亡くなった夫の精子で妊娠…「死後生殖」が抱える問題

投稿日: 2014年03月22日 00:00 JST

「『子どもがほしい』『親になりたい』という願望が膨らみすぎて、救済のための技術がかえって新たな苦悩や葛藤を生んでいます」と語るのは、著書『生殖医療はヒトを幸せにするのか――生命倫理から考える』(光文社新書)で知られる北里大学の小林亜津子准教授だ。

7組に1組が不妊に悩む、不妊大国ニッポン。生殖補助医療(ART)の発達はとどまることを知らず、2010年にはその年に産まれた赤ちゃんの37人に1人が「試験管ベビー」という計算に。「卵子老化」を恐れて若いうちから卵子を凍結保存(=婚前卵活)するシングル女性も増加し、2013年に始まった新型着床前診断では“理想通りの赤ちゃん(=デザイナーベビー)”を作れる可能性も浮上してきた。だが、前出の小林准教授はこう警鐘を鳴らす。

「診断技術が発達するにつれて見つかる“異常”は増え、医療技術が進歩するにつれて治療すべき“疾患”の範囲も拡大します。元来は自然な現象である“不妊”も、いつのまにか治療できる“疾患”とみなされるように。技術の進化は私たちに希望を与える一方で、子どもができないことを諦めることや、子どもを持たないと選択することを難しくしているのです」

さらには、凍結保存した精子を使って、残された妻が亡き夫の子どもを生む「死後生殖」まで認められつつあるという。現在、日本産科婦人科学会では事実上認められていないが、オランダ、カナダ、スペインなどでは、夫の死後12か月以内で生前同意があれば、条件付きで死後生殖を認めているのだ。

これには、生まれたときから遺伝上の父親が存在しないことへの倫理面での反発や、父子関係や相続権が認められないなどの法律面での問題も発生してくる。しかし、「選択的シングルマザー」が増えている現状に鑑みると、一概には「そんな子どもは生まれないほうがよい」とは言えないだろう。技術の発達は、新たなモラル・ジレンマを生んでいるのだ。小林准教授がこう続ける。

「技術そのものはあくまでも中立。それを人類の幸福に役立てられるか、それとも社会に混乱を引き起こすかは、私たちの“選択”にかかっているのではないでしょうか」


生殖医療はヒトを幸せにするのか / 生命倫理から考える

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2014年3月18日発売

定価(本体760円+税)

ISBN 978-4-334-03789-5

光文社新書

判型:新書判ソフト

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医療技術のサポートを受けて「子どもが欲しい」という希望をかなえようとする夫婦が急増している。卵子老化への恐れから、若いうちに卵子を凍結保存し「婚前卵活」するシングル女性も現れてきた。体外受精児の出生率も増え続けている。さらに「新型着床前診断」では、受精卵の染色体異常を調べて、健康に育ちうる胚だけを選ぶことが可能になった。

不妊の補助的な医療として始まった生殖医療=ART。その技術が、生命操作にまで介入しようとしている。これは、子孫繁栄という人類普遍のニーズに応える福音か。それとも、不自然な欲望を掻き立て、新たな苦悩を与えるモラル・ジレンマの始まりなのだろうか――。生命倫理の視点から、私たちの人間観や家族観、親子関係に与える影響を考える。

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