相撲界に起きる「ウィンブルドン現象」は日本を象徴している

投稿日: 2016年02月11日 06:00 JST

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みなさん“ウィンブルドン現象”をご存じでしょうか。「門戸を開放した結果、外来勢が優勢になり、地元勢が消沈または淘汰されること」を指す言葉です。語源は文字どおり、毎年イギリスで行われるテニスのウィンブルドン選手権。元々はローカルな大会でしたが、参加ルールを改正して門戸を開いた結果、世界中から強豪選手が集まる世界最高峰の大会になりました。しかし肝心な開催地のイギリス選手は勝ち上がることができなくなり、男子シングルスだと36年のフレッド・ペリーの優勝から13年のアンディ・マレーの優勝まで77年間もイギリス人の優勝がなかったのです。

そんなウィンブルドン現象ですが、実は日本にも起きていました。それは「相撲」です。日本出身力士の優勝といえば06年1月場所の大関栃東まで遡らなくてはならず、日本人の横綱昇進に至っては若乃花以来15年以上も途絶えているのが実情。モンゴルの力士の活躍はもちろん知っていたつもりでしたが、日本人力士の優勝が10年もなかったということには驚きました。そうしたなか今回、琴奨菊が見事優勝を果たしたのです。

私が初めて日本に来たのは、バブル崩壊の直後である93年でした。そのとき日本の相撲界は、若乃花と貴乃花による“若貴時代”の全盛期。外国人力士と言えば、小錦や曙や旭鷲山くらいでした。その後、私は99年からアメリカの大学院に留学することになったのですが、4年間の留学を終えて日本に帰ってきたときには朝青龍の時代になり、そしてその勢いは同じモンゴル出身力士である白鵬に受け継がれていました。そんな相撲という日本の国技で外国人力士だけが活躍する状況に、ネガティブな意見をおっしゃる識者もいました。

しかし、私はこのことはむしろ日本社会の懐の深さや大らかさを感じさせる象徴的事例ではないかと思います。よく海外の識者から「日本は閉鎖的で、日本人は外に対して排他的である」という意見を聞きます。私が初めて日本に来たときも同じような排他性を感じる場面がありました。しかしそれは自分が日本人や日本社会の本質を深く理解しておらず、表面的部分に囚われ過ぎていたことが原因だと、後になって気づきました。

たとえば私は韓国人ということもあって、西洋諸国の人たちに比べると日本語の習得がそう難しくありませんでした。日本滞在1年くらいで大学の授業で使われる日本語は問題なく理解できていましたし、自分の意思を伝えるための言葉も流暢に駆使することができていました。しかし授業が終わって日本人の友達と居酒屋に行くと、苦戦は始まります。

大学ではあんなに理解しやすかったのに、飲み会での“会話のノリ”にまったくついていけないのです。私は一人仲間はずれにされた気分になり、寂しさを覚え、排他的だと感じました。でも友達に悪意はまったくなかったんですね。ちなみに飲み会のノリに慣れるのには、ほぼ3年かかりました。その間、私はダウンタウンをはじめとする日本の芸人の漫才番組を録画し、ボケとツッコミを日本人以上に自由自在に操れるよう何度も何度も練習していたものです(笑)。

つまり要約すると、外国人が日本人のコミュニティに入っていくのは決して簡単ではありません。しかし、それは日本人が排他的だからではないということです。努力して日本人のコミュニティの中に入り、仲間として認められるようになると、差別どころか、むしろ特別優しく接してくれる。それが日本人であり、日本の社会なのです。だから私は、日本で頑張っている外国人力士にエールを送りたい。そして改めて、優勝した琴奨菊関にも祝賀の気持ちを伝えたいと思います。

 

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ジョン・キム

'73年韓国・大邱生まれ。19歳で日本へ国費留学し、ハーバード大、慶應義塾大など世界の大学を渡り歩く。組織に縛られない「ノマドワーカー」の代表的存在として注目を集め、社会人版「キムゼミ」には多くの人が詰めかける。『媚びない人生』(ダイヤモンド社刊)、『来世でも読みたい恋愛論』(大和書房刊)など著書多数。
 

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