「虐待する大人も救いたい」自らの経験語る女性の思い

投稿日: 2014年04月26日 07:00 JST

現在、兵庫県児童虐待等対応専門アドバイザーを務める島田妙子さん(42)は、ある記憶を封印していた。6歳から7年続いた“躾の時間”という名の折檻地獄。継母からは靴べらでたたかれ、父親からは首を絞められた。

 

児童相談所に保護されて以降は、死の恐怖から解放された。15歳で就職、22歳で結婚して3人の子供に恵まれ、映像制作会社の経営者としても成功を収めた。しかし、3年前から自らの虐待体験を語り始める。25年前に見た“鬼の形相”の正体を突き止めるために――。

 

島田さんは’72年2月、兵庫県神戸市の六甲山の麓の町で生まれた。兄が2人いる末っ子で、全員が年子だった。島田さんが5歳になる直前、両親は離婚し、父・弥一郎さん(’88年没・享年42)が、男手一つで子育てに取り組んだ。

 

父親は子供たちに優しかった。そのころの記憶は楽しいことばかりだったという。そんな父親が変わったのは、再婚し、妊娠した継母が、島田さん兄妹を虐待し始めてからだった。

 

「今日から、あんたらが悪いことをしたらたたいていくからな。これは“躾”やからな」と、継母は高らかに宣言し、以後、プラスチックの靴べらで子供たちを毎日たたいた。出産したあとは、一緒に洗うと赤ちゃんの服が汚れるからと、兄妹の服は洗濯板で手洗いだった。もちろん自分たちで洗う。

 

「寝たらあかんの刑」は、継母の枕元で一晩中、正座をして起きている刑だ。少しでも動けば、靴べらでたたかれ、眠れば、頬をつねりあげられた。ほかにも「つっ立ちの刑」「ごはん抜きの刑」など新しい罰が次々に考え出されていった。そのたびに継母は、「これは躾やからな」と、ひと言、添えた。

 

父親が気付かないはずがない。しかし、父親はその現状を直視することをせず、帰りはどんどん遅くなり、酒量も増えた。そして、ある日を境に、父親は継母の虐待に加わった。「父は継母にマインドコントロールされてでもいるかのようでした。昔の優しかった面影なんてまるでなくて」。

 

ある冬の夜。父親に服が破れるほど殴られた島田さんは、半裸のまま外へ逃げ、父親は鬼の形相で捕まえにきた。1時間後、風呂で体を温めているとき、いきなり父親が風呂場に入り込み、無言で島田さんの髪をわしづかみにして湯の中に突っ込んだ。島田さんは死を覚悟した。

 

髪をつかんでいた手が、湯からガバっと引き上げられた。父親は脱衣所にたたずむ継母のほうに振り返って、「これで気がすんだやろ」と言った。島田さんは声にならない声で叫んだ。「お父ちゃん、今、なんて? お父ちゃん、誰にビビって、毎日毎日、自分の子供、殴ってんねん」。この日、島田さんは、実の父親を見限った。

 

その後も、父親の虐待は収まらず、島田さんが中学3年生のとき、3人兄妹は家を出て、児童養護施設で暮らすことになる。その年の暮れ、父親から電話があった。恐る恐る受話器を耳に当てると、「妙子か?」と、懐かしい、優しい父親の声がした。「悪かったな。ホンマに、ホンマに悪かった」と、父親は謝罪を繰り返した。両親は島田さんと離れてすぐに離婚していた。

 

1週間後のクリスマスイブに父親は自殺を図った。大量の酒と一緒に、洗浄剤を飲んだのだ。かろうじて一命をとりとめたが、8カ月後、父親は一人、帰らぬ人となった。父親の謝罪電話と自殺未遂は、悲しみよりも怒りのほうが強かった。しかし、同時に、あの謝罪があったからこそ、今の島田さんがあるともいえる。

 

「父は本当にかわいそうやったって今なら思える。実は父親も児童養護施設で育ったんです。寂しさから母と一緒になって、離婚して再婚して虐待して……。それでも優しい父に戻ろうとしたんです。けど、反省すればするほど、罪悪感ていう大きな岩が、胸のところに残ってしまったんやね。だから、父みたいな悲しい人を、もうつくったらあかんのです。私は加害者を助けたい」

 

島田さんがこの3年で重ねた講演回数は170回を超えた。虐待当事者である多くの母親にも会った。そういう母親たちの目は、つり上がっているという。島田さんは、そんなお母さんたちにアドバイスする。

 

「過去はしゃあーない。だから今日から『キレイ』になっていこ! 人間って、“したらあかんこと”のせいで人相まで変わるんよ。ウチのお父ちゃんがそうやったように」

 

島田さんの言葉で自分を責めることをやめ、子供を再び抱きしめられるようになったというある母親は、その顔がみるみる変わっていった。「これ、ホントなんですよ」。鬼から親へ、キレイな笑顔を取り戻すため――島田さんは今日も講演に飛び回る。

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