[追悼] 安楽死を予告していた29歳アメリカ人女性 その宣言通り天国へと旅立つ

投稿日: 2014年11月04日 00:00 JST

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今回は、「安楽死する」と動画配信サイトに投稿していた米国の末期がん患者ブリタニー・メイナードさん(29)について書きます。彼女はその宣言通り11月1日に安楽死を実行し、天国へと旅立たれました。

 

結婚してから約1年が経った今年1月、ブリタニーさんは重度の頭痛に悩まされます。診察を受けたところ、悪性の脳腫瘍が判明。すぐ治療を開始して手術を受けたものの病状は悪化し、今年4月には医師から余命6カ月と宣告されます。その後、彼女はいわゆる「安楽死」が合法化されているオレゴン州への移住を決意しました。

 

そして彼女は「今月末の夫の誕生日を祝った後、来月1日に安楽死する」と語る映像をインターネット上に公表したのです。同映像は投稿わずか3日間で再生回数が520万回を超え、ブリタニーさんの選択、すなわち「死ぬ権利」の是非を巡る激しい議論が行われるようになりました。

 

日本をはじめ大多数の国では違法とされている安楽死ですが、42年に安楽死を合法化したスイスを筆頭にオランダ、ルクセンブルク、ベルギーなどで認められています。最近では安楽死目的でのスイス渡航者が急増するという、いわゆる“自殺ツーリズム”が物議を醸した例もあります。

 

ここでいう安楽死とは「人間が人間としての尊厳を保って死に臨むこと」を意味し、一部では「尊厳死」という呼び方をされています。誰もが出来るわけではなく、国によってその資格要件が細かく設定されています。

 

たとえばブリタニーさんが選んだオレゴン州の「尊厳死法」によると、患者が18歳以上でオレゴン州の住人であること、2人の医師から余命6カ月かそれ以内の末期患者であると診断されること、うつなどの精神的な問題がなく健康に関する理性的な判断を下せる能力を有すること、処方された安楽死のための薬を自分で投与すること、などが求められます。

 

それらを満たした末期患者は医者から薬をもらい、死ぬ日時や場所、そして死を見守る人たちを自分で選択します。オレゴン州では94年に尊厳死法が成立して以来、750人が安楽死を遂げたとされています。

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安楽死の反対派は「安楽死は自殺と同じ。認めることは、安易に自殺をすることや第三者が幇助することを促すのではないか」と主張します。これに対して賛成派は「自殺は生きるか死ぬかを選択する行為だが、安楽死は既に目前に差し迫った避けられない死の迎え方を自分で選択する行為である」と反論します。

 

次に反対派は「安楽死を認めれば、患者が『自分が家族の負担になっている』という自責の念から死を選択せざるをえなくなるのでは」と懸念します。これに対し賛成派のブリタニーさんは「安楽死は出口の見えない耐えられない苦痛から解放されるための最終手段。がんが日々、自分を苦しめているなか、最期の瞬間だけは尊厳をもって苦しむことなく臨みたい」と述べています。

 

そしてブリトニーさんは宣言通り、11月1日に家族や大切な人達に見守られながら天国へ旅立ちました。彼女の死が、我々に残したものは果たして何だったのでしょうか。

 

人間、生まれる順番はあっても、死ぬ順番はありません。生年月日はわかっていても、死亡年月日はわからない。ある意味、生まれた瞬間に死刑宣告を受けるようなものです。刑がいつ執行されるかもわからない状態で、不安と恐怖の中で生きていかざるをえない運命に我々はあるのです。ただいっぽうで存在する「生きる者は必ず死ぬ」という絶対的で絶望的な真実。それがわかっていながらも、その死がいつ訪れるかということはわからないがため、人間は希望を抱きながら生きていくことができるのかもしれません。

 

今回のブリトニーさんのケースのように、“いつか”訪れる死ではなく「余命6カ月」という“具体的な形”で終わりの瞬間が明示されたとき、それでも生に対する希望を抱き続けながら生きていくことは決して容易なことではないはずです。私たちは普段、死を意識することなく、あたかも永遠に生きられるかのようにダラダラと緊張感のない生活を送ってしまいがちです。しかし、いざ死の影が自分に降り掛かってきたときに、この避けることのできない人生の終局をどう受け止めれば良いかを考えなければなりません。

 

死というのは、通常恐るべきもので、暗くネガティブなイメージが支配的ではあります。しかしブリトニーさんの選んだ大切な人々に見守られながらの安楽死は、絶望的な終わりというよりは、苦しい生からの解放として、そしてどこか明るさすら漂っていると感じるのは私だけでしょうか。決して死を美化するつもりはないのですが、人生の終局の一点を自らの意志で完結させた彼女の判断は、尊重されるに値するものだと思います。

 

中年を過ぎると、人は死をとても身近に感じます。自分の体力の衰退とともに、自分もいつか癌に襲われるのではないかと、怯える日々の中で生活していくものです。特に、今や癌というのは日本人の死因の第1位で、年間30万人以上の日本人が亡くなっていると言われます。そういう意味では誰もがいつかはブリトニーさんのような状況で、安楽死について真剣に考える場面が来るのかも知れません。終わりを意識することは“瞬間の価値”に気付くことにもつながるはず。「我々が生きる今日という日は、亡くなられた方々が夢見た明日である」という考えのもと、いまこの瞬間への緊張感を持ちながら残された命を生き尽くすことが、生きている我々の使命ではないでしょうか。


ジョン・キム 吉本ばなな 「ジョンとばななの幸せって何ですか」(光文社刊・本体1,000円+税)

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吉本ばなな

1964年東京生まれ。’87年『キッチン』で海燕新人文学賞を受賞しデビュー。’88年『ムーンライト・シャドウ』で泉鏡花文学賞、’89年『キッチン』『うたかた/サンクチュアリ』で芸術選奨文部大臣新人賞、同年『TUGUMI』で山本周五郎賞、’95年『アムリタ』で紫式部文学賞、’00年『不倫と南米』でドゥマゴ文学賞をそれぞれ受賞。海外でも多くの賞を受賞し、作品は30カ国以上で翻訳・出版されている。近著に『鳥たち』(集英社刊)、『ふなふな船橋』(朝日新聞出版社刊)など。

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ジョン・キム

'73年韓国・大邱生まれ。19歳で日本へ国費留学し、ハーバード大、慶應義塾大など世界の大学を渡り歩く。組織に縛られない「ノマドワーカー」の代表的存在として注目を集め、社会人版「キムゼミ」には多くの人が詰めかける。『媚びない人生』(ダイヤモンド社刊)、『来世でも読みたい恋愛論』(大和書房刊)など著書多数。
 

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