内房の岬に佇む年中無休の喫茶店に人が集まる理由

投稿日: 2014年06月07日 07:00 JST

千葉県安房郡鋸南町、切り立った崖と広がる青い海。その山側にはりつくように立つプレハブ小屋が「音楽と珈琲の店 岬」だ。’78年のオープン以来、一部のバイク愛好家や地元の常連が通う隠れ家的な店だという。

 

店主の玉木節子さんが珈琲を落としながら、含み笑いでこう言った。

 

「この間、カウンターで珈琲を飲んでいた初めてのお客さんが、しみじみ私を見て言うの。『ママさんも旦那さんのことでは大変でしたねぇ』って。もう説明するのもアレだから、黙ってたわよ」

 

節子さんは独身だ。1度も結婚したことはない。誤解されたのは、この店をモチーフにした森沢明夫の小説『虹の岬の喫茶店』(幻冬舎)が原因だろう。小説の主人公は、夫を亡くしているから。節子さんは36年、来る日も来る日もここ「岬」で珈琲を入れ、音楽をかけてきた。

 

父親がやっていたドライブインの隣に、父の誘いで喫茶店を開くことになった。建物は器用だった父の手作り。トラック運転手やバイク好き、地元の常連客が時折、訪れる程度だったが、’90年代に入り、バイク雑誌などに紹介記事が載るようになった。多くの熱狂的ファンを持つ“大物ロック歌手”がやってきたこともある。

 

「最初は数人で来たんです。連れの1人が、うちの店を知ってたみたいで。その数カ月後、今度は1人でふらりと来たんですよ。しばらく海を眺めて、珈琲を飲んでいかれましたよ」

 

その後もNHK紅白出場ミュージシャンが、お忍びで通い始めたりした。’00年代に入るとテレビ取材も増えたが、「岬」と節子さんの時間は、相変わらず、ただ穏やかに流れていった。

 

’11年1月20日夜、22日のオープン33周年の目前に事件が起きた。原因不明の出火。1000枚のレコードも、父の形見の双眼鏡も、流木のレコード入れも、だるまストーブも、裏にあった自宅も、全焼だった。当時の節子さんの様子を30年来の常連、米原大造さん(59)はこう話す。

 

「火事のことは知らず、ふと気が向いて『岬』に来たら、全部なくなっていて。もっと驚いたのは節子さんの姿でした。2月のいちばん寒い時期、コート1枚はおっただけで外の椅子に腰かけて、来た客1人1人に事情を説明しているんです。ただ『申し訳ない』と伝えるためだけに、ポットに珈琲を入れて待っていた……」

 

毎日、焼け跡に通い、後片付けをしていると、次々に人がやって来る。火事のことを知らずに珈琲を飲みに来た人も、火事を知って心配して来た人もいた。来る人、来る人、異口同音にこう言って帰る。「ここでもう1回『岬』をやってほしい」「再建しようよ、手伝うから」。

 

8月にプレハブ設置。類は友を呼ぶ。節子さんの周りには、凝り性の人たちが自然に集まってきた。ブロックを1個1個積み上げる。

 

「専門家にやってもらったのは、プレハブの設置と電気と水道の基礎工事だけ。後はいろんな人が、いろんなことをやってくれました」

 

新しい「岬」が完成し、本格的にオープンしたのは’11年12月22日。全焼からわずか11カ月後のことだった。

 

昨年4月、成島出(いずる)監督がやってきた。あれよあれよという間に、小説『虹の岬の喫茶店』の映画化話が進んでいった。主演は女優生活50年の吉永小百合。今年10月から『ふしぎな岬の物語』というタイトルで、全国ロードショーされる。

 

映画で、節子さんの役を演じる吉永さんは、昨年11月、制作発表前に来て、「初めて来た気がしません」と言ってくれた。聞けば、「岬」の物語を気に入って、最初に「やりたい」と言ったのが吉永さんだったという。映画化で、さらにお客さんが増え、節子さんは多忙になった。でも浮き足立つ彼女ではない。「岬」は36年間、定休日なしで続けている。

 

「ふらりと来るお客さんが多いから、休まない。でも私には、休まないことのプレッシャーはないの。それはたぶん、商売の感覚でやってないから。自分の家にお客さんが来て、お茶を出す。そんな感覚なんですよね」

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