感じる戸惑いは、今という時代を的確に反映させる日本語全体のニュアンスそのものなのかもしれません。

 

今年の流行語大賞の候補に上がっている元国会議員の豊田真由子氏の「ちーがーうーだーろー!」など、まさに時代とともに変化する日本語のニュアンスの具体的な例とも言えるでしょう。まずオーソドックスなマニュアル日本語として女性が使う女性語という概念を軸に考えれば、「だろ」で語尾が締めくくられることは、私の母の世代であれば有り得なかったはずです。

 

「ちーがーうーだーろー!」をオーソドックス日本語翻訳機に掛ければ「それは違いますよ」「それは違うのではないですか」となるはずですが、それがどうして間延びをした言い方になるのか。「ー」の意味は何なのか。要するに「ー」という表現には豊田氏の胸の内側に溜まった憤怒が込められているわけですが、それは日本の空気を吸いながら日本の情報を常に目にしつつ、日本という社会の中で沢山の人々と接している日本人でなければわからない“間”の感覚ではないかと思われます。

 

私は実は「ー」という口語の使い方があまり好きではなく、チャットやメールに「おはよー」とか「そーです」という書き込みがあると、言葉遣いへの横着さが感じられてちょっとイライラしてしまいます。なので「ちーがーうーだーろー!」みたいに「ー」が5つも用いられている言葉は本当に勘弁してもらいたいのですが、嫌いだろうとなんだろうとそれも今という時代を反映する日本語だと思えば致し方ありません。

 

UNESCOのランキングによると世界で一番習得の難度が高い言語は中国語で、ギリシャ語、アラビア語、アイスランド語に続き日本語は5位なのだそうです。でも、時代の反映という意識や流行語の理解も含めれば、日本語が1位にランキングされたっておかしくはないのではないかと、日本人でありながら日本語の細胞分裂に上手くついていけていない自分は、しみじみ思うのでありました。

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ヤマザキマリ

1967年東京都出身。1984年からフィレンツェに11年間在住、油彩、美術史等を学ぶ。1997年に漫画家としてデビュー。2010年『テルマエ・ロマエ』で第3回マンガ大賞、第14回手塚治虫文化賞短編賞受賞。シリア、アメリカ、ポルトガルを経て現在はイタリア・パドヴァ市在住。最新作は『スティーブ・ジョブズ』『プリニウス』等。平成27年度文化庁芸術選奨文部科学大臣新人賞受賞。

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