第167回 「野放図な接し方で子供を守れるか?」

投稿日: 2018年04月17日 19:00 JST

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4月某日 パリ

 

イタリアへ向う途中、パリでのトランジット中にこのエッセイを書いています。乗り換えのフライトまで4時間以上もあるので、航空会社のラウンジで仕事をしようといちばん落ち着けそうな場所を見つけてそこでPCを開き、途中だった今回のエッセイの続きを書こうとしていたわけですが、その書きかけのエッセイは中断することにして、急遽自分の目の前にいる若いロシア人親子を見ていて思ったあれこれを綴ります。

 

日本でも昨今は「子供が子供を生むんじゃないよ!!」と思うような、若い親による赤ちゃんや幼い子供へのDVも含め、痛ましい出来事のニュースをよく目にします。本能に支えられ早いうちから自立する野生動物達と違って、人間は複雑な環境の中で生まれてきますし、自分で餌を取る術もかなり成長してからでなければ得られないという、考えてみたらとても未熟で無防備な生き物です。

 

私が子供を産む時に思ったことは、あれこれ教育やら子育ての仕方を考える以前に、ある意味ジャングルよりも恐ろしきこの人間社会の構造や仕組みのあり方を万遍なく見せつつも、全身全霊で守ることだけはしよう、ということでした。そもそも結婚もしておらず、子供が欲しかったわけでもなかったし、妊娠が判った時は自分も経済的にも精神的にも辛い時期を過ごしていたので「こんな厳しい世界にあんたは本当に生まれてきたいと思うの?」と何度も問いかけてもきました。

 

しかし、それだけ強い責任感を感じたわりに、私は息子をかなり野放し状態で育ててしまいました。幼いときから海外の学校を点々とした影響で、世界の広さや社会の一律性の無さや多様性を学び、自立精神みたいなものも自発的に養っていったようですが、まあ、端から見れば「ヤマザキさん、適当にも程があるだろ!?」と思われるくらい、とにかくいい加減でした。何かよほど不条理なことがあれば守ったり戦ったりもするけど、あとはお好きなように何でもやって下さい、くらいの気持ちでいたわけです。

 

見方によっては、いい加減な育て方、というのは子供にとっても風通しの良さを与えるし、親を俯瞰で見ることもできるようになるので、ある程度子供達にとって必要なことだとは思います。ただ、親が自分のことでいっぱいいっぱいになってしまって全く子供に意識がいかなくなるという“いい加減”とは、ちょっと違うと思っています。

 

例えば今私はビジネスクラスの搭乗ラウンジにいるわけですが、私の目の前に途中から座った、どう見ても20歳くらいにしか見えないスタイル抜群のセクシーな女性と、2歳にも満たなさそうなオムツをした小さな子供の様子を見ていると、老婆心ながらこの2人の将来が不安になってしまって仕方がないのです。

 

まずこの若いお母さんは席につくなりラウンジに用意されていた食べ物のあれこれを皿に盛ってテーブルに置き、「ターニャ、食べなさい!」とロシア語で促しました。しかし、皿の中にあるのはローストビーフや青カビチーズなど、どう見てもオムツの取れていない子供に与えるご飯ではありません。ターニャちゃんは案の上その食べ物には全く興味が無いらしく、しかも旅の疲れなのかずっと床でごろごろ転がってぐずぐずダダをこねています。お母さんはそんな娘のぐずりに気付いていても意に介さず、高級ブランドのバッグから携帯電話を取り出し、だれかと通話をしはじめました。通話といっても、スピーカーをオンにしているので外にも相手の声が漏れており、女性もその携帯の画面を見つめながら楽しそうに話しかけています。ちらっと見えた画面には中年くらいの男性の顏が大きく映し出されていました。

 

女性は笑ったり照れたり、実に楽しそうにおしゃべりをし続け、立ち上がってラウンジのあちこちを携帯のビデオで撮影しています。全て自分込みのアングルで、それをその通話相手の男性に見せながら、あれこれ説明するわけですが、その間女の子のことを一瞥すらしませんし、画面に映すこともしません。あまりに女の子のぐずり声が止まらないので、お母さんは今度はバッグからiPadを取り出すと、女の子の注意を引くような動画を画面に映し、それをぽいと女の子の座っている椅子に投げました。女の子は、最初はそれを食い入るように見ていたのですが、すぐに飽きてしまってまたもぐずりだします。でもお母さんは相変わらず、相手の男性との会話にご執心で全く女の子の訴えには耳を貸しません。

 

お母さんは光沢のあるスキニージーンズにぴたぴたのカットソー、大きなダイヤの指輪にブランドのバッグを2つ。女の子はピンクと金色のトラ柄の模様にトラの顏と高級ブランドロゴの入ったセーターに、ピンクのスパッツ。見るからにあれこれお金が掛かっていそうですが、お母さん本人は至って野性的で、子供のおもちゃが散乱して通路に溢れているのに片付けるでもなく、テーブルに並べた食べ物を手づかみで口に突っ込み、食べ物が入ったままの口でおしゃべりをしている様子からして、あまりしつけの行き届いた家庭環境には育ってこなかったことが伺えます。

 

何より、ラウンジには他にも沢山人がいるのだということを全く慮っていないのが驚きでした。携帯のスピーカー通話も子供のiPadもそのまま音声が外に漏れているわけですから、誰か「うるさい!」と文句を言っても良さそうなものを、皆回避して別の座席へと移動していきます。

 

これは、あくまで“漫画家脳”の妄想ですが、お母さんの電話相手はその女の子の生理学上の父親では無く、ましてやおじいちゃんでもなく、彼女を連れ子ごと引き取った彼氏か結婚相手なのかもしれません。女の子が痺れをきらしてお母さんがずっと大事に手にしている携帯に自分も近寄りますが、お母さんはそんな彼女からわざわざ携帯を遠ざけます。相手が親族であれば、そんなことはしないでしょう。

 

iPadにも飽きてしまったターニャはしきりとお母さんの膝にしがみ付きますが、しまいにお母さんは、ターニャの抱えていた人形を遠くに放り投げ、それをターニャが取ってこさせてはまた投げるという暴挙に出始めました。犬じゃないんだから!と思わず私もギロリとターニャの母を睨みつけますが、目が合っても全く動じません。

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小さな子供がビジネスクラスで大暴れ

実はこういう親子は前にも見かけたことがあります。モスクワ経由でイタリアへ行ったとき、アエロフロートのビジネスクラスにやはり若いお母さんを金持ちそうなお父さん、そして3人の子供達が乗り込んできたことがありました。びっくりしたのは、この家族の末っ子と思しき4、5歳の女の子が肩掛け鞄にしていたのが、30万円は下らなさそうな真っ赤なシャネルのバッグだったことです。そのシャネルのバッグにはバービー人形やお菓子がぎゅうぎゅうに詰め込まれていました。偽物じゃないかとも思いましたが、お姉さんもお母さんもやはりシャネルのバッグで全員お揃い。この家族はベルト着用サインもリスペクトせず、機内でも子供達が泣いたり喚いたりで「静かにしてくれ!!!」と叫びそうになったものです。

 

シャネルのバッグも去ることながら、こんな小さなうちからビジネスクラスで旅をさせること自体に、まず大きな疑念が沸きます。こんな尋常ではない贅沢が当たり前だと思い込んだまま育ってしまうと、きっと大人になってから、他の人がしなくていい苦労と沢山直面するに違いありません。お金ほどこの世でアテにならないものはないのですから。

 

ここに綴っていることは、あくまで一方的な私の見解です。今この目の前に座っている若いお母さんにとって、経済力のある今の彼氏(または夫)はこの上無く尊敬に値する存在であり、経済力があるからこそ男らしく、そして愛情の対象にもなっているのでしょう。イタリアのベルルスコーニが80歳を過ぎても若い女性達を侍らせられるのは、一重にその破格の経済力故になのだと解釈されています。私は自分が貧乏でも貧乏な人に惚れるという性の持ち主なので、如何せんお金持ちであることが男の魅力と捉える人を理解できないのですが、世界は広いのでいろいろな人がいて然りだと思います。

 

ただ、気になるものは気になるのです。さっきまで、目の前でお人形を抱き締めてテレビを見ながら腰降りダンスをしていたターニャですが、2歳時にしてなんだか変な色気があって、いろいろな心配が脳裏をよぎります。ピンクのトラ柄という装いのせいもあるかもしれませんが、お母さんの仕草や態度が挑発的なので子供も自然とそうなってしまうのかもしれません。今の世の中、有り得ないと思うような悲惨な事件が当たり前に置きたりしていますから、お母さんには、たとえ自分のことでいっぱいいっぱいになっていても、何よりまず自分の生んだ子供をこの凶悪性の潜んだ社会から徹底的に守っていってほしいものです。余計なお世話なんですけどね。

 

私にあまりにもじろじろ見つめられるからなのか、お母さんが通話をやっと止めてくれました。ラウンジに静寂が戻りましたが、親子の周辺は物が散らかったまま。ターニャも母親もどこか空虚な目で、黙ったままぼんやりとガラス越しに夕暮れの窓の外を眺めています。そんな少し物悲しい景色を見つめながら、2人の頭にはいったいどんなことが過っているのでしょう。

 

私の搭乗時間も迫ってきたのでこのあたりで止めておきます。

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ヤマザキマリ(漫画家・随筆家)

1967年東京都出身。17歳で絵画の勉強のためイタリアに渡り、国立フィレンツェ・アカデミア美術学院で、油絵と美術史を専攻。‘97年漫画家デビュー。『テルマエ・ロマエ』で第3回マンガ大賞、第14回手塚治虫文化賞短編賞受賞。著書に『国境のない生き方』(小学館)、『男性論』(文春新書)『スティーブ・ジョブズ』(講談社)『プリニウス』(とり・みきと共作 新潮社)など多数。シリア、ポルトガル、米国を経て現在はイタリア在住。平成27年度芸術選奨文部科学大臣賞受賞。平成29年イタリア共和国星勲章「コメンダトーレ」綬章。
 
公式サイト
https://www.thermariromari.com/

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