”勝つまでやる”男性社会に挑む21歳女流棋士の戦い

投稿日: 2013年08月24日 07:00 JST

’04年に12歳でプロの「女流棋士」となり、”出雲のイナズマ”と呼ばれる攻撃的な戦い方で、今年5月に史上初の女流タイトル5冠を達成した女性がいる。里見香奈、21歳。7月29日には、女性初の奨励会二段に昇段した。

 

島根県出身。祖父はアマチュア棋士。父も兄も将棋を指していた。父・彰さん(52)が初めて香奈さんを出雲大社近くの将棋道場へ連れて行ったのは、6歳のとき。石飛一美先生の道場では週末に10人近くの子供が通っていた。門前の小僧のたとえどおり、香奈さんは幼いころから父と兄の対局をずっと見てきた。その指し手を初めて目にしたとき、石飛先生は即座に口にしたという。「この子はプロになる!」。このとき、香奈さんは幼稚園の年長組だった。

 

いちばん負けた人は夕食の皿洗い、という『里見家名人戦』には、ルールも知らなかった母が、続いて4歳だった妹の咲紀さんも加わった。「お兄ちゃんも負けず嫌いだけど、お姉ちゃんも負けてない。勝ち逃げを許さないんです」と咲紀さん。”勝つまでやる”生来の負けん気と鋭い読みでめきめき腕を上げていく。小3のころには、父・彰さんも歯が立たなくなっていたとか。

 

小5で女流アマ女王戦に優勝。翌年、女流育成会に入会し、中1で女流プロに。12歳のときから香奈さんを知る峰谷茂さん(58)はいう。「終盤にかけての、集中力、気迫、正確さはイナズマの呼称どおり、相手がたとえ有利であっても一瞬で逆転される怖さを抱かせるんです」

 

女流3冠など次々に最年少記録を更新していった彼女は、高校卒業のとき決心をする。「女流タイトルを返上して、奨励会を受ける――」。将棋の世界には四段以上の「棋士」と「女流棋士」の2つのプロ制度がある。棋士は将棋が現在の様式になって以後400年の間、男性ばかりだった。また、両者の間には歴然とした実力の差があるとされてきた。その棋士の養成機関である奨励会に入ろうというのだ。

 

「当時のルールでは、奨励会に入るとは、女流棋士をやめること。王座を返上し、収入もゼロになって、奨励会に挑戦したいと。香奈は『もう決めた』と過去形で言ってきました。当時の米長邦雄日本将棋連盟会長(故人)に『直訴する』という」(彰さん)。米長会長は粋なはからいをした。「奨励会に挑戦するのは認める。それには、女流で戦い続けるのが条件だ」と。

 

’11年5月、奨励会入りを認められ、早くも’12年1月には、女性会員として初の初段に。さらに5月、女流4冠。そして’13年5月に「女王」を奪取し、史上初の女流5冠に輝いた。しかし5冠から48日め、敗れて失冠。直後の奨励会でも1勝1敗の成績、もう後がないところまで追いつめられた。そこから捲土重来の4連勝。女性初の奨励会二段に昇段したのだ。

 

大阪のワンルームマンション暮らしで、テレビなし。天才少女といわれ続けてきた香奈さんの1日は「関西将棋会館と自宅の往復です。8時起床で、夜12時くらいに寝ます。1日で将棋に使う時間ですか……。これ、あんまり言いたくないんです。相手に知られたくない機密情報(笑)」

 

女流6冠、そして、奨励会四段という大きな目標がある。特に奨励会には「満26歳までに四段に昇段できなかった者は退会」との厳しい制限もある。リミットを26歳と考えれば、あと5年。「これは人には言いませんが、自分で決めている。そのときまでに達成できなかったら、その後の考えはあります」と香奈さん。

 

わかっているのは、次も「女性初」にして「前人未到」の大記録であることだ。

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