きっかけは外資系企業への就職…女性が「茶道」をビジネスに

投稿日: 2017年11月12日 11:00 JST

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真っ赤な毛氈が敷かれたステージに、和服姿の日本人女性がしずしずと登場してひざまずく。正座をして客席に向かってお辞儀をすると、「いったい何が始まるんだ?」と、人びとの視線が集まってきた。ところはアメリカ・ロサンゼルスのロングビーチ。世界最大のお茶の見本市「ワールド・ティー・エキスポ」が開催中の巨大なコンベンションセンターだ。

 

この日も会場は喧噪に沸き立っていたのだが、ステージ上の茶道家・竹田理絵さん(51)が静かに茶道具を並べ、袱紗で茶杓や茶器を清めていくにつれ、会場は少しずつ静まっていく。その凜として美しい所作に、何百人もの来場者が足を止めて固唾をのむ。やがて竹田さんが釜から柄杓で茶椀に湯を注ぎ入れるころには、静寂があたりを包んだ。

 

「緊張ですか? それが、しないんです。いつも自然体です。茶道は常に自分に向き合い、ひとたび釜の前に座って点てはじめると、自分だけの世界に入り込めてしまうんです。ひたすら、そのときの自分ができる最高のお茶を点てて差し上げる。それが茶の湯の精神で、おもてなしの心だと思います」(竹田さん・以下同)

 

茶道の魅力を世界に広めたいと、竹田さんが東京・銀座に「茶禅」を設立したのは、'14年9月。日本人はもちろん外国人観光客に茶道体験プログラムなど、日本の伝統文化を提供する事業を行っている。

 

冒頭の「ワールド・ティー・エキスポ」に初参加したのもこの年である。竹田さんのお茶のデモンストレーションは評判を呼び、その後もパリをはじめ、中国の厦門、バンコク、ロンドン、ミラノなど、各国の見本市や博覧会でお点前を披露してきた。

 

竹田さんは'66年2月、東京・神楽坂生まれ。母は裏千家の正教授、祖父は掛軸の表装を手がける表具師である。竹田さんが、お茶の力を痛感したのは就職してからだ。青山学院大学を卒業後、日本IBMに入社。配属された部署はコールセンターだった。

 

「ヘッドセットのマイクをつけて、お客さまからのクレーム対応です。『早くなんとかしてほしい!』とか『プリンターがつながらないじゃない!』など、一日中怒られてばかりです」

 

身も心も疲れきって帰宅する毎日だった。そして気がつけばお茶を点てていた。学生時代から母の手ほどきを受けていた竹田さんだが、そのありがたさが身に染みたのが、苦しかったこの時代だ。

 

「家に帰ってお茶を点てると……ほんとうに無になれたんです。重くのしかかっていたストレスがスコンと空になって、次の日にはまったく新しい気持ちで仕事に行ける。茶道の力だと思いました。やはり、日本文化には、何かすごいパワーが備わっているのだと思いました」

 

やがて、コールセンターでの実績が認められ、竹田さんは人事部の部長付秘書に抜擢された。外資系企業だけに、取引先など多くの外国人が訪れる。そんなとき、竹田さんは少し複雑な、寂しい思いをすることが多かったと話す。

 

「お客さまから日本文化について尋ねられても、上司や先輩のほとんどがきちんと答えられなかったのです。お茶について聞かれても、『茶道? 自分はやったことがないから』って。そこで話が切れてしまったりして。外国の方は自国の文化に造詣が深いので……。そのような様子を見ていて、日本人なのに、こんなにも茶道は知られていないのか、と」

 

そしてあらためて気づいた。

 

「茶道は、すべての日本文化につながっているのです。お茶室の床の間には掛軸があって書道につながっているし、お花はもちろん華道。お香は香道、和食や和菓子、着物、焼き物、建築。茶道に足を踏み入れてくだされば、そこから日本の伝統文化の世界が広がっていくんです」

 

26歳のときに、5歳年上の自営業の男性と結婚。3年後に日本IBMを退社し、34歳で長女を出産。OL時代にはさまざまな習い事をして、「池坊華道教授」「日本紅茶協会認定講師」などの資格を取得。子育ての間も母親の茶道教室を手伝うかたわら、自宅で資格を生かして「おもてなし教室」も開いた。

 

転機は、'13年10月のこと。長女が中学生になるころ、竹田さんは「主婦の片手間ではなく、本格的なビジネスをしたい」と意欲をみなぎらせていた。ちょうどそのとき友人から聞いたのが、海外型の創業補助金制度だった。事業計画を提出して採択されれば、補助金が出る。

 

「ただ、提出の締切りまで2カ月しかなくて。周りからは、『来年にすれば』とか、『実績がないから無理だ』など反対の声ばかりでしたね」

 

しかし、竹田さんは寝る間も惜しんで事業計画を作り上げ、見事に採択される。こうして、「茶禅」を設立。

 

「自分で茶禅の資料やチラシを作って、旅行会社やホテルなど、一軒一軒、営業にまわりました。初めは『置いといて』と素っ気なくされることが多かったです。そもそも、茶道体験をビジネスとして展開しているところは、少なかったようです」

 

だが、時代の流れが茶禅を後押しした。“おもてなし”が流行語になった東京オリンピックの開催決定や、国の政策もあり、茶禅を設立した'14年の約1,341万人から、'15年が約1,974万人に外国人観光客は急増。さらに'16年は約2,404万人まで増加した。旅行会社やホテルから茶道体験の依頼が来るようになった。海外でのデモンストレーションも好評を博し、ビジネスは軌道に乗る。

 

「茶道というと格式高いというイメージがあるかと思います。海外ではなおさらです。私はどうにかしてもっと身近なものにしたいと思っています。子どもにも若い人たちにも、格好いい、クールと言ってもらえるような。お道具にしても、どんな器でもいいと思うんです。実際、マグカップを持参してきた方に、一服点てて差し上げたこともありますよ(笑)」

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