夫の遺した技受け継ぐ“リアルマッサン”陶芸家妻

投稿日: 2014年10月19日 11:00 JST

能登半島の先端にある石川県珠洲市。黒瓦と板塀の家屋が軒を連ねる町並みを抜けた里山に、渡辺キャロラインさん(49)の自宅がある。

 

「旦那のハルが亡くなったのは、傷みが激しくなった家を建て直そうかと予定していたとき。お通夜では、集まった人たちが『よし、キャロラインの家をなんとかしてやろう』とお酒を飲んで大騒ぎ。友人たちと一緒に納屋を修繕してできたのがこの家です」

 

そう語りながら、亡夫・幸治さん(享年46)の遺作の“ぐい呑み”でひき立てのコーヒーを入れてくれる。「ハルの作品はいっぱいあるのよ」と次々と食器棚から出してくれる。釉薬(ゆうやく)を使わない素朴な風合いの珠洲焼の食器や花器は、使い込まれ味わい深い黒灰色になっている。

 

「うーん、私の作品には、ハルを超えたのもあるかな」

 

得意げに語るキャロラインさん。英会話講師の傍ら、幸治さんと一緒に作った薪窯(まきがま)で、夫が亡くなった直後から、自身も作品を作っている。作陶歴は16年になる。

 

キャロラインさんが幸治さんと出会ったのは’86年。コロンビア大学4年生のときに立ち寄ったニューヨークのギャラリーで陶芸展をしていたのが、幸治さんだった。

 

「大学では日本文化を専攻するなど日本に関心があったけど、大学3年のとき東京のICUに留学したけど、授業はおもしろくないし、日本人と留学生がグループに分かれるなどつまらないことばかり。日本に魅力を失いかけてアメリカに帰ったんです。そしたら彼に出会った。“なんや、おもろい日本人はニューヨークにいるやん”とね」

 

アメリカで作陶の魅力にとりつかれた幸治さんは、帰国後、珠洲焼に出会い、能登半島の先端の町に移り住んでいた。追いかけるように、キャロラインさんが珠洲市にやってきたのは’87年のこと。1年間の滞在予定だったが、豊かな自然も気に入り、そのまま居ついて、’88年に幸治さんと入籍。’93年には飛生(ひゆう)君が生まれる。しかし、幸治さんの体を病魔が襲っていた。’94年に胃がんになり胃を摘出。そのがんは食道に転移した。

 

「亡くなる直前に『ここは自然が厳しいから、俺が亡くなったらアメリカに帰れ』と言われたの」

 

’98年に幸治さんが死去したが、彼女はこの地での生活にこだわった。

 

「父の仕事の関係で転々とした私には、故郷と呼べる場所がないの。子育てするには最高の環境だし、息子には故郷を作りたかったんです。日本人は、こんなに豊かな里山の自然があることを忘れているよね。もったいないよ。それに、ハルと一緒に夢中になって作った薪窯で陶器を焼いていたいんだよね」

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