自然分娩の神様 医師・吉村正

投稿日: 2010年02月14日 00:00 JST

 

自然分娩の神様 医師・吉村正

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「一人産んだら、もっと産みたくてしょうがなくなる。自然に産むと、とても気持ちがよくて、産んだ時の顔つきからして違う。 ものすごい喜びに満ちているんだ」

JR岡崎駅から徒歩10分。吉村医院の裏庭には、300年前の暮らしの風景がそのまま広がっている。うっそうと茂った木々の中にたたずむ茅葺屋根の古屋。そして、その隣の伝統工法で建てられた日本家屋が、自然なお産を行う「お産の家」だ。 南向きの和室が3つ。中に入ると薄暗く、ほのかに木の香りが漂う。

迎えてくれたのは、作務衣姿で仙人のような立派なひげをたくわえた、吉村正先生(77)。 この人が自然分娩の神様。 開業以来、約2万数千例のお産を手掛けてきた人だ。 吉村医師が冒頭で語る通り、自然分娩とは、お産の進行にいっさい手を出さず、陣痛促進剤も、吸引や鉗子、麻酔も使わず、何日かかっても自然に産道を通って生まれるお産のこと。母子にとってもっとも喜びの深いお産である。 陣痛が来てから10日かかって産んだ人さえいるという、それが吉村医院のお産だ。

ちなみに、ここにはいま、世界的に評価される映画監督の河瀬直美さんが撮影に入っているという。 河瀬さんがなぜここを新作の舞台に選んだのか。そしてこの「自然分娩」という壮大なテーマを、どう切り取って行くのか――。

 

ワシ、毎日楽しくて仕方がない

吉村医師によると、この自然分娩こそが本来のお産の姿であるという。

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「女性が本来持っている力だけで産むのが自然なお産です。男が作ったシステムの病院で、奴隷のように、切ったり、引っ張ったりして産む必要はないんだ。一生に何度もあることではないから、女性としてとても大事な体験になります。真のお産が母親としての覚悟を引き出してくれ、女性の深い部分が変わるのです」

吉村医院の妊婦は、この裏庭で労働にいそしむ。 古屋の前で薪割りに励み、井戸から水をくみ、中腰になって雑巾がけもする。食生活も和食を中心に、この地でとれた作物を食べ、妊婦仲間と井戸端会議をし、母になる準備をする。吉村医師は妊婦たちに「いのちを懸けていのちを産め」と檄を飛ばす。

「これで、私のところでは早産した人は一人もいない。奇跡みたいな話でしょう」  逆子でもほとんどは自然につるりと生まれるという、吉村医院の実績は、驚異的ともいえる。

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データで表すことを良しとしない吉村医師だが、やはり公開しておきたい――。 まず帝王切開になったお産(つまり手術ができる病院に転送した例)は、この3年間で3.2%。ちなみにふつうの病院は、帝王切開になる確率が平均約20~25%ある。また逆子であってもほぼ下から分娩しているというから、全国から「逆子」と診断され、帝王切開を勧められた妊婦さんが集まってくるのに驚くべき数字である。 鉗子分娩は0%、吸引分娩は0.5%。これは出る直前に赤ちゃんの心音が落ちてきている場合少し引っ張るだけ。 この成績のよさは全て、古屋の労働や、1日300回のスクワットといった“吉村式”指導のたまものといえるのだろう。

吉村医師自身については、「『幸せなお産』が日本を変える」(講談社+α新書)の著書にも詳しいが、実ははじめから自然なお産だけを手掛けていたわけではない。父親の急病により、吉村医院を継いだ28歳のころから、約十年は先端の医療機器を使い、お産をコントロールしていた時期もあったという。 そして、元々自然の中にこそ真実があるという考え方であったゆえに、ほぼ自然に分娩する産婦の歓びや、子供の健やかさ、その後の家族や母子関係の絆の深さが格段に違うことに気付きはじめたという。そんな経験の中から次第に「お産は医学的な処置を介入させないほうがいい」と確信するようになったという。

シビアな話をすると、開業医としては、なんの医学的処置もしないということは、その分お金は入ってこない。帝王切開は医学的には難易度の低い手術でもあり、手がけるほど経営は安定する。しかし、吉村医師は自然分娩の素晴らしさに取りつかれてからは病院の儲けや採算にはもう興味が湧かなくなってしまったという。 自然分娩を徹底することで吉村医師は医者として、人間としての幸福感を無限に味わうことができるのだ、という。

「ワシ、毎日楽しくて仕方がない」 という吉村医師は、いつでも作務衣姿だが、実はこれには理由がある。自然の摂理に任せたお産はいつ始まるか知れないため当然24時間体制となる。そこで時間が少し空いたらいつでも横になって眠れるように、また、すぐに起きて出られるようにというスタイルなのだそう。

もっと夫婦がくしゃくしゃにセックスすること

『いいお産が、本当の母親を作る』という信念の吉村さんに、現在の家族の問題と、幸せについて聞いた。

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まず、吉村医院で出産をした母親たちにはまずいないが、一般的に子供を愛せないといって悩む母親が増えている。それについて、吉村医師はまずお産のときに燃焼不足のまま産んでしまったケースが多いのだと分析する。

「生まれる前から管理されている現代のお産が女性を不幸にしている。産んだ途端に『もうこりごり』と思う女性は少なくない。 たとえばいま2人目、3人目をもし考えているなら、最初のときのような燃焼不足の轍をふまないこと。2人目、3人目に、満足なお産ができてやっと母親になれた、という女性もここにはたくさんいます」

お産の時の人工的な介入が増加していることが親子関係に悪い影響を与えているのではないかと吉村医師は指摘する。

「昔の母親は日の出とともに起き、労をいとわず家事をした。便利な電化製品などはなかったから外へ出て働く暇もないほど家の仕事があった。それがいまや工業化が進み、家の仕事を手早く済ませ、外へ出ることが可能になった。便利になることで、時間ができて幸せになったのでしょうか。決してそうではないと思います」

吉村医院では、農地を確保し、稲を植え、米を収穫して、それを味わうということもしている。 農作業は、人間が本来持つ自然のリズムを取り戻すという意味で非常に有効な体験だと吉村医師はいう。 都会暮らしで、毎日農作業にいそしむことが無理であれば、週末だけでもいい。農耕社会に還る時間を定期的にでももつということが、本来、備わっている幸福感を取り戻すことにつながるのだという。 また、子供の教育の問題もこの農耕社会に還った視点で見直すべきである。

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「そもそも小学校は不必要で、せいぜい江戸時代の寺子屋程度で十分です。行きたくないならば無理強いすることはないし、お金のかかる大学へ行かせるため、必死で親が働くというのもおかしい。勝ち組などという意識はバカバカしいので捨てることです」

このような現代の価値観から脱却したときに、本当の人間らしい自然な感情を取り戻したり、親子関係を構築するための根本となるものが見えてくるのではないか、と吉村医師はいう。

「病院も、学校もすべて整えられ綺麗になったようでいて、それは動物園のようなもの。またその流れで女性の社会進出がよしとされているが、それによって女性が従来の仕事である、家を守り子を育てるという生き方がし難くなっていることも事実。本来は女が命を継ぎ生活の糧は男が担うものです」

母親の幸福感を得るには、やはり子を生み育て、生命を継ぐという本来の女性の役割を十分果たせる環境が必要という。また、増加する女性の不妊問題もこの工業化が大きく影響していると指摘する。

「不妊症が増えているのはなぜか。本来はセックスも妊娠も出産ももっと無意識に行うものです。昔はセックスと妊娠の因果関係さえわかっていなかったわけですから。それでたくさん子供が産まれたわけです。  意識的にやろうとするから間違っている。「この日なら子供ができるのではないか」とか逆に、「妊娠したら困る」などと考えないこと。もっと夫婦がくしゃくしゃにセックスすることで幸せの根源も変わるでしょう」

つまりもっと自然な生き方に変えていくことが大切。工業化が進歩だと思ったら大間違い。どんどん人類の生命力が落ちているではありませんか」 工業化社会から農耕社会へ。いまさら簡単でないことはわかっているが、できる範囲でできることをやり続けるしかない、とも吉村医師はいう。

時間がかかっても『絶対に自分の力で』

吉村医院でお産をした杉浦貴之さん(38)・亜紗比さん(31)夫妻からここで産めた喜びをこう語ってくれた。

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「この自然なお産を経験して、生まれてくるということ自体が奇跡だといま実感しています。長い時間をかけて子供がゆっくりとリラックスして出てくる、その直前の一瞬に母としての覚悟がつきました」(亜紗比さん)

破水してから5日、陣痛がはじまって47時間で生まれたのが長女の芽ちゃん。取材中も実にのんびりとした寝顔を見せている。 この安定感が吉村っ子の特徴なのだそう。

「吉村先生も涙を流して喜んでくれました。私は、陣痛の間はあまりに時間がかかったので自分の体が持つだろうか、どうにかなってしまうのでは、という思いはありました。けれど、妊娠期間中に、この吉村の古屋での労働や、食生活、同じ妊婦仲間との励まし合いを思い出していて、それが最後は自信につながりました。そのベースがあったから時間がかかっても『絶対に自分の力で』という気持ちで産めた。やはりここで産んでよかったと思います」(亜紗比さん)

夫妻は、陣痛が来てから産まれるまでの長い時間を、何度もこの医院の階段を二人で登り降りをして、そのときを待ったという。

「生きていってくれるだけでいいです。 だから将来の不安って特にないけれど、きっとこの子もこの競争社会で、他人と比較されて葛藤することは多いだろうな、とは思う。そんなとき『自分は自分でいいんだよ』っていってあげたい」

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そう話すのは夫の貴之さん。  貴之さんはかつて大病を患い余命宣告まで受けた。いまはその経験をもとに闘病マガジン『メッセンジャー』の編集長として講演・ライブ活動をする。全国を飛び回る日々だから、このときもわが子の誕生を見届けるや、すぐにライブ会場へ駆けつけたという。 この夫婦だからこそ、子供とその将来をむやみに不安がったり、親になったからといって気負うこともない。

「子供の名前は『夢生』でいぶき、とつけようと思ったけれど、夢がもてなかったらプレッシャーになってしまうだろうと、『芽』という漢字にしておきました」(亜紗比さん)

「『なにか子供に夢をもたせなきゃ』っていういまの風潮もあるけど、僕たちは特に夢がなくてもいいと思う。自分らしく生きてくれれば、その先に夢も、そして自分にとっての幸せな生き方もみつかるかもしれないから(貴之さん)

 

あーいい所に来ちゃったな

どのように生まれてくるかは、とても大切なことだと吉村医師は強調する。

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「無理矢理引っぱり出されるのと、自らの力で産まれてくるのとでは子供のこの世への印象は全く違ったものになってしまう。この世を肯定するのか、『とんでもない世界だ!』と思うかではその後の人生に少なからず影響があると思う」

吉村医師は、どういうお産をしたか、が生まれた子の性格形成の根幹にあると確信しているという。

吉村医師の財産でもある、出産直後の家族を撮影した写真集を披露してくれた。どの赤ん坊もみな健やかな寝顔を見せている。

「うちで生まれた子はけたたましい産声ってほとんどあげない。それに血がついていないでしょ。自然なお産だと、生まれたばかりの赤ん坊もツルツルなんですよ。お母さんなんか仏様みたいな顔をしている。お父さんは聖徳太子みたいだ。これはごく普通の家族ですよ」

それぞれが至福の顔をして写真に納まっていた。 生まれたばかりの新生児がのんびりとあくびをしながらつぶやく声が聴こえてくるようだった。

「あーいい所に来ちゃったな」

そして、吉村医師もこうつぶやく。

「ワシ、毎日楽しくて仕方がない」

■取材・文 本荘そのこ  ■撮影 永田理恵

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