【最終話】巳午 連載小説「巳午」

投稿日: 2016年07月12日 17:00 JST

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<この物語は、ある霊能力者をモチーフにして描かれたフィクションである。>

凄絶な陽炎の調伏から二日目の朝。いつものように、起き抜けの泥水を啜る明美と一緒に朝のワイドショーを観ていると、突然姉の良子が夫の哲也と一緒に現れた。

「なによ。来いって言うから来てみたら、当の本人は居ないじゃない。これって、いったいどういう事? お母さん、美由紀は?」

「なに? あんたたち、美由紀に呼ばれたの? お母さんはなにも聞いてないわよ。…美由紀は、ご飯も食べずにどこか行ってるみたいだし…。あなたたち、ご飯は食べてるの? さぁ、こっちへいらっしゃい。食べなさい」

母は突然現れた長女夫妻とその剣幕に、これから何が始まるのかと及び腰だが、それでも、いつも美味しそうに食事を頬張る哲也の姿に目を細めている。

「ただいま~っ」

玄関で美由紀の声がした。弾かれたように、良子が軽く舌打ちする。

「朝から結構混んでたのよね…」

美由紀がブツブツ言いながら、廊下をこっちに向かって来る。

「あれね。やっぱり朝一番の便ってビジネスマンばっかで、可哀想に亜里沙がちっちゃくなってたわよ」

これからどうなるものかと興味深々の明美と健作だったが、「亜里沙」という一言に二人揃って振り返ると、なんとそこには、悪戯を成功させたかのようにはにかんでみせる亜里沙が立っていた。

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「亜里沙。どうしたの…」

「あ、ごめんね。お姉ちゃんには黙ってたけど、亜里沙には昨日のお昼に電話してあったの。なんとなくだけど、明美姉さんの仕事も一件落着したみたいだし。後はお義兄さんと一緒に東京に帰るだけでしょ。だったら、亜里沙を呼んでも良いかなと思って…。ま、亜里沙ももう飛行機くらい一人で乗れるしね。ね、えらかったね亜里沙。あ、それと良子姉ちゃんも…。思ったより早かったわね」

こちらの心配や抗議には一切頓着しない、美由紀ならではの独断専行が炸裂している。

「あんた、『あ、それと』じゃないわよ。私たちまで呼び出しといて、いったいなにをしようっての?」

良子が、ここ一番で畳みかけるときの気迫には只ならぬものがある。隣県とは言え、高松から松山まで、高速を使っても3時間以上はかかる。ましてや、良子一人ではなく、夫を連れてとなれば、仕事や何か調整しなければならない。元々、良子の実家を嫌がることの無い哲哉だが、それでも良子は、実家の思惑で哲哉を引きずり回すことに少なからず気を遣っていた。

「ほら、やっぱり良子姉ちゃんも忘れてる」

美由紀は、ゆっくりと一同を見廻して勿体をつけた。

「皆さん、忘れていませんか。今日は12月最初の巳の日よ。パパと一緒に、みんなで一足早いお正月しよっ!」

「あっ」

二人の姉が、揃って声を漏らした。

忘れていた。今日は家族揃って、今は亡き父を囲んでお祝いをする日だった。

そして今日一日、可愛い孫や娘たちと、みんなでパパの話をするのかと思っただけで、母と三人の姉妹は、思いがけず泣き笑いの顔を見合った。

家族の結び

「ところで明美姉さん、結局どう言う事だったの?なんだか難しい事件に首を突っ込んでいたようだけど、解決したの? で、実際、パパは関係してたの? お姉さんたちには解決してるかもしれないけれど、見ない振りして気ばかり揉んでたお母さんや私にも分かるように話してよねぇ」

ご先祖様が眠る墓地までの道すがら、散々お預けを食らった形の美由紀が、今回の騒動のあらましを尋ねてきた。

「へぇ~。お母さんならわかるけど、アンタが心配してくれていたとは意外だわ」

などと茶化してはみたが、美由紀の主張は至極まともだ。普段は無視か反論するはずの良子が頷いている。

「…そうね。美由紀の言う通りだわ。お母さんや良子姉さんは何となく気付いていたと思うけれど、確かにこの間、界隈に流れる不気味な噂とパパの死が関わっているんじゃないかと思って調べていたの」

「ちょっと待って。不気味な噂ってのはアレよね、子どもたちの霊だか何だかを見ると死んでしまうってヤツよね」

中でも一番事情を知らない良子が話の幅を狭めてくる。

「そう。正確には、裏巳午にまつわる噂と、相次いだ自殺とパパの死の関係…かな」

「そうよ。そう言えば明美、アナタと亜里沙もその子どもたちの霊って言うのを見たんでしょ。大丈夫とは言ってたけど、本当に大丈夫なの? お母さんはそっちの方が心配よ」

と母が、亜里沙の手を握ったまま心配そうに覗き込む。

「はい。亜里沙も私も大丈夫。もう、心配はいらないわ。…じゃ、最初から話すから、お義兄さんも聞いててね」

と明美は、改めて一同を見回すと話し始めた。

「事の起こりは、不幸にして娘を事故で亡くした母親が行った裏巳午だったの。嘘のようだけど、これは本当。裏巳午にそんな力があるなんて、私自身も、まだ信じられないけれど、いずれにしろきっかけになったのは間違いないわ。で、そんな裏巳午によって迷い出たお嬢ちゃんの魂と、それを追って現れた子どもたちの霊と悪霊…お婆ちゃんは陽炎って言ってたわ。その陽炎たちによって不幸な自殺が続いたのは確かよ。だけど、そのこととパパの死は直接は関係ないみたい。

けれども、何も知らないままに私と亜里沙は子どもたちの霊を見てしまったし、以来、陽炎たちに追われていたのも確かよ」

そこに集まった家族全員が息を呑むのがわかった。そして母が一言…。

「…その陽炎だか何だかに付き纏われてたっていうのね? 気味が悪いけど、明美が大丈夫って言うならお母さんも信じるわ。亜里沙も明美も大丈夫なのね? もう心配はいらないのね。だったらいいわ」

と、難しい話になる前に、母が上手に話の腰を折ってくれた。これ以上詳しく話しても、亜里沙以外の誰も納得できないだろうし、更に謎が深まりもする。

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「なんだか大変だったみたいね。明美の能力って、私はまだよくわからないけれど…やっぱりあるのよね。お婆ちゃんたちもそうだったし、私たちの中では明美だけが継いでるのよね。でもちょっとズルくない? なんで明美だけがパパやお婆ちゃんと会えるわけ? 私だって会いたいわよ。ねぇ、ズルいと思わない?」

普段はそんな泣き言や繰り言をしない良子が、珍しく妹の持つ能力を羨んでいる。良子にとっては、祖母や曾祖母の存在は明美以上に確かだったし、そんな二人の術者としてのやり取りも遙かに多く目にしていた。

「違うのよ。少なくともお姉ちゃんも美由紀も、私と同じような能力を持ってるはずよ。今はまだ発動しないだけ。それに何より重要なことは、パパやお婆ちゃんに会えるのって私だけじゃないのよ。だって、私が居るからパパが来るんじゃなくて、パパはずっとみんなの傍に居るのよ。ただ見えたり聞こえたりしないだけ。心配しなくても、みんなの事はいつも見てるわ」

この世の者ならざる者の姿を見、声を聞く。常識に照らせば有り得ない、それでも有るとするならば、それは極めて特殊な能力だろう。そして、そんな能力を持つ明美だからこそ、たとえ姿を目にできなくとも大切に思う人はそこに居るし、時に応じて様々に声を掛けてくれている事実を知って欲しいのだ。

「そうよ良子。明美の言う通り、あなたたち姉妹はみんな同じよ。確かにそれぞれの性格も生き方も違うけれど、同じモノを持って生まれてるのよ。ただ、今回は明美が損なお役目を引き受けちゃったのね。可哀そうだけど、私たちは見守るしかないわ。頑張ってね。亜里沙もママを励ましてあげてね」

と、亜里沙を引き寄せ、その柔らかい頬に指を添えながら母が笑った。

「そうね。まだよくわからないけど、お母さんが良いならもういいわ。さ、始めよう! パパも待ち侘びてるわよ」

美由紀の威勢の良い声がその場の雰囲気を変えた。

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(写真提供:愛媛県歴史文化博物館・民芸学専門学芸員・大本敬久氏)

家から歩いて10分ほどの墓所には、町内の様々な墓石がびっしりと並んでいる。すでに健作は、入り口に設えた水汲み場から、水を滴らせながらバケツを運んでいる。母を筆頭に、姉夫婦、そして明美夫婦と続いて進み出てはお線香をあげ手を合わせる。口にこそ出さないが、それぞれに何かを語りかけているのだろう。明美は、健作と亜里沙と並んで手を合わせ、一件落着の報告をしながらも、まだ健作にも話せてない疑問と、終わらない闘いの不安に身を固くしていた。

そんな明美の視界の右隅で、あの日父を見送って以来ずっと浮かんでいる金色の光の粒がひと際大きく跳ねた。

『大変だったな。ばあさんが褒めてたぞ』

『パパ、ありがとう。これからも…』

『大丈夫。パパたちはずっと見守っているからな。お前ならやれるはず』

『…ありがとうパパ…』

巳午。それは、一足先に旅立った人を、残された人々で語り合い笑い合い、寂しさを紛らわしながら支え合うことを約束する柔らかい冬の一日。

明美と真印

冒頭にお伝えしたように、物語の主人公の明美は、現在も四国・松山でスピリチュアル・リーディングを生業とする真印さんをモチーフとして描きました。

真印さんを知ったのは、およそ10数年前。

それまで、仕事柄様々な占い師やヒーラーと称する方にお会いしましたが、微笑むか苦笑いをするしかない方がほとんど。中には、ちょっとした驚きと共に感心させられることもありましたが、同時に幾つかの疑問を抱かされもしました。それでもどこかで信じたい私が辿り着いたのが、否定も肯定もしないというスタイルですが、真印さんを知るにつれ、そんな私のスピリチュアリズムに対する意識は劇的に変化しました。なぜなら、不思議としか言い表しようのない出来事に、私自身が何度も遭遇したからです。

…と、曖昧な表現しか出来ない私ですが、そんな私が嘘を言って無いことは私自身が一番知っています。恐らくは世に言う霊能者とは、こんな思いを抱きながら生きているのだと、現在の私には理解できます。

しかし、物語に出てくる相次ぐ自殺や、それにまつわる噂話はフィクションです。

ただ、物語に出てくる霊的なエピソードや、明美が使う黒玉などは、実際に真印さんが遭遇した心霊現象であり、日々のリーディングに用いられるパワーストーンです。

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言うまでも無く真印さんは実在する人間ですし、子どもやお孫さんの行く末に目を細める当たり前の母親です。特殊な能力を持っているかもしれませんが、決して特別な存在ではありません。それは、主人公・明美も同じです。デザイナーの夢を抱きつつ、未来の夫となる健作と出会い、やがて娘を授かると言うどこにでも居る女性でしかありません。私には見えないモノの姿を見、声を聞く。そんな個性的な能力の持ち主で有るだけです。

ただ、そんな能力を持っているからこそ、持たざる私が見落としがちな様々な事象に気付く。そして堪らず口にしてしまう…。スピリチュアル。リーディングとはそう言うものだと思います。

否定も肯定もしない…ズルいスタンスから、圧倒的に肯定する側に変わった私にとって、霊能者・明美は代弁者なのです。

そして真印さんは、今日も相談者と向き合い問題の解決に身を焦がしています。この後も、肯定者である私の理解を超える現象と向き合って行くのでしょう。そんな真印さんを通して垣間見える何事かを、いずれまた、代弁者・明美を通して皆さんにお話しする機会があるかもしれません。心待ちにしていてくだされば、これほどの喜びはありません。

最後になりましたが、WEB女性自身と言う晴れ舞台を用意してくださった田邊編集長と、斎藤副編集長に、心より御礼申し上げます。そして、取材に付き合ってくれたカメラマンの水野氏、担当編集の仲本氏とWEB編集部の皆様には本当にお世話になりました。

ありがとうございました。

那智慧太

SILVA真印オフィシャルサイト

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那知慧太

那知慧太(Keita Nachi)
愛媛県松山市出身、1959年生まれ。フリーライターを経てアーティストの発掘・育成、及び音楽番組を企画・制作するなど、東京でのプロデュース活動を主とする。現在は愛媛県に在住しながら取材・執筆活動に勤しむ。『巳午』を処女作とする。
 

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